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ご免侍 九章 届かぬ想い(二十五話/二十五話)

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あらすじ 
 ご免侍の一馬かずまの父が、散華衆さんげしゅう隠形鬼おんぎょうきだと暴露された。一馬かずまは、連れさられた琴音ことねを助けられるのか。大烏元目おおがらすがんめに会う一馬は、琴音ことねそっくりの城主と対面する。城に到着すると一馬たちは捕らえられた。


二十五

 城内は混乱しているのか雄呂血丸おろちまるが先導して、城から出ると敵は組織だって戦える状態ではない。

 しばらくすると、海賊の村上主水むらかみもんどがひきいる部下と隻眼せきがん鬼山貞一おにやまていいつが入城する。

「おう、おったのか、知らんままに大砲を撃ち込んだわ」
「お爺々様じじさまが、作られた大砲ですか」
「ああ、軽い砲を作ったからな何回も撃てぬ」
「母上は生きておりました」
「……桜姫は、本当に生きていたのか……」

 雄呂血丸おろちまるがなにやら村上主水むらかみもんどと話をつけて、城を焼き払う事にする。

「一馬殿、琴音ことね様は、鬼ヶ島に逃げられたご様子です」
「鬼ヶ島?」
散華衆さんげしゅうの隠れ城だよ」

 忍者の月華げっかが暗い顔をする、無人島に難攻不落の要塞のような城を作っていた。

琴音ことねを助けにいかねば……)

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「後はこちらで対応する」

 隠密頭おんみつがしら天狼てんろうと部下の雄呂血丸おろちまるとお仙は、岡山城で後始末する。山賊が古い城を不当に占拠したので、幕府側の隠密が焼き払った事にする。

 散華衆さんげしゅうと内通していた岡山藩の侍たちは、内々に切腹や蟄居ちっきょを命じられていた。

「ならば娘を助けないとな」

 祖父の鬼山貞一おにやまていいつは、海賊や散華衆さんげしゅうから解放して戦えそうな男達を集めて、鉄甲船てっこうせんを走らせる。

 鉄におおわれた船の上で一馬はいつまでも、家族の事を考えていた。

(なぜ母上はそこまで…、なぜ父上は幕府を裏切って、琴音ことねは、なぜ散華衆さんげしゅうと行動をしているのか……)

「また考えているのか」
「会って話せばいいじゃん」

 村上栄むらかみさかえ月華げっかが船べりで物思いする一馬と一緒に海をながめる。

「ああ、会って話するよ」
「そうだ、知らせたい事があるんだった」
「ん、何の話だ」
「一馬、あんたとは夫婦めおとにならない」

 村上栄むらかみさかえが、軽い調子で宣言する。

「ん……理由を聞いていいか」
兵次郎へいじろうが好きになった、顔がいいしな、船乗りだし」

 なんとなくわかる、船乗り同士で意気投合したのだろう。統率力のある兵次郎へいじろうは、海賊の婿養子になっても変わらないと思う。

「それは、良い事だと思う」
「だろ、あんたはやっぱり海で生きる男じゃないよ」
「うん」
「でも腹にやや子ができたら、お前の子だな」

 ぞくりとして村上栄むらかみさかえを見る。笑っている彼女には悪意は、まったくない。きっと生まれても大事に育ててくれると思う。

「一馬……」

 海はとても晴れて天気がいい、一馬はまっすぐ水平線を見続けた。月華げっかを見る事はできなかった……

次回の章が最後です!

#ご免侍
#時代劇
#届かぬ想い
#小説


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