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セブンイレブンのスカスカおにぎり
「セブンイレブンのお弁当は上げ底だ!」
「おにぎりなんて中身がスカスカだ!」
SNSで批判を浴びまくっているセブンイレブンの弁当とおにぎり。それが理由の全てではないけれども、セブンは今コンビニ業界で一人負けになっている。
僕はセブンのおにぎりに悪い印象はない。むしろ、SNSでおにぎりの断面だけさらして「ほらスカスカだ!」と指摘するのを見かけ、それが拡散して行くことに恐怖を感じる。断面だけで何がわかるのだろうか?それだけを根拠に、セブンを全否定する流れができてしまうという飛躍が怖い。なんだかイナゴの大群が麦を食い尽くすように、負の言説がみんなの考えを飲み込んでいく。そんなの恐怖以外の何ものでもない。
別にセブンの肩を持つわけではないが、本当にそうなのかと疑った方がいいような気がする。単純に、自分の目で本当かどうかを確かめたくなった。
そこで、できるだけ同じものさしで、コンビニ各社の商品を比較して「本当にセブンがスカスカおにぎり&弁当を出して、顧客をだまそうとしているか?」を実験した。
やり方は次の通り。
1:横並びで比較できる商品を選ぶ
2:重量や価格を比較する
シンプルにこれだけ。世の中で勃発している「スカスカ&上げ底」という言説は、結局のところ価格に対してのお得感、今どきの言葉で言えば「コスパ」に収束する。だったら、同じ商品でお得感を比較するには、値段が安くて、重量がしっかりあって具材もたっぷり使われていれば、それはコスパが良い、ということになるだろう。
では、何で比較しよう。これもシンプルなものが良い。比較しやすく、議論の中心にある商品がベターだ。
選んだのはおにぎり。理由はいたってシンプルだ。具材を選べば、絶対にコンビニ各社とも取扱があるから。しかも通年であるから、比較しててミスったらもう一度買いに行けばいい。比較する際も、具材、海苔、コメというシンプルな3要素しかない。弁当だとありえる「このおかずはあるけど、これは入っていない」ということが起こらない。幕の内弁当の漬物の種類が違ったら比較できなくて困るだろうし。カリカリ梅かふにゃふにゃ梅の違いに困惑することもない。イージーだ。
具材は何を選ぶか。僕はツナマヨを選んだ。人によっては「なんでご飯から切り離しづらいものを選ぶんだ?」と思うかもしれない。この点はその通り。ある程度、具材の値段が高価なもので、重量や大きさの差が出やすいシャケを検討していた。だが、実験時点でセブンイレブンは「しゃけ」のおにぎりと「紅じゃけ」のおにぎりを用意していて、どっちをピックアップして他社と比較すれば公平なの?という問題があった。そのほかに梅やこんぶあたりも考えたが、こうした古き良き具材は、最近、コンビニの棚に並んでいないことがあって困る場面も想定された。
だから、いつ行っても大体あるツナマヨを選んだ。あとは頑張って米からこそげ取ろう。
コスパ比較の実験開始
某日、ママチャリで近所のセブン、ファミマ、ローソンを巡る。どこもツナマヨがあって容易に入手できた。やはり予想通り、梅がなかった店舗もあった。ツナマヨを選んで正解だ。ちょっとした勝利を噛み締めつつ、おにぎりを家に持ち帰って、まずは外観の比較。
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どれもよく見る体裁。特に違いは見られない。ただ、ちょっと注意して見てほしい。ファミマとローソンは「シーチキン(R)」とある。一方のセブンはツナ表記。ここでわかるのは、ファミマとローソンは、ツナ部分にはごろもフーズの「シーチキン」を使っているのがわかる。セブンは他社のツナになる。
さて、本番はここからだ、計測をはじめよう。包装を含んだ全体の重量は、セブン122g、ファミマ119g、ローソン110gだった。セブンとファミマが包装ですごい豪華な紙を使っているわけではないので、ここでローソンが軽いのがわかる。さて、実験は次のような手順で進めた。
包装の状態で全体の重さを計測する
海苔を外して、海苔だけの重量を計測する
海苔を装着して全体の重量を計測する
2と3の差から海苔なしの、ご飯と具材の合計重量を計算する
具材をほじくりだして具材の重量を計測する
4から5の結果を引いて、ごはんのみの重さを計測する
まず、海苔を測ろうとするとなかなか苦戦した。キッチンスケールは1g未満の計測ができないので、若干誤差があるのは仕方がない。各社とも1〜2g程度といったところだ。そうした誤差は許してほしいところ
