サムライモンキーズ ケモナーワールド
鬼頭(キトー)は猿族だ。茶色の毛が全身に生えている、ニホンザルのDNAが組み込まれているらしいが俺には難しい話は判らん。手に持った日本刀はかなり研ぎすぎなのか通常より細い。「そろそろ取り替えるかな」俺は瓜を食いながら、座っている。半首(はっぷり)の下の毛がかゆい、顔の外側を守るために鉄の輪のような防具を顔につけている。指を入れてかいた。ノミがいるのかピョンピョンと虫が逃げる。瓜を半分くらい食べると、広東(カントン)が戻って来た。でかい同田貫(どうたぬき)を、かついでいる。腕力が無いと扱えない代物だ。こいつが俺の下で働いているのは、野心があるからだ。俺も今の組織に不満がある、時期が来たら動くつもりだ。「そろそろ始まるぞ」広東は、落ち着いている。こいつはたまに何を考えているか判らない事もある、信用できない。俺は腰を上げると、戦場へ向かう。
怒号と重い金属音が響く戦場は一種の遊戯に近い。力比べかもしれないが実際に行われている事は殺し合いだ。本能なのだろう、縄張りという概念に縛られる俺たちは、常に争っている。争わないと同グループでケンカが始まる。そのために他のグループと戦う事でバランスを取っている。他の動物の種族から見れば奇妙な行動だ。「もう始まってるのか」俺は無秩序に戦闘しているこいつらを見ると、本当に愚かに感じる。俺は異端なのかもしれない。日本刀を肩にかつぐと俺は突進する。敵味方の識別は適当だ、たまに味方も殺す事があるが不問にされる。殺される方が悪いからだ。肩にかついだ刀を腕で切り下げるように落下させて敵を倒す、そしてまた刀をかつぐ。この動作を繰り返すだけだ。重い刀を握って振り回すなんて事はしない、すぐに腕が疲れるし痛くなる。目標を定めて反復行動をする。地面に十名くらいの死体が転がると小休止だ。これからが本番になる。雑魚が倒されると腕自慢が一騎打ちを望む。
大きな体の猿が俺に向かってきた。獲物は両端に重い金属がついた槍のような武器に見えた。錘(すい)に見えるが両端に錘(おもり)がついている、重量があるためか両端につけてバランスを取っている。これを振り回せば多数の敵を倒せる。遠心力で回る金属塊は当たれば骨折するし、肉をそぎ落とす事も可能だ。一撃を食らえば戦場では致命傷になる。俺は肩にかついだ刀を腕で支えて、青眼の構えをする。古い時代の剣法で中段の構えらしい、刀を相手正面に向ける。錘(すい)を回転させながら敵は突進してくる、間合いに入る瞬間に俺は下段の構えに切り替えると足首を狙う。切り上げるように足首を飛ばした。攻撃速度は俺の方が速い、重い金属を一定の速度で回せるわけがない、隙をつくのは容易だ。大猿が倒れると俺はそいつの頭を踏むと刀を使い喉を切り裂いた、鮮血を飛ばしながら俺は血まみれになる。
広東も血まみれで俺に近づいてくる、殺気だっているので誰への敵意なのか判別がつかない。広東に顔を向けると「そろそろ戻るぞ」と反応を見た。まだ戦い足りないのか?それとも俺と一騎打ちをしたいのか?。「判った」無口な広東は俺から目をそらす。俺たちは目を凝視するのは殺し合いの合図だ。刀の血脂をぬぐいながら戦場からゆっくりと離れた。村に戻ると負傷した猿たちで一杯だ。こんな事を毎日している。縄張りを増やしたり減らしたり、小さな土地を奪い合うのを楽しみにしているこいつらの事を俺は軽蔑している。だからと言ってそれ以外に何をすればいいのか俺にも判らない。遊戯で一日をつぶす。そして村の中で少しだけ地位を上げる。それで満足する。「馬鹿げている・・」広東が「何か言ったか?」と不審げに俺に聞いてくる。「別に何でもない」俺は広場の真ん中まで歩くと着物姿の子供のような猿が歩いてきた。「話がある、来い」この村の長(おさ)の娘だ。
