「イマイチ盛り上がらない……」作曲初心者にありがちな"つまらなさ"を解説②
Wrenです。
前回は「サビに役割を持たせようね」という話をしました。
サビは楽曲の中で最も重要なセクション。
曲中で最も"強い"メロディーを配置することは皆さんも理解していると思いますが、セクションとしての「役割」という観点を持つことで、"強い"サビはより強くなります。そして"強い"メロディー以外でもサビに配置できるようになれば表現の幅も広がるでしょう。
ということで第2回では2種類のサビに与えるべき役割の変化を解説していきたいと思います。
そうそう、これは前回言い忘れていたのですが、僕の作曲論は音楽理論から見た曲の作り方というよりは構成とか捉え方とかそういう切り口で解説する「作曲論」です。僕は今までそういうのを解説してる本とかを見たことないので、僕の考えや理論をお話しています。
なので、「なるほどな! 採用!」と思ったら取り入れてくれれば良いし、「それは違うかなー」と思うのならそれで良いのです。
ただ、完全に間違ったコトを言ってたらそっと教えて下さい。
サビに与えるべき役割の変化
サビというセクションが持つのは、「曲の顔」とも言えるくらいその曲が持つ雰囲気とか色とかを聴き手に突きつける「決定力」。同じく聴き手に与える曲の印象を決めてしまうリフ(リフレイン)よりもさらに強い決定力を持っています。
それだけ曲にとって大事なセクションですから、そこまでのメロディーとは離れた性質の役割を持たせる必要があります。
サビに与えるべき役割の変化は次の2つ。
1.盛り上がるサビ
「いやフツーじゃん」と思ったそこのアナタ、その「盛り上がる」じゃないんです。メロディーが"強い"とか、聴いててテンションが上がるとか、そういった意味の盛り上がるではありません。
2.盛り下がるサビ
字面で見ると「いや何言うてんねんコイツ」ってなりますね。
でも、この「盛り下がる」という役割を持たせたサビで盛り上がる曲はたくさんあります。尚更なに言ってんのって感じですね。
今述べたように、役割としての「盛り上がる」「盛り下がる」はメロディーが"強い"等といった意味ではありません。
聴き手の感じる「盛り上がり」ではなく、曲のセクションの「温度差」です。曲の緩急ともいえるでしょう。
しっかり解説していきます。
「盛り上がるサビ」とは
セクションの役割としての「盛り上がる」は、予想しやすく、飲み込みやすい手法だと思います。
具体例を挙げますね。
B'z - ギリギリchop (1999)
https://www.youtube.com/watch?v=wr7xTGTG-Mo
まずは僕の好きなロックから。
ブレイクを挟むので分かりやすく区切れています。サビに入った途端に「ギリギリ」「フラフラ」などとフックの強いメロを中心に勢いが出ています。
準備運動のAメロ→助走のBメロ→跳躍するサビ、といった具合に僕が述べている「曲の盛り上がり」というテンションカーブを感じてもらえるかと。
Official髭男dism - Pretender (2019)
2019年のヒット曲だとこの曲が分かりやすいですね。
オケの楽器数が増えたりボーカルに高音が増えたりといった要因もありますが、聴いてる側も演奏する側も、サビとそれ以外では気分の高揚に違いを感じるハズです。
https://www.youtube.com/watch?v=TQ8WlA2GXbk
宇多田ヒカル - SAKURAドロップス
サビの役割として「盛り上がる」のは静かな曲やバラードでも同様です。
サビのメロディーだけで言えば決してキャッチーなメロディーラインでも強烈なワンフレーズがあるわけでもありませんが、それまでの曲の流れとは明らかに「サビ」というセクションが分離していること、曲の温度が上がっていることが分かりますよね。
https://www.youtube.com/watch?v=jYDM0sYfqnM
ryo - メルト (2007)
ボカロ特有の超高音メロディーが注目を浴びますが、それ故に分かりやすい例です。サビ前は低く、サビは高く。前回の記事で説明した「メリハリ」がしっかりしていますが、一番メリハリがあるのはやはりこのサビというセクションだというのが分かるかと思います。
