最終

パラレル親方と、上野の親方の背中を見て振り返った“あり方”-関係性を作る前に大切なこと-

上京して3年、強い焦燥感に駆られたのはイベント「パラレル親方」の帰り道。サカイエヒタさんから「浅田さんはライターなの?」と問われ、「一応…ただ書き始めたばかりで…」などとモゴモゴ答えてからだ。

イベント「パラレル親方」とは

「ライターかと聞かれたらライターだ! と答えなきゃ。まずは自己発信。やりすぎくらいでちょうどいいんだよ」「あ、俺が柿次郎親方のところまで連れていってあげるよ。話したいんでしょ?」そう言うなり、私を前へと引っ張った後ろ姿のかっこよさ。それに引き替え、胸を張ってライターだと即答すらできない自分の情けなさ。この根性・姿勢を叩き直さないと弟子になんてなれない。そう思ったと同時に、ある人の顔が頭に浮かんだ。

「そうだ。週末に会いに行こう」

23日土曜日、朝の10時。年の瀬に向け熱気が強まる上野・アメ横通りに響く呼びかけ。

「めちゃくちゃうまいケバブだよ! アニキ! シャチョウ! そっちのシャチョウも! ケバブタベナヨ!」

その中に、見覚えのある顔が……

「ターシー!」

ターシーに出会ったのは、以前取材したケバブ屋さんだった。トルコから来たばかりのカタコトの日本語で「最近どーなの?」と積極的に客に話しかける姿はまっすぐで輝いて見えた。奈良から出てくるだけでも一大決心だった私は、遠い異国の地で、前向きに言葉や接客を学ぶターシーの姿に、尊敬の念を抱かずにはいられなかった。だからこそもう一度会って学ぶ姿勢、マインドについて聞いてみたい。そうすることで、これから私が本気でライターとして生きて行く上で必要な何かを言葉にできるようになる。そんな気がしたのだ。

「ターシー、わたしが前に取材に来たの覚えてる?」

そのとき、THE・上野の親方といった恰幅の男性がスッと寄ってきた。「どうしたの?」

慌てて自分の来意を伝えると、流暢な日本語で「ゆっくり話しなさい。気を使わなくていいから」と優しい目と声で答えてくれた。

(ケバブをいただきながら)取材開始

「日本に来たきっかけは?」
「トルコでスタッフをしていたホテルレストランには、たくさんの日本人が来てたんだけど、みんな優しくて実直、嘘をつかない。彼らが住む国を見てみたいと思っていたら、遊びに来ないかって(親方の方を見て)誘われたのさ」

「実際に来てみて日本はどう?」
「素晴らしいよ。日本語はまだまだ勉強をしないとだけど…元々ホテルに遊びにくる海外の人と話すのが大好きで、言語の勉強はそのための基礎だったから海外のアニメや映画を繰り返し見ては、耳に外国語を流し込んで勉強してきた…一応7ヶ国語は話せるんだ。同じように日本語もワンピースのアニメを繰り返し見て勉強するつもり」
「日本語の先生は?」
「最近婚約した日本人の奥さんと親御さん。ここにくるお客さんも。回りにいる人たちが先生さ。」

出会う人すべてを師として学び、ひとりの時間にはその学びを無駄にしない努力を続ける。ターシーの素直で愚直、真面目な姿勢は私のこれからあるべき姿“弟子としての姿勢”を体現しているようだった。

「オスカにも話を聞く? 呼んでくるね。」

「え…? オスカって、オスカーケバブのオスカさんですか?」

「そうだよ! オスカって呼んで。日本に来てもう17年になるかな」自信と愛嬌たっぷりな笑顔が眩しい。

「どうして日本に来たんですか?」
「ターシーも言ってたように故郷にたくさん来ていた、優しくて、嘘をつかない日本人が大好きになって、好きな人たちがいる日本という環境へ飛び込んだ。それだけ! 頑張っているうちにこの店もできたんだけどね。」
爽快でまっすぐな動機に、心の奥からワクワクするような、嬉しい熱が湧き出るのを感じた。

「ターシーを日本に呼んだのは何故なんですか?」
「彼は頭が良くて勉強熱心。だから日本に呼び、机上で教え切れない学びを与えて育てようと思ったんだよ。ターシーだけじゃない。この店の連中は、みんな家族さ。僕も師匠にケバブのことを教わって育ったからね…同じだよ」

ターシーはオスカにフックアップされたんだ…店前が混みはじめたので、御礼を言って店を後にした。

「恥やプライドは捨てろ。発信することを恐れるな」徳谷柿次郎×望月優大と考えるフックアップカルチャー

「好きな人たちがいる環境へ飛びこんだだけ」

オスカの言葉を反芻する。なんてハッピーで自由で、本来的な生き方なんだろう。共に働く人を家族と呼ぶ姿勢にも共感した。パラレル親方のイベントで一番強く感じたのも、運命共同体のような強い師弟愛や絆だった。

今年の6月に行われたライター勉強会ではじめて柿次郎親方の姿を拝見したとき、営業マンから編集の仕事に転職したばかりの私は萎縮していたが、質問したいことがあったので、背後霊のように後ろに立っていた。(こわい)そして、親方の前が空いた一瞬に声をかけたところ、目をしっかりと見て、つたない問いかけに親身に答えてくださった。その姿に、私は強い安心と信頼を感じたのだった。

弟子のだんごさんの語るエピソード「ひとつの記事のタイトルを考えるのに20-30案出してから決めるまで2-3日悩んでいるんです。モノづくりへの姿勢を見る度、ついてきて良かったと思いますね」

私もその姿勢を側で見たいよーーー!!!!

東京に来て、いつからか発信することが怖くなっていた。かくことを難しく考えすぎるようになっていて、かきかけたブログを何度も削除した……が、それらは全て言い訳だったと気付くことができた。

恥やプライドは捨てよう。発信することを恐れるのもやめる。自分という旗をブレずに掲げ続け、他の人は気づかない小さな声を、地方にある多様な生き方を記事にして、悩んでいる人たちの背中を押す。そのために、かく力を磨き、「かくこと」を生業にして生きていくんだ。私はライターだから。

長野、全国……どこへでもいきます。いかせてください。その背中を見て、なによりも大切なことを自ら学びとにかく書きます。それは弟子として前のめりに学ぶ姿勢であり、これからの私のあり方です。

【最後に-自己PRタイム-】

僕みたいに「顔がおもしろいし、絶対素直でいいやつだから」と原稿を一回も見ずに衝動でいっちゃうタイプもいる。 引用:「誰かに見つかること」について考えてみた―パラレル親方の後日談

「ときに土田よ。私は素直でいい奴ということだけには自己肯定できる人生を歩んできたと思うんだが…客観的にしか分からないことがある。私の顔って面白い?」

同行していたカメラマン土田「え…? 大丈夫、そんなことな」

「面白いよね? 取材帰りにちゃっかりトルコビール飲んでるし。面白いか面白くないか二者択一なら、これはもう面白い顔枠に入ってくる側の所作だよね? どう考えてもそういう発想に行き着くと思うし、何よりそうでありたいと日々向上心を持って生きてるよ、私は。」

土田「…うん。まぁじゃあ面白い…かな。」

「よかったーーー!!!!!!」

土田「(自分だけ旨そうに呑むやん…)」

不退転の決意を込めた杯を自分と交わした帰り道。この気持ちを忘れないうちに記事にしたい…急いで帰りの電車に乗った。

【協力】
店舗「オスカーケバブ」

東京都台東区上野4-7-8 アメ横センタービル1F

撮影「RYO TSUCHIDA」

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