SS 弥勒【12月】 #シロクマ文芸部
※シュール注意
12月のカレンダーを見ていると違和感がある。あまりにも早く年末が来る。
「なぁ、もう12月だよな」
「そうよ」
妻がソファーに座りながら、おかきを食べて、お茶を飲む。熱心に韓国ドラマを見ている。最近だと中国の恋愛ドラマが好きらしい。
「年末かぁ、正月もすぐだな」
「そうね」
興味なさそうに返事する。妻の後頭部を見ながら自分で珈琲を入れて飲む。娘が成人してから家はさみしい。まるで誰も住んでないように感じる。
「明日も早いから寝るよ」
「おやすみ」
感情の無い妻の声を聞いて、寝室に入る。もう寝室も別だ。妻は娘の部屋で寝ていた。さみしさもあるが、気軽にも感じる。独り寝になれていた。
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年越しそばを食べて、除夜の鐘をTVで聞く。正月かぁと思うが新鮮にも感じない、毎日は平凡のままだ。正月らしい事もしなくなった。初参りもしていない。
「なぁ、たまには神社にいくか?」
「いかない」
妻の後頭部を見ながら支度して近くの小さな神社まで歩く。境内に誰かいるかと思ったが誰も居ない。シンと静まりかえった神社にお賽銭を入れて鈴をならす。
「平凡な毎日を暮らせますように」
平和で平凡な日が癒やしだった。
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「おい、カレンダー……」
「どうしたの」
「1月じゃない」
「当たり前でしょ、今月は13月よ……」
平和な毎日が繰り返される、13月の次は14月……誰も騒がない、ニュースは毎日同じ事しか流さない、気が狂いそうになる。仕事に行ってもずっと年末のままだ。何一つ変わらない毎日。
妻の後頭部を見つめながら、なぜ妻がふりむかないのか判らない。俺はTVを見ている妻の正面に立つと……妻の後頭部が見える。前後左右、後頭部だ。
「ははははっ」
俺は狂った、12月の終わりを望まないからバチが当たった。それからは部屋から出ていない。カレンダーもめくらない、カレンダーは辞書のような厚さで数千年分はあると思う。飯を食わなくても死なない俺は時間を持て余すので座禅している。きっと太陽が死滅する五十六億年後に答えが出るだろう。
今では判る、来年になる貴重さを……
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