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【ゲームシナリオ志望者必須】ゲーム制作に必要なテキストとシナリオのお話し   0章「記述された日本語」

はじめに

本記事は私が商業ベースでゲームシナリオ/ゲームテキストを担当した知見を公開する物です。
ただしこれが正解ではなく、特にテキストに関しては様々な論法や手法があり、そのどれもが正解や間違いとは言い切れません。

また、状況に応じて正解が変わる事もありますので、テキスト作成のベースとして各人が基礎を持つ事、そしてその基礎を制作チームに理解してもらう事がチームで行う制作には重要と考えています。

それらを踏まえ、私の基礎をご覧頂き、自分なりの基礎を構築する手助けにしてもらう為に、本記事は公開しております。
ご理解頂いた上で、お役に立てて頂ければ幸いです。


0章「記述された日本語」

0-1「口述」と「記述」の違い

ゲームシナリオおよびテキストの指南とは言え、まずは日本語を書くことが出来なければならない。

少なくとも自分が知っているゲームシナリオライター、ゲームテキストを生業としているクリエイターはほぼ全員、日本語の勉強をしている。
その為、本項目を0章と定義させて頂く。
「日本語の習熟」は常日頃行う物であって完遂する物では無い為、まずは日本語を勉強する必要を理解して頂きたい。

では本記事で「記述された日本語」を考えてみよう。

おそらく今、「記述された」と特筆した理由を、貴方達は読み解こうとしているだろう。
「口述された日本語」と「記述された日本語」では全く性質の違う日本語である事をまずは認識して欲しく、上記の記載になった。

どこの国でも、単一母国語の口述に関してはほぼ100%である事は疑いようが無いだろう。
ただし、識字率となると話が変わってくる。基礎的な学習が用意されている国であればその数字は高く、日本は100%に非常に近いと言う数字を誇っている。
しかし教育を十分に用意出来ない国では、識字率は極端に下がる。

上記の結果だけを見れば、口述は学習を必要とせずに、記述は学習を必要とする、と見えるのだが本質は実はそこではない。
口述は生活するに当たって常日頃使わなければならない。使用頻度が高い為にその日常が学習の役割を担っていると考えるのが妥当だろう。

しかし、記述となるとその使用頻度は、文化レベルに応じて決定されるが、
絶対的に口述よりも必要性や頻度は下がる。

例えば、今日一日に貴方が口から出した文章と、自分が記述した文章の量を、簡単でも比較して欲しい。
おそらく大半の人達が、口から出した文章の方は把握出来ないほどで、記述した文章の方が少ないだろう。
(今日コンビニの店員としか喋ってない……Twitterでつぶやいてばっかり居る……という人は、文章力上がってるので落ち込まないで!)

基本的には口述よりも記述の方が圧倒的に練習する機会が少ないのだ。
だからこそ、文章のプロ達は記述の練習に懸命になるし、「日本語を書くなんて簡単でしょ?」とは口が裂けても言わないのである。

(もちろん世の中に例外はそれなりに居ますが、そう言う人は読書量が凄かったり、幼少から文章に多く触れる機会があったりと理由が必ずあります。何もせずに特殊な環境でもない場合、自分に「日本語を記述する能力がある」とは思わない方が、将来的にも得でしょう)


0-2「記述された日本語」の本質と要項

では次に「記述された日本語」とはどういう意味を持っているのか、そして何が必要になるか、を紐解いていこう。

元来、言葉の意味合いは下記に集約される。

“人に伝える”

非常に端的で、かつ、大まかな記載だが、これに尽きると私は思っている。
言葉とは「人に伝える」為に存在している。
ここに入る主語は「私」でもいいし「貴方」でもいい。「歴史の偉人」でも「誰でも無い誰か」でもいい。
また、「伝える相手」は「他人」でも「自分」でもいい。メモを取って後で読み返す事は、過去の自分から現在の自分に「忘れない様に伝える」事だ。

「記述された日本語」の意味はわかったと思う。
では、その意味を全うさせる為に必要な事はなんだろう?

