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SS 終わりの日1 台にアニバーサリー #毎週ショートショートnoteの応募用
「ありがとうみんな、さようなら」
演舞台で彼女は、ほほえんでいた。幸せそうな彼女は不幸だった。
「なんなんだ、不公平だよ」
彼女は俺の推しだ。二周年記念のステージで、難病を告白する。
演舞台にアニバーサリーステージの垂れ幕も華やかだ。みなが祝福する最高のステージになるはずだった。
「なんでだよ……」
彼女は闘病のために引退をするが、長く生きられないと判っていた。推しが死ぬ。それだけで俺は絶望する。
「どこかに神様いねえのかよ……」
「いるよ」
ふと顔をあげると、黒コートの男が立っている。
「誰だよ」
「呼んだだろ」
「お前は神様なのか」
「とんでもねえ、あたしゃ死神様だよ」
ジョーク? とは思えない雰囲気が彼にはあった。
「等価交換だ、お前の命と彼女の命を交換しよう」
「できるのか?」
「できるさ」
「ならお願いだ、彼女を助けてくれ」
推しは俺の命だ、推しがいなくなるくらいなら、俺が代わりに死ねばいい。
彼は、にやり、と笑ったように見えた。死神が手を伸ばして俺の頭をつかむ。
「約束は守るよ」
xxx
目を開いたときは白い天井が見える。起き上がれずに体も重い。それどころが思考がまとまらない。常に『腹減った』『おしっこ』の事ばかりだ。
「あら目を開けてる、葵ちゃん」
推しだった彼女が笑っている。俺は嬉しくて笑い出した。
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