去年の台風の日の出来事
台風がやってくる。
いろいろと煩わしいことも多いし、昨今の台風被害の状況を見ていると、いささか不謹慎なのだが昔からワクワクしてしまう。
引きこもりが正当化されるし、日々の憂鬱を豪雨暴風が吹き飛ばしてくれるような気がするからか。
大声で泣き叫んでもそれは轟音にかき消されて誰の耳にも入らずに済むからか。
去年、私の住む町には、「近くの川が氾濫しそう。各自で命を守る行動をとってください。」という警報が発令された。ダムも放流しないと水がパンパンになっているとか。
一人暮らしをしてからこの規模の災害を経験したことがなかったから、めちゃくちゃビビった。
そんな時、普段から良くしてもらっているアパートの裏に住む大家さん(70代後半で、創業100年以上の家業を営むおばあさん)に避難のこととかを教えてもらおうと、雨の中傘をさして大家さんの家に向かった。
まだ大豪雨というわけではなかったが、驚いた。大家さんは普通に玄関の屋根の下に座って愛犬と戯れていたのだった。ゆっくりゆっくり優しい手つきでわんこを撫でる大家さん。何をしているというわけでもなく、ボーッとした時間を過ごしているようだった。
そのあまりにものほほんとした姿は、命の危機が迫っていて焦りまくっている私とは対照的すぎた。
「まあまあ座りなさいな」
そう言って簡易イスを私の分も用意してくれて、軒先にお邪魔した。
大家さんは近くの高台のお寺を避難場所としていて、もし危なくなったらそこへ行けば良いということや、今はもうないけれど昔はすぐ近くに川があったという話や、過去60年くらいこの辺りは浸水したことはないけれど、あの辺りはダメとか、この地に根ざした人にしか分からないことを教えてくれた。
話を聞いているとものすごく安心してしまった。(それでも避難情報には常にアンテナを張り巡らしていたが)
今宵、去年感じたあの安堵感を思い出している。あの時のワンコは残念ながらどこかに行ってしまったのだけれど。
去年と今年。同じような時期に台風がやってきて過ぎ去っていくけれど、同じなようで何かが違う。
こんなふうに日々は日常から1つずつ何かをスーッと抜き取っていくんだよなぁ。
※この記事は災害時に避難しないことを推奨するものではありませんので悪しからず。