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POOLのちょっとだけウンチク 第4回 Mike Pedicin『Burnt Toast And Black Coffee』 selected by ROY(THE BAWDIES)

WOWOW MUSICがお送りする、音楽好きのためのコミュニティ"//POOL"
その企画・構成を担当する吉田雄生が、いつものあの曲の響きがちょっと変わる(かもしれない)
とっておきのウンチクを書き綴ります。

今回のアーティストはTHE BOWDIESのROYさん。ROYさんはシングル盤のアナログのお宝をおよそ50枚も持ってきてくれた。中でも“とっておきのアナログ”は、Mike Pedicinの『Burnt Toast And Black Coffee』。

「マイク・ペディシン?知らないや」という方がほとんどではないか。僕も知らなかった。それもそのはず、アルバムも出していない50年代の白人のロックンローラーなのだから。

ROYさんは『R&B』というタイトルのコンピレーションアルバムの1曲目のこの曲を聴いて衝撃を受け、このシングルが欲しくて欲しくて、10年以上も探した挙句、ようやく1000ドルで手に入れた逸枚だそうだ。

すでにジャケットデザインも紛失しているドーナッツ盤(ドーナッツのように真ん中が丸く開いていることから、昔はこう呼んでいた)。これらをコレクションしているROYさんは筋金入りのシングル盤コレクターだ。


「ロックンロール」のはじまり

ところで、50年代の「ロックンロール」といえば、すぐにメンフィスを思い浮かべる。当時、アメリカの南部テネシー州のメンフィスのビールストリートには才能溢れるブルースマンたちが集まっていた。

そこにサム・フィリップスという人物がレコーディング・スタジオをオープンしたのは1950年のことである。その時サム・フィリップスはこんなキャッチコピーを掲げた。「どんな音楽でも、いつでも録音します!片面3ドル、両面4ドル」。

そのサムのもとで、ミュージシャン兼スカウトマンとして働いていたのが、後にアイク&ティナ・ターナーで数々のヒットを飛ばすことになるアイク・ターナーだった。

アイクは才能あるブルースマンを見つけるとサムにレコーディングを依頼し、完成したテープをシカゴやロサンゼルスのレコード会社に送っていた。

アイクがサムのスタジオで自らレコーディングしたのが『ロケット88』で、この曲はR&Bチャートの1位を獲得した。この成功を目の当たりにしたサム・フィリップスはすぐさまサン・レコードを設立した。

黒人のブルースマンのレコーディングを続けながらこう考えたのだ。「黒人のソウルフィーリングとグルーヴを持った白人シンガーを見つけることが出来れば、俺は間違いなく億万長者になれる」

とある日、白人の若者がサン・レコードを訪ねた。母親の誕生日に自分の歌をプレントとしたいという純粋な理由でスタジオにやってきた青年こそ、エルヴィス・プレスリーだった。

サムはこの黒人のソウルフィーリングとグルーヴを持った白人シンガーを世に送り出し、白人の若者たちが熱狂する「ロックンロール」を生み出したのだ。

「ロックンロール」と「ロック」

「ロックンロール」言葉を最初に使ったのはラジオDJのアラン・フリードだと言われている。このロックンロールに若者たちは憑りつかれた。そして、その頃多くの白人ロックンロールシンガーが登場した。

アルバムまで出せたシンガーはごくわずかのスーパースターだけで、多くのシンガーは一発屋で消えていった。

おそらくその一人がマイク・ペディシンだったのではないか。シングルが売れたとしても、そのアナログがいい状態で保存されているものが少ないから、ROYさんのようにマニアの間で高額でアナログが取引されているのだ。

それにしても「ロックンロール」という呼び方が「ロック」に変わったのはいつからだろう。ビートルズが登場した直後は彼らの音楽は「ロックンロール」だった。

やがて、ビートルズは『リボルバー』あたりからスタジオでアルバムという作品に仕上げるようになった。「ロック」と呼ばれるになったのはその頃からだと思われる。

それにしても、改めてこの頃の曲を聴くとROYさんが言うように、複雑になりすぎた「ロック」よりも、シンプルでストレートな50年代の「ロックンロール」のほうが、むしろいま、新鮮で衝撃的に聴こえるから、時代というのは実に不思議なものだ。

(文・吉田雄生・WOWOW MUSIC//POOL企画・構成担当)

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