SS 占い師マイカの毎日:正義【ワールドザワールド】
あらすじ
女神の見習いのヒサギが悪魔に取り憑かれた。祠の中にある万魔殿にヒサギは閉じ込められる。万魔殿には日本の東京の街が広がっていた。楸を見つけるが父親である悪魔に騙されている。舞夏達は楸を追いかける。
荒事になるので【力者】とライオンを呼び出す。【力者】は普通のワンピースを着た若奥さん風だ。ライオンはその隣でヤクザのような黒いジャージ姿。背中に金色で竜の刺繍がある。恥ずかしい。まるで素人と不倫している反社みたいなカップルだ。
極道カップルとサラリーマンの【コレクター】と私達が楸を追いかける。幸いなのか私はこの世界でも占いの力を使える。羅針盤のカードで方向を確かめながら、悪魔の住む家に到着する。
貧相な2階建てのボロアパートは賃料が四万くらいに見えた。一階に居る。表札に亜熊と書かれている。安直だ。チャイムを鳴らす。
「舞夏さん…」
困惑している楸が顔を出す。私は楸の横をすり抜けて部屋に入る。悪魔が寝そべっていた。こいつもジャージ姿でテレビを見ている。二十五平米も無い狭い部屋だ。年頃の娘と父親がこの部屋で寝てると思うと目眩がした。
「この悪魔!」
怒鳴ると悪魔は私を見る。どんよりとした目は生気が無い。こいつは本当に悪魔なのか?万魔殿を作った奴には見えない。ワンピース姿の【力者】が部屋に入る。
「こいつはこんなもんよ、怠惰だし馬鹿で物事を悪い方向に導く事しかしない」
タロットカードを間違って落とした【コレクター】も部屋に入る。
「彼をまずカードに戻さないといけません」
「え?頼むの?」
カードに戻す方法を知らない。今まではお願いをしたり、勝手に戻ってくれた。
愛娘も入ると部屋が狭い。
「どうする?ぶんなぐる?」
ライオンも部屋に入る。
「殴っても無駄だぜ、なにしろ馬鹿で話が通じない」
なるほど。さすが悪魔だ。説得や暴力で行動を制御できない。
「あの…戻れないんです」
楸も部屋に入る。ぎゅうぎゅう詰めだ。私達は畳敷きの部屋で座ると相談を始める。
「おい悪魔、お前は楸ちゃんを使って世界を悪に染めるんじゃないのか?」
ライオンが悪魔を小突く。
「ああ?もう世界は作ったぜ、悪の世界だ、ここがな」
不貞腐れたように悪魔が説明する。薄汚くて欲望にまみれた東京を楸の力で作る。悪魔は毎日だらだらテレビを見ながら娘に飯を作ってもらう。最高の気分だ。
みなが無言だ。そんなもんのために万魔殿を作ったのか、頭が悪すぎる。
楸も説明する。この世界は悪魔に騙されて作り上げた。そして世界を維持するために私の力を利用している。
「ならやめればいいじゃん?」
愛娘が不思議そうに聞く。
「もし私が力をとめると、友達もみんな消えてしまう…」
自分の作った世界で生きている彼らは偽物ではない。半神である楸が作り上げた現実だ。私はぞっとした。騙されて作り上げても中で生きている彼らには現実でしかない。それが突如崩壊するとしたら?
「私はこの世界で生きていきます」
決心したように楸は答えた。私達は黙る。もう悪魔の問題ですらない。
「それは違うぞ」
鞄が動くと【正義】と名乗る左手に天秤を持つ女性が出現をした。タロットカードからまた新しい召喚者が狭い部屋に降り立つ。
「悪の力で作られたものは、断じて許さない」
両刃の剣を右手で抜くと悪魔に向けた。
続く