「鬼頭と広東は、疣猿(イボザル)へカチコミに行け」長(おさ)の部屋で俺は命令をされた。威力偵察なのだろう、定期的に相手の力量をさぐる。もし弱体化していれば総攻撃をする。大体は成功はしない。相手も備えているし砦を攻めるのは相当の数を用意しないといけない。今回は相手の戦力を確認するのが目的だ。織姫(オリヒメ)は、まだ幼いが病気の親方の娘という事で、命令を皆に伝えている。俺たちの組織は親方への忠誠が想像より強い。そして猿にしてはかわいい織姫はやはり猿達には人気がある。誰も逆らうつもりは無い。「判った、どこまでやる?」俺は威力偵察なら、あいつらの砦の中まで入って暴れる事を考えた。「軽くでいいよ、近づいて矢とか飛んできたら逃げろ」俺は拍子抜けをする「そんなのでいいのか?」織姫は笑いながら「疣猿の砦を見れるのか?」と挑発してきた。近づく事すら難しいのか。「判った」と俺は立ち上がり外に出ようとした「命は大事にしろよ」織姫が俺に声をかける。
「どのルートで行く?」広東は薄目にして山頂を見ている。「偵察だからな、正面から行こう」俺はどこまで進めるか試したかった。道のあちこちに監視場所もあるだろう、どこから矢が来るのか、どれくらい警備をしているのかを確認する。ゆっくりと山頂を昇ると、広東が「お前はどこまで行きたいんだ?」と聞いてくる。俺は偵察の話だと思い「どうかな中腹まではいけるんじゃないのか?」あまり警備を配置しまくるのも意味は無いだろう。「違う、お前は織姫を手に入れたいのか」広東は無感情のままだ。まるで昼はどんな飯を食うのか聞いているように聞こえる。「俺たちの村は序列が厳しいからな、手柄を立てないと上にはいけないよ」実際に長の娘に手を触れる事すら難しいだろう。「俺が先行する」いきなり広東が走り出す。「おいやめろ馬鹿」いくら強くても飛び道具は危険だ、当たれば命を奪う。ここは普通の戦場とは異なる。仕方が無く走りだすが、俺はこれはこれで良かったのかと思う。走る獲物を仕留めるのは難しい。
予想通りに矢が飛んでくる、俺たちは古来の人間とは異なる、動体視力が良い。矢を避けてジグザグに走る。俺はこの遊戯が楽しく感じてきた。しばらくすると門が見えた。敵が集まっている。頭の中はいつものように広場での戦闘遊戯の状態になる。俺は刀を担いで突進した。振り下ろして担ぐ、繰り返しながら縦横無尽に敵を殲滅させた。「思ったより楽だったな」中腹の門がこんなに簡単に落とせるとは思わなかった。まぁ雑魚が監視をしていただけだろう。「広東はどうした?」先行したあいつが見えない、俺は閉じている門を見た、やはり頑丈で中からしか開けられない。外側に居た警備の猿を倒しただけだ。「終わったのか?」広東が声をかけてきた。俺は振り向くと同時に頭に同田貫(どうたぬき)を打ち下ろされた。重量のある刀は打撃武器と同じだ。目眩がするがすぐに横転して片膝になる。「なぜだ?」俺は言葉にしたが理由はわかっている。手柄を立てて地位を上げたいのだろう。一人で戻ればそれだけ注目を集めやすい。油断をした俺が馬鹿なだけだ。広東は先行したと見せかけて道から外れて隠れていた。顔につけている防具は損傷を受けている、何回も攻撃は受けられない。俺は立ち上がると道から外れて山腹を降りた、矢が飛んでくる。今更のように敵は攻撃をしてきた。矢を何本か体に受けると痛みで体を動かせない。俺は山腹を転がるように落ちながら下の激流を確認した。
続く
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