逃走する、月曜の朝
何かに対応することを約束した夢をみて、目が覚めてからしばらく焦っていたが、夢のなかの約束に対応する必要がないとわかってホッとした。昨日の夕方に少しだけ眠ってしまったので、夜の睡眠は浅かったように思うが、夢をみたのだから深く眠れたのかもしれない。
朝、最寄りの駅に向かってカーディガンを羽織って歩いていたら途中で暑くなってきたのでカーディガンを脱いで鞄の中に入れる。遠くをみると灰色ネコが道の真ん中で寝転がっていて、歩いて近づいていくと、起きあがった灰色ネコはトコトコと歩いて民家の庭に入っていった。
駅のホームに電車がやってきて、開いたドアから車内に入る。向かい合ったロングシートの端の席には人が座っていて、端に座る人から一席空けた場所に座る。窓は少しだけ開いているがエアコンが効いているので、鞄の中からカーディガンを出して羽織る。
動き出した電車の中で本を読もうかどうか迷ったが、眠気があるので今朝は本を読まずに眠ることにする。次の停車駅に電車が停まり、開いたドアから勢いよく人が入ってくる。ぼくの右側に座った若い男の両足が前の方に放り出されていて、立つ人の邪魔になるんじゃないかと気にしながら目を閉じた。
乗換駅で電車を降りて改札の出口に向かう。3分ほど歩いて開店前の半地下カフェに到着する。閉まったシャッターの前にサラリーマン風の男の人が1人並んでいる。半地下カフェは7時開店となっているが、7時を3分ほど過ぎてからいつもシャッターが上がる。今日の占いのLINEが届くとスマホが震えて7時になったとわかるが、いつも半地下カフェのシャッターは閉まったままだ。
7時3分を回ってシャッターが上がり、店員が出てきて「いらっしゃいませー」と言う。店に入ってレジカウンターに向かうサラリーマン風の男の後ろについて歩く。男は「トーストセットのアイスコーヒーで」と言い、420円をレジカウンターの上に置く。
順番がまわってきたぼくは「ホットコーヒー」と伝えて350円をレジカウンターに置く。店員はサーバーに入ったコーヒーをカップに注ぐ。
いつもの席に向かって、鞄からポメラを取り出してタイピングをはじめる。タイピングしていると眠たくなってくる。眠たくなると文体が眠くなる。「てにをは」がますます怪しくなる。仕方なく、タイピングを中断して椅子の背にもたれて目を閉じる。エアコンが効いていて、カーディガンを羽織っていても寒い。仮眠する。10分くらいで起きるつもりだ。
10分が経ったのか、時間を計っていないのでわからない。スマホで時間を確かめると8:02だった。あと1時間ほど自由な時間が確保されている。眠たいのはおそらく寝不足だ。寝不足になると、頭が回らない。考えることができない。できないのに何かを書こうとするとこんな文章になる。いや、考えないことを睡眠不足のせいにしてはいけない。
國分功一朗著「中動態の世界」に書かれていた一文を思い出した。
すなわち、現代人は思惟から逃走の最中にある。p208
意志に警戒するハイデッガーの言葉だったか。意志することは、選択した過去から逃げているということか。未来を意志することで、過去の選択を考えることから逃げているのか。過去の選択は自分1人だけの選択ではなく、目に見えないような小さな影響の総和で選択が重ねられてきている。意志も選択の一つとして、その過去からの影響の総和として存在するものではないのか。どうなんだろう。
そろそろ仕事に向かう。眠気はなくなった。