ご免侍 八章 海賊の娘(十九話/二十五話)
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あらすじ
ご免侍の一馬は、琴音を助ける。大烏城に連れてゆく約束をした。母方の祖父の鬼山貞一と城を目指す船旅にでる。一馬が立ち寄った島は、水軍が管理していた。海賊の娘、村上栄は協力する代わりに一馬との婚姻を望んだ。海賊の港に鉄甲船が突入する。散華衆の四鬼、大瀑水竜は一馬に倒される。
十九
一馬はぐっと腕で琴音を体から離す。そして顔を見る。やわらかな頬やまっすぐな鼻すじ、赤くふっくらとしたくちびる。何もかもが大事に思える。
「どちらにしろ大烏城には行く事になる。その神を見るために」
「はい」
水野琴音は、静かにうなずく。もっと何か言いたいこともあったが、今は我慢する。
くるりとふりむいて部屋を出ようとするが、本当に自分の体なのに動かす事ができない。たまらずにまた琴音を見る、眼をつむった彼女は黙って立っていた。一馬は自然に琴音に近づき、やさしく頬と頬をつけて抱きしめる。
「すけべぇだね」
ぐっと息がつまりそうになると眼だけで声の主を探す。そんな事をしなくて相手は判っている。お仙だ。
あわてて体を離すと横で、お仙がうっすらと笑って見ていた。
「あんたは本当に抜けてる所あるねぇ」
「ああ、うう、すまん」
なぜか謝る一馬から、水野琴音を引きはがす。
「大事な身なんだから、変な事されないように見張っとくよ」
「うむ、すまんが頼む」
逃げるように海賊の屋敷から外に出た。外は夜なのに松明のせいでかなり明るい。外で飯を食べている島民も多くにぎやかだった。
(俺は何をしている……)
一馬は自分が多淫だとは思ってない。見境もなく女を抱かない、商売女の場合は、病気もあるので一馬は安易に手をださなかったが……今は身近の女達に手を出そうとしている。タガがどこかで外れようとしていた。
夜道を月明かりをたよりに歩く、少し遠くに浜辺と暗く鉄甲船が浮かんで見えた。巨大な鉄甲船は、甲板までは平屋の高さくらいはある。
今は鉄甲船の甲板の上にもかがり火があり、明るく輝いていた。