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オバハン矯正日記5 笑われる
1週間後、診察1回目。
保険適用。
とは言え
クリーニング 型取り、レントゲンなどなど
矯正に必要な検査をする。
口の中に鏡を入れられ、
小学生以来の
「いいいいいいーーーだ!」
の口を何回もさせられ、
写真を撮られる。
唇の端が切れて痛い。
あの頃は変顔しても
引っ張っても
唇が切れることなんてなかった。
瑞々しい子ども時代を思い出して悲しくなる。
「唇にワセリン塗っておきますね」
とオバハン衛生士が気の毒そうに言うので
歯科にワセリンがあることに驚きつつ
フガフガとうなずく。
こんなことも衛生士の仕事なのか。
様々な角度からレントゲンと写真を撮られ
言われるがままぐるぐるウロウロ回る。
「大変ですよね、もう少しで終わりますので」
とオバハン衛生士が1ショットごとに
大変丁寧に励ましてくれる。
しかし空腹で洗濯物のように回される
バリウム検査を思えば屁でもない。
シモジモの検査経験も
出産経験もあるオバハンは
「ツライ」に対する経験値が高いのだ。
顔の写真取られるぐらいで
ツライはずがない。
強いて言えば
唇が切れたのが
いちばんツラかった。
そのあとはまたまた歯周ポケット検査。
歯茎をぐいぐい押され、
またしても血の味のつばが口にたまる。
仕上げにオバハン歯科医による総括。
「意外と言っては失礼だけど
歯並びガタガタの割には歯の状態はキレイですね」
と謎の褒められ方をする。
思えば妊婦健診クーポンに
歯科無料券も入っていたので、
妊娠中も
抜かりなく健診に行っていたのが功を奏した。
あ、そういえば
かた焼き煎餅を食べていて
前歯が欠けたこともあった。
あの時も歯医者に行ったんだった。
理由がもはや老人だ。
やはりこの矯正は終活であると実感する。
さらに
「上2本、親不知がでてきているんですが、
いいことはひとつもないので
矯正の過程で抜いてもらうことになります」
と断言される。
何のために生えてくるのだ親不知よ。
ちなみに両親とも健在である。
話の流れで矯正のきっかけを聞かれたので
待ってましたとばかりに
「とにかく口を閉じて死にたいんです!」
と力説し笑われる。
まずは死ぬ前に口を閉じて寝たいんですが…、
という注釈は
バカウケされているので割愛した。
きっと口を閉じれば唇も乾燥しなくなるはず。
処置の後はお待ちかね。
フカフカの椅子に座り、
ピカピカのドリップマシーンでコーヒーを淹れ、
飲んでおくつろぎのひととき。
だーれも来ない至福の時間を満喫する。
コーヒーの色が歯についても気にしなくていいのだ、
だって来週も来るんだから。
もちろん予約は
「いつでもいいですよ」
と、秒で取れた。
オバハン受付に
「来週はお掃除だけなので、痛くないですよ」
と見送られる。
毎週どれだけ怯えた顔をしているのか気になる。
続く