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SS 不機嫌な月【夜からの手紙】#毎週ショートショートnoteの応募用
コトンと玄関先の郵便受けから音がする。
「夜からの手紙かな……」
縦長封筒に入った便箋を引っ張り出すと『夜遅く申し訳ないが来てくれ』とだけ書かれていた。とりあえず外に出るともう夜なのでまっくらで何も見えない。
(昼に手紙をくれれば……)
昼ならば黄色い太陽が世界を照らしてくれるが、夜は遠くの星明かりだけで歩かないといけない。最近は月もさぼりがちで夜に寝ているのか、暗闇が続いている。
「やぁ、待っていたよ」
「なんの用だい?」
夜がレンガ造りの壁に背にして立っている。どうやら月の件だ。
「月が冷たいんだよ」
「喧嘩でもしたのか」
月が出ないのは夜との仲違いで、顔を見たくないと駄々をこねている。街のみんなも困っているのでなんとかしてくれと頼まれた。
「なに簡単さ」
夜の名前を借りて月餅を月の郵便受けに入れる。翌日から明るい十銭玉のような月が笑っていた。