SS 生き返った娘【見つからない言葉】 #青ブラ文学部
「ごめんなさい……ありがとう……さようなら……」
どう言えばいいのかわからない。
顔に飛び散った血を手でぬぐう。手に持った石を落とした。お坊様は、もう死んでいる。
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貧しい村に生まれた娘は売られるか口減らしで殺される。娘は器量がよくないから買い手がつかない。
「とっちゃん、どこいくの」
「そこの原っぱさ」
何をするのか判らなかった、悲しそうな父親は歩きながらずっと娘の頭をなでていた。
「ここさ、座れ」
「ここ……」
何も無い地面に尻をつけると、すぐに頭を叩かれた。固く尖った石は後頭部を砕く。娘は何をされたかもわからずに眠るように死んだ。
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気がつくと坊さんが顔を見ている。とても良い匂いがした。あとでお香の匂いと教えてくれた。
「……ここどこ」
「どこでもない、お前は死んでいたんだ……」
坊さんは反魂丹で娘を生き返らせた。坊主も一人で修行はさみしいから、のざらしの骨から女を生き返らせる事にした。坊主は娘を連れて、勧進をして回る。勧進は、道行く人から喜捨をもらえる。
「喜捨って何?」
「私たちを助けてくれる事さ」
人通りの多い場所で立っていると娘の椀に、金やら穀物を恵んでくれる時もある。しばらくは幸せだったが、いつしか娘を見て避ける人が増えた。
「なんか、気味悪いねぇ」
「まるで、死人のような顔色……」
術で生き返っても死人でしかない。徐々に術が切れはじめる。
「坊さん、どこいくの」
「そこの原っぱさ」
とっちゃんと同じだ、いらないから殺す。はじめの頃は抱いて寝てくれたのに、気味悪く感じて遠ざけられていた。坊主は立ち止まると娘の頭をなでた、しゃがむと数珠を取り出す。
「すまんな、ここで……」
「いや!」
娘は隠し持った石で坊主の顔を殴る、何回も殴る、息がたえるまで殴った。青白く透けそう肌は、飛び散った血で真っ赤に濡れる。娘は悔いていたのか、悲しいのかわからない。
娘は坊さんに何を言えばいいのか判らない、見つからない言葉を考えても判らない。
「なむあみだぶつ」
お坊さんのお経をとなえると、心が軽くなる。そうだ家に戻ろう、自分が生きていると判れば、とっちゃんと暮らせるかもしれない。
一歩、二歩と進む。体から骨が落ちた、落ちた腕の骨を見る娘は、その場でカラコロと、のざらしの骨に戻る。それっきり何も音はしない。