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SS 太郎の仕事【お題:#気になる口癖】青ブラ文学部参加作品

 その昔、村のすぐ近くの山に大きな岩が乗っていた。

「大きな岩だのぉ」
「落ちると村がつぶれるのぉ」

 みなが心配するが落ちる事は無い、落ちないのだから心配するだけ無駄だ。だから村人は岩の事を忘れていた。

 その村には一人の大男が住んでいる。名は太郎、この男は力は強いが、なまけもので働きもしない。口癖は「忘れろ」だった。女房が働いて自分は何もしないから村人からは評判が悪い。

「すいません、疲れているようで……」
「なんもしないのに疲れるわけがない」

 村人から責められて、女房はつねに頭を下げていた。太郎は元は村の宮司ぐうじの家系で誰よりも長く住んでいた。そんな関係から、村人はあまり強くは言えない。それでも不満はたまっていた。

 ある日、大雨で崖崩れが起きると誰もが心配する。村のみんなで相談するために、大きな部屋がある宮司ぐうじの家に集まった。

「あの岩が落ちないか」
「どちらにしろ落ちたら終わりだ」

 誰もが心配していると、太郎がぽつりとつぶやく。

「忘れるなよ」

 誰もが不思議に思った、気になる口癖の「忘れろ」とは正反対の言葉だ。

 その時にぐらぐらと地面がゆれる、土砂崩れが来る。みなが恐怖すると太郎は、飛ぶように走り外に出た。あっけにとられた村人も外に飛び出ると、そこには巨大な鬼が立っている。

「約束は果たすぞ」

 みるみると大きくなる太郎は山と同じ大きさになる。そのまま岩を抱きかかえる。彼は山になった。

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「夫から教えてもらいました」

 女房は、ぽつりぽつりと村人に話す。大昔、この村の娘が小鬼を助けた。恩を感じた鬼はずっと村を守るために、生き続けたという、鬼が死んでも妻との間の子は鬼になる。そして鬼は毎夜、大きな岩が落ちないように、あらん限りの力で引っ張った。だから岩は落ちてこない。

「すいません、私はあの人と子を作れず……」

 しかし山は二度と崩れることはなかった。

#気になる口癖
#昔話
#青ブラ文学部


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