少林サッカー

コメディー映画というのは大抵の場合は一度見たら十分で、やはり笑いには鮮度があるなと思うし、考察の余地がないとどれもう一回とはなかなかならない。
この「少林サッカー」は数年おきに観たくなる魔力がある。
ふとした瞬間――例えば、カンフー映画のCMを見た時。
サッカーのスーパープレイを見た時。
裸足や履き潰した靴で過ごす発展途上国の映像を見た時。
バブル期のあの肩パッドファッションを見た時。
そんな時に思い出しては、ちょっとリピート欲求が生まれる。

監督兼主演のチャウ=シンチー氏の出演した・監督した作品は、実はこの「少林サッカー」しか記憶にない。
しかし、無邪気を形にしたような主人公シンの演技・そしてどこを切り取っても名シーンの構成力とカメラワーク・CGも当時の中ではかなり気合いの入った作り込み・コメディーながら高い脚本力・どれを取っても申し分ないのだから、有名な作品でなくても見るまでもなく面白いだろう。

スポーツ+超常能力のコンテンツはそれこそ昔から多くあったが、清々しいまでの思い切りの良さで実写でやったのはこの「少林サッカー」くらいではなかろうか。
そのノリは日本のアニメやゲームのソレに比肩するが、あくまで少林寺拳法の誇張というのが日本のコンテンツではなかなか見られない。
日本のコンテンツだったら別の拳法や格闘技も出るし、別スポーツ出身選手も出るし、超異能力もフツーに入ってきてしまう。
それらを切り捨てているからこそ、日本カルチャーに慣れ親しんだ僕らから見ても面白いのだ。

ただのコメディーに終わらないところも素晴らしい。
ロマンス要素も地味に丁寧に描いているし、靴というアイテムを情景描写としてとても上手くシンプルに使っていて、脚本のお手本のようにキレイで分かりやすい。
シンがサッカーにのめり込んでいくことも、周りに人が集まってくるところも、結末の少林寺ブームに至るまで、しっかり説得力を持っているからこそただのコメディー映画やアクション映画の枠に収まらない魅力があるのだと思う。
「少林サッカー」以降に似たようなn番煎じはあったが、一過性に過ぎず定番にならなかったのはそういった細部の作り込みの違いだろう。

最も近いジャンルだとジャッキー=チェン作品やサモ=ハン=キンポー作品ではないかと思うが、それらとも明確に違う独自性があり、「少林サッカー」からでしか接種できない栄養素がある。
この手のスラング構文がこれほど似合う作品はそう無いだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?