https://www.nicovideo.jp/watch/sm1715919
Michael Jackson - Thriller (1982)
メガヒット曲でも曲のテンションカーブを感じることができます。
キャッチーな「ワンワード」でサビに惹き付ける曲は基本的にこの「盛り上がるサビ」に分類できます。
https://www.youtube.com/watch?v=sOnqjkJTMaA
なるべく全部知らない曲だわということにはならない選曲をしました。
他に分かりやすくて有名な曲だと「残酷な天使のテーゼ(高橋洋子)」「前前前世(RADWINPS)」「言葉にできない(小田和正)」「アゲハ蝶(ポルノグラフィティ)」
サビの基本として聴き手が聴いていて一番「盛り上がる」セクションであるというのを踏襲すると、曲のセクションとしても一番テンションが高い、温度が高い、曲自体が「盛り上がっている」というのがお分かり頂けたと思います。
逆に聴き手の「盛り上がる」と曲が「盛り上がる」場所が重なっている為、僕が本稿で述べたい意味についてはちょっと見分けがつかないかもしれません。
「盛り下がるサビ」とは
今度は僕の主張するニュアンスでの「盛り上がる」が分かりやすいと思います。
同様にまずは例を挙げていきます。
GReeeeN - キセキ (2008)
サビで勢いを落としているのがお分かりでしょうか。とても分かりやすい例だと思います。
詞の歯切れが良いアクセントでノリやすく、ポップスなのでメロディーがキャッチーでテンションの落ちを感じさせないのが「巧い」一曲ですね。
https://www.youtube.com/watch?v=DwTinTO0o9I
BABYMETAL - メギツネ (2014)
メタルは激しく頭を振ったりモッシュを行ったりする、テンションの高いジャンルですが、「盛り下がるサビ」の多いジャンルでもあります。
オケのテンションは落ち、メロディーラインも決して高いテンションではありませんが、聴き手にとっては盛り下がることはありません。
https://www.youtube.com/watch?v=cK3NMZAUKGw
THE AGONIST - Panophobia (2012)
あまり一般的なジャンルではないため有名な曲というワケでもありませんが、「盛り下がるサビ」でめちゃくちゃ分かりやすい例だと思うのでメタルついでに紹介します。
ハイスピード・ハイテンションの曲ほど盛り下がりの落差にパンチが生まれる気がします。
https://www.youtube.com/watch?v=EdT7M4f2L9A
E・エルガー - 行進曲「威風堂々」第1番
厳密にはクラシックにおけるサビと言えるセクションは「主題」ですが、現代楽曲の構成と僕の作曲理論、そして多くの人の認識と扱いから有名なセクションをサビと捉えてここに加えました。
それでも僕の主張していることと本質は同じで、この有名なセクションは元気な主題から打って変わって厳かで雄大な空気を纏います。曲としては盛り下がっていますが、聴き手は勝ち旗が掲げられるのを見守るような、そういう高揚を感じます。
https://www.youtube.com/watch?v=R2-43p3GVTQ
ゴム - 思い出は億千万 (2007)
「おっくせんまん!」の弾幕と千切れる高音で盛り上がる楽曲ですが、テンションは落ちています。
元々はゲームのBGMなので、インスト音楽でも通じる手法という意味で受け取って下さい。
https://www.nicovideo.jp/watch/sm83
他にメジャーな楽曲で思いつくものとしては、「蠟人形の館(聖飢魔Ⅱ)」「めざせポケモンマスター(松本梨香)」「ブルーバード(いきものがかり)」等。盛り上がるサビよりは少ないですが、全体ではほぼ二分していると思います。
