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オバハン矯正日記10 脅される
肝心な時に諮ったように休診の
かかりつけ歯科。
20年以上の付き合いがある、と言っても通ったのは数回。
開業の時点で知り合いに頼まれ、
名ばかり顧客となった。
住居一体型で住宅地に溶け込んでいる、
典型的な町医者である。
当然、健康な歯の抜歯には前向きではない。
いかに歯を残すか、を考えてくれる
患者思いの先生である。
翌日、改めて事情を話し、予約を取る。
当然予約当日にはオバハン歯科の紹介状を携え、
嫌がられながらも抜歯の依頼をしなければならない。
気が滅入る。
オバハンたちが
「抜歯の予約を取ったら教えてください」
というので、
オバハンにあるまじき公式LINEから連絡する。
「○○日に予約を取りました、紹介状をお願いします」
翌日。
反応がない。
それどころか既読にもなっていない。
嫌な予感がしたので、たたみかける。
「〇日に取りに行こうと思います」
追いLINE(?)である。
まだ予約日には余裕がある。
オバハンなんてこんなもんなのかもしれない。
そして迎えた予約日当日。
まだ返信がない。
いよいよおかしい。
仕方がないので
「〇時ごろに行きます」
とメッセージを送る。
オバハンの得意技
既読スルーなのか?
このタイミングで?
しかも公式LINEでそれでいいのか?
阿吽の呼吸で用意はされているのかもしれない。
オバハンは無駄なコミュニケーションは必要としていない。
とりあえず用意さえされていればいいのである。
が、嫌な予感しかしない。
先日ミケタマンエン払ったばかりである。
さすがに焦ってきた。
とりあえず現状確認も兼ねて、
指定時刻にオバハン歯科医を訪ねる。
…。
無駄にオシャレなガラス張りの玄関ドアには
「CLOSE」
それこそしんちゅう製の札がかかっている。
CLOSE!!!!!
何サマだ。
歯医者なら「休診」と書け。
ツッコミながらLINEを見る。
やっぱり既読になっていない。
電話を掛ける。
遠くで呼出音が聞こえる。
しかしつながらない。
ここまで来て手ぶらでは帰れない。
なんとかして
コミュニケーションを取ろうと試みる。
インターホンをピンポーン。
反応がない。
そろそろ怪しい人である。
そしてそろそろ本気で怒っていいだろう。
自分にゴーをかけて、怒りを起動する。
オバハンを怒らせるとどうなるか、覚悟しておけ。
脳内捨て台詞とともにその場を去る。
怒りのあまり速足で、かかりつけ医に向かう。
なんせ開業以来の付き合い、
完全にタメ語である。
「矯正、すんの?」
とニヤニヤする先生。
「そうやねんけど、まあ聞いてよ先生。
紹介状取りに行ったら、クローズやってん、クローズ!」
「えぇっ?それ、あかんやつちゃうんか?」
「やっぱそう思う?まだ建物はあったけど」
「中身もあったか?もぬけの殻ちゃうか?」
「ちなみに一括払いしたばっかりで」
「えぇ?もう払ったんかいな!」
「最近はそういうもんらしいよ」
「らしいよ、て、ちゃんと考えなあかんがな」
「契約書いちおうサインした」
「ちゃんと中身読んだか??」
「…………たぶん……」
「歯はカラダの一部なんやで、抜いたらもう戻って来ないんやで」
抜かんかったら、て後悔する人も多いんやで」
おっしゃるとおりである。
「まあとりあえず今日はレントゲン撮っとくわ」
もしほんまに紹介状もらえたら、またおいで。
くれぐれもよう考えるんやで、消費者センターとかも調べて」
いちいち正論である。
そして立ち位置は完全に親戚のおっちゃんである。
隣でやり取りを聞きながら、笑いをかみ殺し、
それでも漏れ震える、これまた長い付き合いの衛生士と目が合う。
「やっぱヤバいと思います??」
先生にはタメ語だが衛生士には敬語になる。
「まあ、せっかくやから今日は歯石取っとくわな」
と先生に言われ、口を開けながらふと思う。
まだあるんかい、歯石!!!
この1か月で何回取った??
オバハンの腹の虫を聞きながら、
ウトウトしながら。
その間にも手際よく唾液を吸い込み、
作業する2人。
全く痛くない。
うるさくない。
腹の虫も聞こえない。
「私歯石先週も取ってもらったよ?」
うがいもそこそこにぶちまける。
「まだちょっとあったで」
オバハン歯科全体が
もはや
アヤカシにしか思えなくなってきた。
あいつら、本当に歯科か?
尻尾生えてたんじゃないか?
半年ぐらい営業していなくなる、
健康器具販売業のようなものか。
もしや、私、いい年して
ヤラレタノカ?
猫足椅子の資金源は私みたいな
マヌケなオバハンなのか???
久々に起動した
怒りモードは沈静する気配がない。
ミケタマンエン返せ。
続く