月下美刃

遠藤達哉先生といえば今では「SPY×FAMILY」(以下「スパイファミリー」)が一番の代表作だが、この「月下美刃」や「TISTA」といった隠れた名作があり、しかしその実力に反して世間の賛同をなかなか得られなかった。
「スパイファミリー」がヒットしたのは結局のところマーケティング的な要素だと思っていて、やはり一般ウケしやすいマイルドさではないかと思う。
「月下美刃」や「TISTA」を読んだあとでは少し物足りないと感じたのが僕の感想である。

「月下美刃」は竹取物語をモデルにしていて、全5巻という尺から考えると結構重厚なSFというか、濃密なSFが展開される。
読み切り版もあるが、当然のように情報が大渋滞するカロリーの高い読み切りだ。

少年マンガのお手本だと思っている。
キャラの立った主人公、導入での動機付け、2枚目3枚目のキャラクターも丁度よい目立ち方。
主人公・カグヤの成長としてもしっかり筋があって、物語も気持ちよく締め括られている。
前述の読み切り版と比べるととても分かり易く、キャラクターの名前一つ取っても物語やキャラクターの相関が読み取れることだったり、作品の色が明確になったりと「ああ、上手い作品ってこんな細部がしっかりしているんだな」と素人目にも理解できる。
参考にならないのは画力くらいではなかろうか(読み切り時点で既に上手すぎる。wikiによると連載版より10年近く前に描かれているのだが)。

もう何度も擦っているが、僕はジャンプ系少年マンガをあまり面白いと思わないタイプなのだが、多分そこが「月下美刃」を評価する要因であり、世間一般に浸透しなかった理由でもあると思う。
しかし、「TISTA」よりはストーリーは明るいし、文量は多めとはいえ全体は王道的でもある。
女性主人公というのがあまりピンと来ない要素だったか?とか、分かりやすく特別な能力が〜みたいなものでもないからか?リビドーやら色恋成分か?と考えたりするが、なんだかそういうのを考えながら物語を創るのはクリエイター的にはチョットなぁと思ったりするのだ。

読み切り版は短編集として単行本も出ている。
読み切りという制限もあるし、性質上 荒削りなものもあるが、どれも読み切りとは思えないクオリティーと面白さと味がある。

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