盛り下がるサビは、単純にメロディーの勢いを落としただけではサビとしての役割を果たしません。多くの場合、「サビのセクション後半部分にメロディーに変化を与える」「『合いの手』などの煽りが入ることを意識している」といった要素があります。「キセキ」ではサビの二回し目でブレイクを挟んで強調して「Ah」と一緒に口ずさみたくなる強いフレーズが入ります。「ブルーバード」も同様に「青い青いあの空」とテンポの良い強調を押してきます。「めざせポケモンマスター」は「Ah 憧れの」という大サビが待っています。「思い出は億千万」はご存知のあの「おっくせんまん!」という強力なフレーズで一体感を得ます。
それぞれのサビを上手く使うには
多くの初心者さんが目指すサビは、前者のことと存じます。
曲の持つテンションも聴き手側のテンションも盛り上がるのは結構なことです。しかし、それを上手く使うにはやはりコツが必要です。
強いメロディーを置くだけではパンチ力は出ません。そのサビに至るまでのプロセスが大切です。盛り上がるサビにしろ盛り下がるサビにしろ、そのプロセスによって聴き手側を盛り上げるも盛り下げるも決まります。
まずは「盛り上がるサビ」。
曲自体のテンションをしっかり盛り上げるには、強いメロディーが必要不可欠です。
一番簡単なのは、「強烈なワンワード」で惹き付けるサビです。サビのメロディーは二回し・四回し・……といった具合に偶数の倍数で構成される場合が多いです。そのド頭に強烈なワンワードを置いてやる。例えば、例で挙げた「メルト」は「㍍⊃」というスラングで弾幕が流れるほど、サビの頭に印象的なワンワードがありますね。
ワンフレーズが短く、節回しの回数が増えれば、より強調されます。公式な動画を見つけられなかったので例には挙げていませんが、アヴリル・ラヴィーンの「Together」は四回しある上に、最後のサビではこのワードだけを繰り返す構成になっています。ここまでリフレインされると、単純なワードとフレーズなだけに、聴き手にしっかり印象を与えられます。
そうでない場合はメロディーやコードによる「曲の展開」が重要です。作曲家でもある志倉千代丸さんは「盛り上がるサビ」を用いることが多い作曲家です。志倉さんの楽曲はサビに至るまでが長く、Aメロ・Bメロ・Cメロぐらいのセクションの変化を経てからサビに入ることも少なくありません。アニメ版シュタインズ・ゲートOPの「Hacking to the Gate」はそのサビに至るまでのプロセスでもセクションごとに役割の変化がある為、サビに爆発力を持たせていますね。引き立つサビというより引き立たされるサビとでも言いましょう。
サビ前にブレイクを挟むことも有効です。相川七瀬さんの「夢見る少女じゃいられない」では歯切れよくBメロを終わらせた後、前のめりでサビに突入することで長いメロディーに盛り上げをさせることができています。ブレイクは(形式上)強引に区切りがつくので、スイッチを切り替えたようにサビに入れますし、溜めで次のフレーズを強調するのは作文法でも使われている手法です。
曲の展開で盛り上げるサビは、一曲毎に効果的な手法やその中身が違います。ちょっと難しいですね。でも、曲を作ることに慣れてくれば自然と落としどころがつかめてくるので、すぐに盛り上げるサビを扱えるようになるでしょう。センスが良い人は無意識にできていることも多いと思います。無意識にできている人も、改めてここで咀嚼しておくことで意識して使えるようになり、芸幅が広くなるんじゃないかなーと思います。そういう僕の芸幅は狭いです←
「盛り下がるサビ」は、「盛り上がるサビ」以上にサビまでのプロセスが重要になってきます。
「キセキ」ではゆったりしたAメロからリズミカルなBメロ、そしてサビ前にメロディーが上行して上り詰め、借用和音で緊張感まで演出してからの落ちサビ。天才ですね。
絶対可憐チルドレンのOPである「Over The Future」は、イントロの前にサビが始まる……のではなく、Bメロから入ります。あらかじめ曲のテンションの最高潮はココだよ、と提示しています。大抵の場合はそれがサビなのですが、そこで紹介するのをBメロにしておくことで、安定感のあるサビに落とすことができます。勿論それだけでなく、後半に三連符・上行・借用とノリを作り、最後にはトドメに決め台詞のようなフレーズが入ります。
