EREMENTAR GERAD
東まゆみ先生の代表作「EREMENTAR GERAD」(以下「エレジェ」)は、俗に「紅」と呼ばれる主軸と、その2年後を描く「蒼」、そしてオリジナル展開のアニメ版の3種類に大分類できる。
友人から借りるか、ピアノ教室や床屋さんでしかマンガを読んでいなかった僕が、初めて自分で買って揃えたマンガである。
その出会いは偶然で、学校の授業でパソコンを触る機会が生まれた僕らの間では「おもしろフラッシュ倉庫」が大ブームとなっていた。
その中でモンハンのPVを使ったMAD動画というファンメイド動画を見まくっていたところ、アニメ版エレジェの主題歌「Forever…」が使用されていたことがきっかけだった。
そのMAD動画には大変笑わせてもらったが、savage geniusが歌うこの主題歌のカッコ良さに惹かれ、曲名とそのタイアップ先を検索し、知ったのだ。
「紅」は王道のボーイ・ミーツ・ガールで、欧風ファンタジーだ。
少年誌のバトル模様とラブコメ要素が上手くハマっていて、「女の子が武器になる」という設定からカップリングも多彩だ(今やったらミソジニストが騒ぎそうだが)。
山賊でも海賊でもない「空賊」という設定がどこかスチームパンクでありながら、和歌のような「謳」を歌いながら必殺技を繰り出すという独特のテンポ感、女の子が武器になるということで横行する人身売買や捨て駒といった闇深さ。
良いファンタジーというのは「ファンタジーの世界がどれだけリアルであるか」というのを僕に教えてくれた作品である。
一方の「蒼」は国を乗っ取られた幼い皇女の成長譚といった風で、バトル要素は変わらないが、それ以外は感情描写が多く、シリアスな面が強かった。
それでもしっかりコメディーにするところはコメディーをするし、ロマンスはしっかりロマンスをしている。
「蒼」は「紅」の2年後という設定ながら途中から並行して連載し、どれが伏線でどう物語が交錯していくのか……といったワクワクの中で「紅」は完結を迎えた。
「蒼」は未完のままきっと終わることが無いのだろうと遠い目になりながらも、心の片隅で再開を祈っていたりする。
「紅」の結末はハッピーエンド気味ながらも不穏な空気と新たな謎を残し、「蒼」は未完ではあるもののきっと後味の悪い結末が待っているような気がする。
対してアニメ版は敵も味方も大円団を迎えており、PS2やGBAでゲームも発売されている。
声優陣は大変豪華で、原作の初回限定版にはその豪華声優陣によるドラマCDもあったりする。
リアルタイムの頃はヒロインの等身大フィギュアもあったりして、かなり大規模なコンテンツだったのではなかろうか。
その割に知名度があまりないのは、やはりコミックブレイドが弱かったというか、他の少年誌が強すぎたというか、そもそも大ヒットタイトルが多い時代だった。
それでも東先生による美麗な絵と困難に立ち向かう主人公たちの愛と冒険の記録は、他には代えられない魅力がある。
僕の中では少年マンガとして頂点に君臨するのは「エレジェ」でこの先変わることがない。
というのも、僕自身がもう少年では無くなったというのもあり、昨今の少年マンガはジャンプ作品でさえも全く面白くないと切り捨てるぐらい性に合わなくなったからだ。
少年マンガは少年の日だからこそ夢中になれるのであって、故に夢中になれなくなった今、この王座を脅かすものが無い。
きっと「ワンピース」が頂点のまま大人になった人は「ワンピース」が完結したらそれを超える作品に出会うことは無いだろうし、「呪術廻戦」もそうだし、まだ見ぬ新作でもそうだろう。
それで言うと、「蒼」が未完であり続ける限り、僕は永遠に少年の気持ちで続きを楽しみにしながら過ごすことができる。