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輝かせるのもお仕事です
コンテストの締め切りを間違えて
慌てて書いたらまだ先でした。
ざーっと、手で下書き→音声入力して
タイトルを決めて読み返してみたら
なんかちょっと気持ち的に変な感じがしました。
でも結構一生懸命書いたので
お蔵入りするにはもったいなく。
読み手にお任せしようと思います。
社内メールが来た。
中途入社の森山さん(仮名)からだ。
お花の展示をしたいので
玄関ホールを使いたい旨の申請書。
レイアウト図も付いている。
ちょっとおどおどした感じだけれど
森山さん、お話するのが好きみたい。
備品を借りにうちの課に来ると
何か私たちに話したそうな感じ。
食堂で目があって何度か相席したことがある。
するといきなりぼやきから始まる。
「夏休み取りました?うちの課、早いもん勝ちなんですよ」
森山さんは気軽に話しかけてくれるけど、
ふと年齢を知りたくなった。
「38ですよ。もう私、一生1人なんじゃないかと思って保険入っちゃいましたよ」
お花展示の当日。
館内にいるお客様にも
展示をぜひ見てもらいたい
ということで館内放送を午前と午後の
2回入れるそう。
「♪〜〇〇課からお知らせします。本日玄関ホールにて…」
森山さんの声だ。
課内がざわつく。
館内アナウンスは
普通、女性だからだ。
「そこ、やっぱり女性の声だよね」
ぶつぶつ言いながらも聞く。
ただ、声は悪くない。
強いて言えば、森本レオを
もっとボソボソした感じだ。
放送が終わり、別件でうちの課に来た
森山さんに声をかけた。
「もう他課からも非難ごうごうでしたよ。なんで女性にしないんだって」
私は言った。
「森山さんさぁ、声が森本レオに似ていい声だから、そっちに寄せていけばもっと良くなるよ」
午後のアナウンスもめげずに
森山さんが担当した。
ボソボソ声は変わらなかった。
「せっかくいい声なんだから、もっと森本レオに寄せてくれればいいのに」
「声を作ってくれればいいのにねー」
女性はよそゆきの声を出すのに慣れている。
男性にはなじまないのかもしれない。
しかしここはオフィシャルな場所。
「型」とか「作って」くれたほうが
しっくりくる。
悪く言ってばかりのようだけど
決して嫌いなタイプでは、ない。
昼下がり。
眠気覚ましに玄関ホールの展示を見に行った。
そこには10×5×2メートルほどの
スイートピーの丘ができていた。
花台を持ち込んで高さと奥行きを出した展示。
色でパート分けした部分と
グラデーションにした部分。
ポイントが分けてあり
それぞれ撮影スポットまで設けてある。
華やかとはまさにこのこと。
圧倒的な量なので玄関ホールいっぱいに
生花の香りがして一気に気分が明るくなった。
森山さんが担当者として
少し離れて現場を見ていた。
私は近寄って声をかける。
「すごいね」
「私は何もやってないんですよ。あのおじさん(花卉農家さん)たちはああ見えて、花の「見せ方」を知っているんですよ」
確かに展示しているのは華道家や
フラワーアレンジメントの先生ではなく
普通の農家のおじさんだ。
けれど即売会や展示会に参加したりして
お花を美しく見せるノウハウを
持っているのだろう。
お花はただそれだけで美しいと思っていた。
それをさらに美しく「見せる」
なんだかアイドルとプロデューサーの関係が
思い浮かんだ。
肩にカーディガンこそかけてない
名プロデューサーたちが
持てる技術を結集して花(アイドル)を
最高に美しく見せているのだ。
「見せ方を知っている」
しばらくその言葉に痺れながら
自席にたどり着いたとき
ふと「素朴な」森山さんのことが頭に浮かんだ。
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