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Special Victim Unit②

2022年の大相撲五月場所の初日に、庭にキジトラの美猫がやってきました。
美しい姿勢で尻尾をくるんと前肢をかくすように、まるでオブジェのように佇んでいます。私は彼女を「溜姫」と名付けました。丁度、相撲の溜席に凛とした姿勢で座る美し方が話題となっていたときでした。テレビに映る彼女の姿勢がとても美しかったこと、姿勢を崩さず、じっと相撲を見ている彼女は一部の相撲ファンから「溜席の妖精」と言われていました。そんな彼女と庭のキジトラを重ねたのです。
そんな溜姫が、秋場所の初日、コロコロとした白黒のハチワレ仔猫を連れて庭にきました。母親の細く凛とした姿に比べ、仔猫はほぼ球体というくらいコロコロしています。木の枝で遊んでみたり、柿の木に上ってみたりと、興味津々、好奇心いっぱいで動いていました。仔猫は警戒心も強く、御飯を持っていくと、コロコロの体で必死に物置の下に隠れてしまいます。男の子か女の子かわからないけれど、溜姫のにちなんで「桟敷」(桟敷席から)と名付けました。
桟敷は徐々に大胆になり、私が木の枝で地面をなぞるとそれを追いかけて遊ぶようになりました。
そして大相撲九州場所が始まった頃、妹が「桟敷が大きな猫に追いかけられている」と、心配そうに言いました。「あの大きな猫、いつも見るオス猫だ。もしかしたら桟敷、女の子なのかも」と言います。少しずつ大きくなり、まん丸だった体形は何となく卵型くらいまでなってきたけれど、まだまだ桟敷は仔猫コネコしています。オス猫に追いかけられているとしたら…と、家族で相談し、保護をすることにしました。少しずつ慣れてきているとはいえ、まだ触らせてはくれない桟敷。一丁前に「シャー!」と威嚇もしてきます。私は用心深く、お気に入りの木の棒にじゃれさせながら桟敷の警戒心が緩む瞬間を狙っていました。遊びがエキサイトしてだんだんと距離を縮めた瞬間、桟敷を捕まえることに成功!すると捕まった瞬間は前肢をバタバタさせて嫌がったものの、すぐに喉を「ゴロゴロ」と鳴らしはじめました。
用意しておいたゲージに入れると、すぐにハンモックに飛び乗って遊び、中に用意したトイレも上手に使っています。その順応性の高さに驚きつつ、無事保護できたことに安堵しました。
保護して二日後、妹が桟敷を病院へ連れていきました。病気にかかっていないかを診てもらうためとノミ取りの為です。先生に「大きな猫に追われているところを保護しました。まさかとは思うけれど妊娠していないか見てください」というと、先生は「この小ささでまさか…」といいつつレントゲンで調べてくださいました。
…桟敷は妊娠していました。少なくてもお腹に二匹いること、もしかしたら三匹かもしれないとのこと。桟敷自身がまだ発育途中の仔猫なので、このまま妊娠を続けても子供は上手く育たないであろうこと、万一順調にお腹の子が育っても、出産に耐えられる大きさではないので子供も桟敷自身も出産で命を失ってしまうこと…
先生と相談した結果、桟敷がもう少し環境に慣れて体力をつけてから避妊堕胎の手術を行うことになりました。
何も知らない桟敷は仔猫らしい興味津々の目つきで見るもの全てをオモチャし、元気にはしゃいでいます。家族が様子を見に行くと、甘えたくてすぐにゴロゴロと大きな音を立ててノドを鳴らします。
母と妹と三人で、そのしぐさと妊娠の重みを感じ、泣いてしまいました。
 
保護から二週間後、桟敷は堕胎手術を行いました。胎児は結構大きくなっていて、3匹いたそうです。本当にこのままでは母子ともに死んでしまっていたでしょう、「今回は保護・手術できてほんとうによかったと思います。この子の命を救うことができました」と先生はおっしゃりました。
家には11歳のダックスフンド、2匹の黒猫が既にいます。これ以上は家では飼う事ができないので、桟敷には里親を探すつもりでした。
ですが、辛い手術を乗り越えて帰宅した桟敷が嬉しそうにゲージのハンモックでノドをゴロゴロ鳴らす姿を見て、もう誰も「里親を探そう」とは言わなくなりました。

私は「Law&Order Special Victim Unit」というアメリカの犯罪ドラマが好きで、観ています。レイプ、小児虐待などを取り扱ったドラマです。桟敷の妊娠はこのドラマと重なって考えてしまいました。猫とはいえ、あんな小さな仔猫がレイプ・妊娠するなんて…。
2年間のネグレクトを経験したダックスフンド、そのダックスから帰宅が遅いと暴力を受ける私、小児レイプ被害者の桟敷。我が家はまさに「Special Victim Unit」なのです。


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