SS 川船の娼婦【妬いてるの?】 青ブラ文学部参加作品
大きな花火が打ち上がると小舟で抱き合っている二人を明るく照らす。
「大きいな」
「きれいだね」
隅田川で体を売って暮らす。船饅頭になったのは勘当されたからだ。男は粗末な手ぬぐいで一物をぬぐうと川船に寝そべる。櫓で、こいで船着き場に戻り客を帰す。安い駄賃で、そばを食べるだけの生活。
船を下りて夜鳴きそばを探した。
「一杯ちょうだい」
「あいよ」
三十二文を払って月見にする。黄色のお月さんが、そばのどんぶりで輝く。こんなことで幸せを感じた。
(ああ、おいしい)
「新太郎さん……」
ふりむいてぎょっとする。許嫁のお千代だ。いや元許嫁か……、夜鳴きそば屋にどんぶりを返して黙って戻ろうとすると
「体を売ってるって、聞いて探してました」
「今は、ただの陰間だ」
勘当されたのは陰間茶屋に入りびたり、店の金を使いこんだためだ。親父から「跡取りにできねぇ」と、追い出された。
「おとうさんが探しています」
「もう、遅い。こんな息子じゃ世間体が悪すぎる」
「毎日、男になぐさみものされて……」
「妬いてるの?」
客に使う声色で、女の声まねをすると頬を強く叩かれた。お千代は、黙って唇をかみしめて泣いている。
「すまん……」
「戻って……」
川岸に戻り粗末な川船を見つめて新太郎は、これからの人生を考える。家に戻ってお千代と夫婦になり、子を育てて、またその子が……
「新太郎さん」
「戻るよ」
ドーンっと大きく空に響くと、夜を焼くように大輪の花が咲く。男に抱かれることが幸せだった。これからも変わらない。
(焼いている、焼いているの?……)
新太郎は自分の中の女を焼き殺す。男として生きるために自分を焼いた。暗い夜道をお千代と歩きながら、男になるためにどうすればいいのか、ずっと考えていた……
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