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駅前から始まる冤罪発信

 アドベンチャーワールド、白浜温泉、和歌山マリーナシティ。これまでに和歌山で訪れた場所は、いずれも観光地ばかり。地域住民が日常的に行き来するような場所には行ったことがなかった。

 和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚の支援者が、和歌山県で冤罪を訴えビラ配りをしているらしい――。

 そう耳にしてから支援者の活動が気になり続け、1月下旬、初めてJR和歌山駅前に足を運んだ。


 ※林眞須美死刑囚は、確定死刑囚の身ではあるが逮捕時から一貫して自らの無罪を主張。現在は再審請求を行い即時抗告中だ。無罪を主張し2024年現在も再審請求を行っている点、証拠に疑わしい点があることなどから、記事内ではあえて林眞須美さんと表記する。


 関係者によると、ビラ配りは約20年前に開始した。毎月1回、JR和歌山駅前で約300枚弱を通行人に手渡ししている。大阪市内で配布することもあるという。

 ■電車で和歌山へ

紀ノ川。向こう岸に住宅街が見える

 少し冷え込んだ休日の昼下がり。JR阪和線の紀州路快速で終点の和歌山駅に向かった。紀ノ川を渡り市街地に近づくにつれ、園部地区までとはいかないが、周辺の住宅街が右手の窓から見える。戸建てが並び、非常に穏やか。人通りも少ない。こんな静かな場所の近くであの騒ぎがあったとは……。信じがたい、そう思いながら電車に揺られた。 

JR和歌山駅。商業施設も入っている

 和歌山駅に到着し中央改札から出口へ向かうと、1枚の横断幕が目に留まった。

手作りの横断幕

 「和歌山カレー事件 林眞須美さんは無実」

 黄色地の布に、青とピンクのフェルトでこう書かれている。

 周囲にはバスやタクシー乗り場が。家族などの送迎に来る乗用車もひっきりなしにロータリーへやってくる。休日とあってか、制服姿の学生や住民だけでなく、キャリーケースを引っ張る観光客らしき人々も散見される。

 行き交う人々のそばで支援者はマイクを手にし、活動や冤罪について通行人に訴えかけた。

 河合潤氏の鑑定によって、林家にあったヒ素と事件現場のヒ素が一致しなかったこと。

 裁判で使用された別の研究者による最初の鑑定に間違いがあったこと。

 林家の長男が昨年11月に面会に行き、いつもと違う刑務官の様子に不安を覚えたこと……。


 話す支援者を囲むように、10人弱の男女があちこちに広がって黄緑色のビラを通行人に手渡し始めた。

 ビラは黒の1色刷りで、前月のビラ配布時の印象的な出来事、過去1カ月間の活動内容、冤罪と指摘される点、支援者らの思いなどが両面にびっしりと記されている。大阪拘置所という空のない場所に収監されている林眞須美さんに、青空、陽の光を返してほしいという思いが綴られているのが印象に残った。

配布されたビラ

 ■説明聞く通行人も

 「和歌山カレー事件についてのことなんです」

 支援者の70代男性はこう声を掛けながら、学生から高齢者まで幅広い年齢層の通行人にビラを1枚1枚配り続けた。

 中には立ち止まり、男性に事件に関する質問をする人も。男性は数分間、なぜ冤罪だと思うのか、何が問題点なのか、納得してもらえるまで説明を続けた。

 和歌山駅前は若者も多い。たまたま通りかかった2001年生まれの青年はビラ配りを目にし、「(和歌山カレー事件は)生まれる前のこと。園部地区で事件が起きたというのは知っているが、詳細はよく分からない。何があったのか」と興味深そうな様子を見せた。

 1998年に発生してから今年2月で25年7カ月。林家の長男がSNS発信などを熱心に行うほか、数多くの支援者が再審を願ってさまざまな活動を展開し、何とか風化を免れている。そのおかげかビラを積極的に受け取る通行人が多いものの、発生以降に生まれた世代の間では、事件そのものをよく知らない人々が一定数いるのが現状だ。彼らにとっては過去の出来事ではなく歴史。仕方ないことではあるが、活動継続の重要性を思い知らされた。


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 最高裁判所は1月29日付で、1961年に発生した名張毒ぶどう酒事件で無実を訴えた元死刑囚(9年前に89歳で病死)について、10回目の再審請求を認めない決定を出した。5人中4人の裁判官による多数決で決まった。

 一方で、学者出身の1人の裁判官が再審を開始すべきとの反対意見を初めて表明。「新証拠には高い信用性が認められる」「確定判決の有罪判定に合理的な疑いが生じる」などとした。

 和歌山カレー事件においても、各分野から再審を求める声が多く上がっている。壁は信じられないほど高いが、支援者による活動は今後も粘り強く続いていく。その様子をこれからも追いたいと思う。


【後日談はこちら】


【林眞須美さんの再審を求めるオンライン署名はこちら↓↓↓】

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