それは「伝わる」文章である事だ。

例えば、

待ち合わせをしている友人と落ち合う前に、財布にお金が入っていない事に気付き、
近くに銀行やATMも無い。偶然にも今から落ち合う友人とは少額の貸し借りぐらいは出来る
気の置けない仲であるけど、友人が自分に貸すだけのお金を持っているかわからない。

そんな時に、メールやLINEで連絡をする際の文章として

「貸して」

これだけだと、何を貸せばいいのかわからない。
もしも友人と既に一緒に居て、何かを買う際に財布を取り出した瞬間であれば、この言い方でも通じる。
しかし文章では前提条件が口頭の場合よりも制限される事が多い。
少なくとも、上記に定義した状況でこの文章では、解決に向かう事は難しいだろう。

「お金あったら貸して」

なるほど。「お金」と入れただけで、何を貸して貰いたいのかはわかる。だが、これで貴方の状況が伝わるだろうか?
貴方の事情がわからない相手は、貴方の普段の行動などを基準に事情を推察する必要があるだろう。
金の無心をしようと思う相手に、余計な思案をする労力を押しつける事を厭わないのであれば、これで問題無いだろう。ただし、そんな普段からの行いはいずれ、貴方の身に降りかかって、お金を貸して貰えないどころか友達すら無くしてしまうかもしれない。
その結果が記述の結果だとすれば、それは明らかに失敗だろう。

「悪いんだけど、お金下ろすの忘れちゃった。お金あったらでいいんで交通費だけ貸して貰えないかな? 銀行見つけたらすぐに返すから」

これでかなり具体的になった。お金を借りる理由も説明し、お金を借りる目的も文章に含めている。さらにお金を返すタイミングも明示しつつ、一番最初に相手への謝罪も忘れない。
これを読んだ貴方の友人は、普段の貴方の言動が歪んでいなければ、そして友人の心根が腐っていなければ、おそらく交通費は貸して貰えるだろう。

誰しもが伝える為に、いくつかの手法を経て文章を作っている事がおわかり頂けただろうか?
だが、ここまで読んで貰った諸氏ならわかると思うが、作成する文章は必ずと言って良いほど、最良の物は状況や状態に左右される。

さらに重要なのが、伝えたい事を伝える為に文章を長くしなければ説明しきれない事もあるが、読む側の「読む」と言う労力を削減する為に、文章を簡潔にする必要もあるのだ。

状況や状態、さらには読み手との関係など様々な要素を踏まえた上で、読みやすく伝わりやすい、「伝わる文章」は決まるのである。


0-3 それでもある「最低限のルール」

上記項目まで読んでいただけたのであれば、なんとなく感じ取っているであろう。

「なら、伝わればどんな文章でもいいの?」

これ、実は是である。
状況や状態、文章を書く媒体や読み手の心情などに全て当てはまり、百発百中で伝えたい事が伝わるのであれば、正直どんな文章でも良いと私は考えている。

ただし、そのような奇跡はなかなか起きる物ではない。
例えば読み手が貴方の意図を読み取ってくれて、とても短い文章で全てが伝わったとしても、それは読み手が意図をくみ取ってくれたからこそ成立している物であって、それは奇跡でしかない。
特に一個人に宛てた文章であればそのような奇跡は起きる可能性は高くなるだろうが、不特定多数に向けての文章であれば、その不特定多数全員がくみ取ってくれる様な奇跡を望む方が間違っていると理解してもらえると思う。

その為、ある程度の「読みやすさ、伝えやすさ」を内包したルールを汎用的に使う事が、効率に置いては必須だとご理解頂けると思う。
以下に、その「最低限のルール」を記載していくが、この「最低限のルール」ですら、状況や媒体に依って臨機応変に変えていかなければならない事を念頭に置いて貰いたい。



・ルール1.読みやすい句読点

今日は、雨が降った。明日は、晴れるだろう。
↓
今日は雨が降った。明日は晴れるだろう。

句読点の付け方には一定のルールがあります。
特に読点(、)は文節の全てにつける事は可能ですが、できるだけ少ない方が読みやすくなります。
キャラクターの心情などで息を入れる為に使う事もあるため、少ない方が必ず正解ではありませんが、文章がスムーズに読めないと感じたらまずは読点を削る所から始めてみましょう。