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計測中に、海苔にも違いがあることに気づく。ファミマのそれは分厚く、歯を立ててもちぎるのが困難な重厚さがある。一方で、ローソンは袋をはずして米に海苔を巻き付けようとする時点で、バラバラと崩れてしまう。実験中、ちぎれた海苔を集めて計測するのに大変な思いをしたほどだ。
この調子だと、米、海苔、具材という要素にも違いがありそうだ。そこでお得感やコスパという評価軸とは別に、傾向として要素の特徴もメモを取ることにした。のちほど詳細は触れるけれども、各社のおにぎりに対するアプローチが違っておもしろいということがわかる。
さて、まずはコスパの結果から。一気に見てみると以下の表のようになった。
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簡単に言えば、コスパ勝負はセブンの勝利。ローソン、大丈夫か?という感じ。わかりやすいのは1g単価。これが低いほどグラムあたりの金額が安いわけだからコスパが良いことになる。一方で、総重量も大事。いくらグラム単価が安くても、食べた時の満足感はやっぱり総重量に関わってくる。こちらでもセブンがトップ。2冠達成だ。
「いやいや!体積自体が小さいんじゃないの?」という重箱の隅をつっつくような精神で体積を測った結果がこちら。
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うん、セブンは体積もでかい。もちろん誤差はあろうけれどもデカくて重くて安いという庶民の味方はセブンだったという結果。
補足すると、体積あたりの重量、要は「どれだけギュッと詰まってるの?」という基準で見ると、ローソンが勝った。とは言え、そもそもが小さくて軽いから満足感は少なめなんだよな、というなんとも微妙な結果になった。
数字では割り切れない。おにぎり作りにおける「方向性の違い」
これで、ひとまずセブンのおにぎりはスカスカだって言うことはないのがわかった。SNSに踊らされてはいけない。ただ、数字だけでみればセブンが勝った、と言えるのだが、計測中に気づいた点からコスパ以上に、「コンビニ各社のおにぎりに対する方向性の違い」がわかったので、その点についても触れておこう。海苔や米、具材など個別に見た上で、最後にトータルの印象をまとめる。もちろん、味に関する評価を含むので、あくまで参考程度に考えてほしい。
●海苔の比較
この点はグラム数で言えば、各社横一線。しかし、明らかに質感が違った。群を抜いていたのがファミマ。分厚いのに歯切れがいい、香りもいいという内容。反対にローソンは、米に装着させようとするも袋に取り残されるもろさがある。薄いのに歯切れはいまいちと散々な内容。セブンはその中間といった感覚だ。ローソン、やる気ある?
●ごはんの比較
今回の実験で一番ヒィヒィ言ったのが、ツナマヨをごはんからはがす作業。その時に海苔を剥がしたすっぴんのおにぎりを見たのだが、ここで各社の製造法やアプローチの違いがわかった。
ファミマは本体をサイドから眺めると、継ぎ目がある。多分、土台になる米ブロックに、ツナマヨをオンして、あとから蓋をしてプレスするのだろう。こうした作り方からか、米のみっちり感が強い。例えて言うと団子みたいな食感。
これと対極にあるのはセブン。中のツナマヨをほじくろうとしたとき、米がバラバラと崩れるほどやわらかくまとめられている。多分、SNSに溢れるスカスカっていう意見の源流はここだろう。セブンのおにぎりは、米がほどけやすいのだ。しかし、ほどけやすいから短絡的にスカスカということにはならない。さきほど示したように、セブンのおにぎりはちゃんと重量がある。体積だってある。なのにほどけやすい。ニュートン力学に挑戦する異次元おにぎりやんけ!と思ったが、冷静になるとそうではない。
密度のある米粒や具材が、ふんわり結合していて、口に運んだ瞬間にほどけやすいように設計されているのだ。なんだそのギミック。美味しんぼのおにぎりみたいだな。
注:美味しんぼでは、おにぎりはふわっと握って、中に空気を入れるのが良いとされている。たしかそんな話があった。
ローソンは米の塩っけが強い。他の2社が米に塩っけがない。ローソンは米の味つけで具材とのバランスを取る作戦のように感じる(ツナについての言及はのちほど)。あとは特に語ることはない。ローソン、がんばれ、僕は君の生クリームが好きだぞ。
●ツナの比較
ツナもアプローチがずいぶん違う。セブンのそれは、米からこそげるのが大変なほどマヨネーズ感が強く、ツナソースといった風情。若干茶色がかっており、おそらく醤油みたいな下味がついている。米にツナソースが染み込んでいる部分がある。
