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ご免侍 八章 海賊の娘(七話/二十五話)

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あらすじ 
 ご免侍の一馬かずまは、琴音ことねを助ける。大烏おおがらす城に連れてゆく約束をした。母方の祖父の鬼山貞一おにやまていいつと城を目指す船旅にでる。一馬かずまが立ち寄った島は、水軍が管理していた。海賊の娘、村上栄むらかみさかえは協力する代わりに一馬との婚姻を望んだ。


「一馬」

 琴音ことね月華げっかが声を合わせて歩み寄る。こうしてみるとまるで家族のように見える。姉が琴音ことね月華げっかが妹だ。

「今日はどこに泊まるんだい」
「やはり土の上は安定してますね」

 船旅で散々な目にあっているから、動かない地面に立っているだけで嬉しそうだ。祖父の鬼山貞一おにやまていいつが大きな屋敷を指さす。

「今夜は村上主水むらかみもんどの屋敷に泊まるぞ」
「やった、ごちそう出る」
「おふとんの事を考えただけでうれしい」
「それでじゃ、一馬はここで暮らす事になると思う」

 ちらりと一馬の顔を見る。

「ここに住むんだ」
「気候もあたたかくていいですね」

 また汗がにじみ出る。その様子を不審に思ったのか月華げっかが気がついた。

「……ねぇ、江戸には戻らないんだ」
「……」
「なんで黙ってるの」
「なりゆきで仕方がない」
「なりゆきって何」

 村上栄むらかみさかえが背後から近づく、背丈が高いので一馬と同じくらいか、少しだけ高い。だからかなり大きく感じる。

「お連れのおなご衆ですか」
「あんた誰」

 殺気をふりまいて月華げっかが怒鳴る。まるで猫の喧嘩だ。

「まて月華げっか、落ち着け」
「私は一馬様を婿むこにむかえます」

 場が凍りつく、文字通りに誰も動けないが、祖父だけはスタスタと村上主水むらかみもんどの屋敷に歩いていく。

「あとは頼むぞ、一馬」
「あ、おまちを」

 その場から離れようとすると、腕をつかまれた。見ると琴音ことねだった、涙をにじませて、悲しそうに見える。

「まて泣くな」
「あの時の約束は嘘かい」

 太ももをおもいっきり蹴られた。露命月華ろめいげっかが憤怒の形相で刀に手をやる。

「うむむ、みな待ってくれ、いたたたた」
「私は、みなをめかけとしてむかい入れるぞ」

 村上栄むらかみさかえが、さらにややこしい事を言うと、もう後は怒鳴り合いだった。

(誰か助けてくれ……)

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