該当の項で説明したように、「盛り下がってるけれども聴き手を惹き付ける要素」が必要になってくることがお分かりでしょうか。サビ後半にキャッチーなフレーズを持ってくる、大サビが待ってる、シンガロングがある……といった工夫です。
また、それとは別にメタルやハードコアといったジャンルを中心によく見られるのが「観客に踊らせる時間」として使うこと。他のポップス等と違い、例に挙げた「Panophobia」はサビでモッシュ(オーディエンスが飛び込んだり、激しく駆け回る等のアクションです)を催しています。ポップスのように単純にノリの良くキャッチーなメロディーだと、こういった激しいミュージックシーンのライブでも「観客が昂ぶりのままに暴れる」ことができません。敢えてノらせないことで生まれる音楽的ストレスがあると僕は考えています。
まとめ
サビに与える役割は大きく2種類あるよ、というお話をしました。
正確にはサビがとる役割によって曲は大きく2つの形態に分かれるよというものなのですが、それだけサビというセクションは曲に大きく影響を与えるから、単純にサビに与える役割として紹介しました。
う~ん我ながらあまり分かりやすい解説ではなかったかもしれない。精進します。
「盛り上がるサビ」と「盛り下がるサビ」をどうやって活かしていくか。
ここは少し高度なお話になってきますので、順を追って解説する記事を書きたいなと思っています。
しかし、どちらを活かすにも共通する、根本的なポイントがあります。
それは、「サビへ至るまでのプロセス」です。
ここまで読んだ方は気づかれたかもしれませんが、「盛り上がるサビ」も「盛り下がるサビ」も、そのセクション単体では「ただのサビ」なんです。ちょっと他のメロディーよりキャッチーなだけの、ただのセクションでしかない。それを「盛り上げるサビ」にするも「盛り下がるサビ」にするも、その直前の駆け引きやリフから続く流れが決めてしまうのです。
もうお分かりですね。
役割を与えるべきセクションは、サビだけではない。
イントロにはイントロの、AメロにはAメロの、BメロがあるならBメロの「役割」が存在するのです。そして彼らのセクションが持つ役割は本質から言ってしまえば「如何にしてサビへと繋げるか」に尽きます。
これは貴方の音楽によってすべきこと、与える役割が変わってきます。でも「サビには・セクションには、役割を持たせるようにしなくちゃ!」という視点を手に入れた貴方ならば、きっと自分の音楽に与えなくちゃならない成分は何かが見えてくるのではないかと思います(無責任)。
本稿では、先ずはサビに役割を持たせてね~~~という切り口から初心者にありがちな平坦でつまらない曲に指南をしました。でもこれは本当に最初の一歩に過ぎないんです。
さぁ、ここからが音楽です。
というワケで、本稿で述べたいのは第一に「サビに役割を持たせる」、その本質に「全てのセクションには役割がある」です。
この話にもモチロン例外はあって、童謡「ひな祭り」のように、セクションに分かれず長いフレーズを1番2番と重ねるようなケースがジャンルによってはあったりします。あまり詳しくないので下手なことは言えませんが、HIPHOPなんかはサビというセクションではなくワードやフレーズでその役割を果たすこともありますし、サビだけを繰り返すような構成や最後の最後までサビがない構成、逆にサビの役割を持つセクションがいくつも回ってくることもあります。ただ、そういったものは現代音楽シーンでは極めて少数派なので、初心者を脱出したい!というレベルの人は考えるべきではない領域だと思っています。
次回予告
Aメロ・Bメロはサビへの布石。
サビは盛り上げたり盛り下げたりして曲の顔に。
じゃあ次は何かと言えば、曲の「服装」とでも言うべきセクション。
貴方の曲を生かすか殺すか「イントロの意義」。
次回、『「なかなか曲を聴いてもらえない……」それは100%「〇〇〇〇」の所為』
おっしお前ら創造の時間だッ!!
Wren
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