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SS 【デジタルバレンタイン】【SFチックな】#毎週ショートショートnoteの応募用
「突入せよ」
ジリジリとした時間から解放される喜びで、下肢が跳ね上がる。任務は単純だ、人質の救出。
「隊長はバレンタイン知ってますか」
「古代の風習だったかな……」
義体の体は高価なサイボーグ素材で作られている。隊長の義体は、ゴリラのような巨大な胸をしていた。
「昔はチョコレートを好きな人にプレゼントしたんですよ」
「チョコってなんだ?」
義体は人間の食べ物を分解はしない。食べられるが溶かすだけで栄養にしない。代わりにサイボーグ用のゲル状の流動食が使われる。隊長は口にしていたボトルをゴミ箱に捨てる。
「茶色くて甘いんです」
「甘いのか、甘いのは好きだよ」
笑顔が無骨でかわいい。いや笑ってるように見えただけかな? 四角い顎には表情筋は無い。
「いくぞ、ニンゲンの少女を助ける」
「リョウカイ」
十三歳の少女は殴られたのか顔が歪んでいる。犯人は狂った給仕ロボットだった。複数の手を出して少女を抱きかかえている。
「カエレ……」
「クソッが」
本来は乳母型のロボットだ、ひたすら彼女を守ろうとする、逃げようとした少女を拘束している。このままでは、絞め殺してしまう。
突進と同時に体を高速回転する、小さな体は犯人の頭を狙う。成功した、いや成功する筈だった、犯人は少女を放り投げて私を全力で攻撃した。
横殴りに頭を複数の腕で殴打される。
鈍い音で頭部が潰れるがまだ脳は平気だ、突進の勢いのまま胸の動力源を前腕で貫く。
「ひでえな、大丈夫か」
「隊長、人質は?」
「大丈夫さ、お前の方が重傷だ」
猫型の小さな体を抱きかかえて隊長は現場を離れる。後で少女からデジタルメッセージでチョコレートが配られた事を知った。
「デジタルバレンタインだってよ」
「そうなんですね」
ボトルからチョコの甘い香りがする。隊長はおいしそうに飲み干した。私は甘いのは苦手、隊長にあげるわ。
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