
SS 袋の中【海のピ】#毎週ショートショートnoteの応募用(600文字位)
目が覚めると寝袋の中だ、テントで寝ている自分の横に女がいる。同じように寝袋に入って頭だけ出ていた。髪が長く伸びているから女だろうと思う。
「……誰だ」
寝袋に入った記憶が無い。起き上がろうともがくが動けないのは、寝袋ではなく黒いビニール製の遺体袋のためだ。腕をだしてチャックを開ける。
「どこだろう」
記憶が途切れている、仕事の事、家族の事、自分の名前。記憶はあるのに別人のように感じる。
「確か、浜辺で転んだような」
「ええ、転んで死にました」
テントが外から開けられると太陽の光でまぶしい、女医が俺を見つめている。
「死んでないよ」
「死んでいます」
「俺は……生きてる」
「死体です」
女医は頑強に否定している、冗談には感じない。
「ピラレプトス病で死んでいます、通称で海のピ」
「はははっ」
乾いた笑いで誤魔かしている自覚がある。俺は死んでいるのに女医と会話している。となりの死体袋が動き出すと女がもがくように這い出す。
裸体はヌルヌルの液体でおおわれていた。
「なに゛ごれーっ」
絶叫した女の顔が崩れると眼球の部分から、足の生えた極彩色の蟲が出てくる。
「感染すると脳を食べて眼から外に出てくる寄生蟲です、海岸で怪我をすると体内に入り繁殖します」
俺はもう何も聞こえない、激痛で何もわからない、脳が蟲の視点に切り替わる。複眼で世界を見ていた、俺はもう蟲だ。海岸で卵を産まないと……
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