句読点のルールは非常に難しい為、下記の参考資料で勉強する事をお薦めします。
古い本ですが、新聞記事の文章に対してルールを敷いた名著で、今でもこの書籍を文章執筆の礎と挙げるライターは多いです。

日本語の作文技術 本多勝一



・ルール2.感嘆符、疑問符の空白

金!金!金!
騎士として恥ずかしくないのか!
↓
金! 金! 金!
騎士として恥ずかしくないのか!

感嘆符【!】と疑問符【?】の後に当該行で文章が続く場合、全角スペースを入れましょう。

これは組版で慣例的に使われている手法で、感嘆符と疑問符がかかる文章を明確化する目的があります。
読みやすさ、と言う観点からもスペースを入れた方が良いので、可能な限りこれに準拠しましょう。



・ルール3.禁則処理

<横文字数制限9文字の場合>
123456789

殺してでも奪い取る
!
↓
殺しても奪い取る!

上記は判例の一つですが、主な禁則処理は改行時に文頭に役物(記号や句点読点)が来る事を避ける処理になります。

テキストエディタやWordなどを使用すれば、禁則処理は自動的に行ってくれる為に意識する事は少ないかもしれませんが、プログラムにテキストを反映させる際にはこの禁則処理は行われない事が多い為(ゲームのプログラムに禁則処理を実装しなければならない為、工数が単純に増えるので)、ライター側であらかじめ禁則処理が必要な状況を作らない事が求められます。

文字数制限で文章を改編しなければならない可能性が非常に高い調整ですが、文頭記号は非常に読みにくい為、文章を修正してでも回避しましょう。

禁則処理の詳しい内容は以下にてご確認ください。
Wikipedia:禁則処理



・ルール4.三点リーダーのルール

三点リーダーの使い方

1.通常は2つ続けて使用する。沈黙は2つ連続、3つ連続など適宜対応
「流し切りが完全に入ったのに……」

2.三点リーダーの後に文章が続く場合、句読点は入れない
「……やっときたか……この日が……」

基本的に、三点リーダー【…】は、2つ1セットです。
媒体で文字数制限が強い場合などは、その案件全てを三点リーダー1つにするなどのルール改定を行って運用しましょう。

また、「……、」や「……。」の表記はプロの記載でもよく見かけますので、おそらく好みの部類だと思いますが、ゲームでは特に文字数制限を問われる場合が多く、文字数はできるだけ減らしたい所です。
読感も良いとは思えない為、私は句読点は入れない運用にしています。




その他にも様々なルールがあるが、筆者の好み、また読者に依って変わる所も多いのが文章のルールである。

・長く苦しい、戦いになるだろう……

・ながくくるしい たたかいになるだろう……

・永く、苦しい……斗いになるだろう……

上記例文は、上から
・一般層、中高生~社会人向け
・低年齢層、幼児~小学校低学年向け
・中二病患者(年齢問わず)向け
と、対象が変わると求められる文章は変化する。

大事な事なので二回言うが、最低限のルールと言っても、読み手がそのルールの上に立つと考え、常に読み手に最適な文章を考える事。
それこそが、文筆における最低限のルールであると認識して欲しい。

そしてその為に、我々文筆のプロが日々日本語を研鑽している事を、これから文章を書く諸氏も心に置いて貰えれば幸いである。



日本語についての説明が長くなってしまったので、今回はこの辺で区切ります。
次回は「ゲームのテキスト」についてしたためる予定です。

最後に。
上記のような「最低限のルール」を、私は当時PCゲームブランドLeafでシナリオライターとして活躍していた、青紫氏のスタッフコラムに書かれていたテキストルールで知りました。
氏の年齢を遥かに超えてしまいましたが、遅ればせながらここに感謝と追悼を表します。

最後までお読み頂き、ありがとうございました。

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