ファミマのツナもセブン同様マヨ感強め。しかし、こちらはマヨの味一辺倒で、出汁や醤油といった雰囲気は感じない。マヨ好きならウケそうだけれども、面白みに欠けた。
異色なのはローソン。ツナ感が強い。マヨをほとんど感じず、醤油味がした。パサついていて米から剥がしやすかったのも他社とは異なる部分。あと、少ない。…..そこはダイエットしなくていいんだぞ、ローソン。
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●総評
異次元おにぎりのセブンイレブン
他社と比較して、重量やコスパで勝った。しかも、口に入れるとふわっとほどける米の握り具合まで計算されているのがポイント。にもかかわらずスカスカって言われるのは正直ちょっとかわいそうじゃないか、と思った。
おにぎりというより団子。しかし重さはそこそこのファミマ
重さ自体はセブンと変わらない。ただ、なぜか密度と重さを感じる。これが食べた時の満足感を支えているのだろう。それに、具材の構成比率はナンバーワン。なんか硬く握った拳でぶん殴ってくる系おにぎり。もっとも、セブンよりもファミマの方がコスパが良いという言説は、少なくともツナマヨおにぎりについては間違い。純粋に数字だけ見ると割高。
何がしたい、ローソンよ
数字を見ると、軽い!具の比率が少ない!高い!と、アカン部分で三冠王。具体的に見ると、ツナはパサつき、海苔は崩れる。ごめん、書くところがないよローソン
セブンのおにぎりは決してスカスカじゃない。繰り返しになるけれども、SNSで出てくる「正しいっぽいこと」は疑った方がよい、という教訓は得られた。
ただ、それ以上に実りがあったのが、たった100円ちょっとのおにぎりという世界で、各社の方向性や製造方法が違うのを発見できたことだ。
なかでも、セブンは重いのにふんわりというニュートン力学に反逆するおにぎりだったのは面白い。他方で、実際には重くないのに、食べた時の重量“感”に極振りしているファミマというのも楽しい。あと、ローソンはとりあえずがんばれ。
なんだ、じゃあセブンが一番いいんですね?というと、「いや、味っていうのは好みの問題もありますので」というのが難しいところ。数値的なコスパで見たら、セブンだけれども。ひょっとしたら米に塩気があって、マヨ感弱めで海苔がやわらかすぎるくらいやわらかいローソンが良い、という人だっているだろう。いて欲しい。
「どこがナンバーワンか?」と問われたら100%趣味で答えるとミニストップです。唐突ですが。
お店で握ったシリーズがあり、1個200円を超えますが、お母さんの味で視界が曇ります。おすすめです。なお、具材はサバがめちゃくちゃうまい。青魚最高。
じゃあ、なんで今回比較しなかったの?と言うと、お店で握っててホカホカ出来たてで1個200円超えるブルジョアおにぎりですから、そりゃ同列に並べたらダメですよ。
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注意点:誤差&個体差はある
さて、ここまでコスパ比較と各社のおにぎりに対するアプローチの比較を行ってきたけれども、一応、注意点がある。
(1)個体差がある
おにぎりには個体差がある。同じコンビニで同じ種類のおにぎりを買ったとしても、全然仕上がりが違うのは注意が必要だ。実は実験は同じ体裁でもう一度行なっている。その時はセブンのツナマヨが115gで、ファミマが115g、ローソンが110gだった(包装を除外した重さ)。もっと細かく言えば、この実験の時のローソンはもっと海苔の脆さがあった。同じコンビニでも数値に多少の前後はある。取り上げた数値は絶対値じゃない。傾向値、参考値としてみて欲しい。僕自身、割と数値がバラけるのには衝撃を受けた。ただ、傾向値とはいえ、この予備試験とも言える実験でもコスパはセブン勝利だったのは付記しておきたい。
(2)工場による差もある(だろう)
コンビニのおにぎりは、セブンならセブン本体が作っているというわけではない。各地の委託先工場が作っている。だから、コンビニ本体が定めた基準はあるだろうけれども、地域(より厳密には、地域にある工場)によって多少のバラつきはあるだろう。委託先は、成分表や値段がまとめられたシールに掲載されているので誰でも確認できる。
次回は上げ底弁当の検証!?
さて、ここまで実験をして楽しかったので、今度は上げ底弁当の検証を行いたいという野望に燃えている。やるなら親子丼かカツ丼だと思っていますが、果たして3店舗であるか?実験を終えた後、3つもどんぶりを平らげるのはなかなかヘヴィだぞ、という恐怖を抱えながら。ちょっと悩んでいる。
ちなみに、実験で使ったツナマヨおにぎりは全部食べています。むしろ食べて味の傾向をメモしています。ちょっとツナマヨはしばらくいらないかなという気持ち