野良猫の避妊手術
家のまわりには何匹か野良猫がいて、わたしは家の裏で堂々とエサをやっていた。
となりの駐車場の砂利の上でよく糞をするので、その糞も前は取っていた。
猫が哀れだと思っていたのだ。子どもの頃は、猫一匹幸せに出来ない街なんて、とも思っていた。
今年の夏に、エサをやっているハチワレが5匹の子どもを産んだ。その時初めてそのハチワレがメスだと知った。
最近、町内会を通じて、エサやりに対する苦情が寄せられた。私は町内会で役もやっているので、糞の掃除などの徹底を呼びかけるチラシを作ると約束した。
その参考にとネットでそういうチラシを検索したら、自ずと少しは勉強する事になり、私は自分が猫に対して必ずしも良い事をしているわけではないのかもしれないと思った。
一番の問題は、エサをやり続けると、猫がどんどん増えていくことだ。
ハチワレは夏に5匹の猫を産んだ。猫は1年に二、三回も子どもを産めるという。
繁殖力の大きい生き物なのだ。
同時にエサをやっているところには猫が集まってくる。
去勢せずにエサをやっていると、どんどん猫が増えていくことになり、その糞尿に対する住民の苦情は計り知れない。
そんな憎まれ者の猫を増やし、自分自身も嫌われる。それがエサやりさんの立場なのだ。
しかし、エサやりさんとて、ただ可愛いからという理由だけでエサをやっているわけではないと思う。
猫がいるからエサをやるのだ。
外に猫がいて、飢えているからほおっておけない、というのがエサやりさんの心情だと思う。
そしてエサをやってしまうことで、猫が増えていき、見るに見かねてまたエサをやる。
悪循環なのだ。
猫がかわいそうと言う人と、猫に困っているという人とで意見が一致する可能性があるのは、去勢手術の必要性、ということであるはずだ。
猫に困っている人が、仮に市役所で檻を借りて猫を捕獲して、保健所に連れて行っても、原則ひきとってはくれないらしい。
しかし、その猫をTNR手術の動物病院に連れて行くことは出来る。自治体によっては手術代がおりるところもある。
そうやって地道に去勢手術を地域でやっていけば、猫が減り、かわいそうな野良猫が減れば、エサをやらねばという衝動に駆られるエサやりさんの数も減っていくのではないだろうか?
私は以前は去勢して、エサやりもやって、と考えていた。
しかしエサやりは出来ても、種々の事情で去勢が不可能な事がある。
そうなると、地域の理解が得られるまでは、エサやりは中止した方が良さそうだ。
そして、地域での去勢ということに持って行く。野良猫を増やすことは、猫にとっても決して幸せなことではないと考えるようになった。猫に良い事をしているようで、実は猫にも人にも辛い事を強いていたのかもしれないと。
私は前は、野良猫一匹幸せに出来ない街など滅んでも構わないと考えていた。今は少しだけ違う人間になってしまったのかもしれない。猫も人間も幸せになれば良いと想うのだ。
去勢出来ず只エサをやるだけというのは、一番危ない事だと分かった。猫にも人間にも申し訳ないことをしているのだ、と。
猫は家で飼われやさしい飼い主と一緒に過ごすことで使命をまっとうする。無自覚に野良猫を増やせば、いつか命に対する責任を、自分では負えなくなるだろう。