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POOLのちょっとだけウンチク 第9回 Pink Floyd『San Tropez』 selected by リーガルリリー(たかはしほのか/海)

WOWOW MUSICがお送りする、音楽好きのためのコミュニティ"//POOL"
その企画・構成を担当する吉田雄生が、いつものあの曲の響きがちょっと変わる(かもしれない)
とっておきのウンチクを書き綴ります。

POOLの今回のアーティストはガールズ・スリーピース・バンドのリーガル・リリー。

ヴォーカル、ギターのたかはしほのかさんが持ってきてくれた“とっておきのアナログ”はペンギン・カフェ・オーケストラ。
そして、ベースの海さんが持って来てくれたのがピンク・フロイドのアルバム『おせっかい』の中の1曲『サン・トロペ』だった。

若い女の子のバンドがピンク・フロイド好きとは、なんか嬉しい。海さんは元々サブスクでピンク・フロイドやローリング・ストーンズを好んで聴いていたが、この番組がきっかけとなり、アナログを購入。その魅力にはまってしまったという。

ピンク・フロイドのジャケットがヒプノシスというアートデザインチームが手掛けてることを先週このエッセイで書いたばかり。その偶然にも驚いてしまう。

海さんは『原子心母』の方が作品としては好きだったそうだが、あの牛のアルバム・ジャケットを部屋に飾る勇気はなく、『おせっかい』を選んだそうだ。

『原子心母』

ところで、この当時の洋楽には邦題を付けるケースが多かった。洋楽ファンを増やすための一つの戦略だったのだろうと思う。『原子心母』は原題『Atom Heart Mother』を単にそのまま直訳したもので、名付けたのは故・石坂敬一氏。

後にユニバーサルミュージックの社長、ワーナーミュージックのCEOを歴任した日本の音楽界にとって重要人物だが、当時は東芝EMI(現・EMIミュージック)の洋楽ディレクターだった。

石坂さんはピンク・フロイドの音楽の深さとアルバム・ジャケットに感銘を受ける。石坂さんはあの牛のジャケットに漢字で『原子心母』と大胆に置くことが最もこのアルバムにふさわしいと考えたのだろう。

帯にはこんなキャッチコピーが踊る。「ピンク・フロイドの道はプログレッシヴ・ロックの道なり!」

「プログレシッヴ」という言葉はまだ一般的ではなかった。「先進的」とか「前衛的」ということで、聴く側に覚悟を要求したのではないか。当時はラジオでかかるかどうかが、ヒット作りの重要なプロモーションだったが、ピンク・フロイドの曲は長すぎた。

だが、ニッポン放送の深夜番組オールナイトニッポンのパーソナリティ亀渕昭信さんは、この『原子心母』の23分にもわたる曲をオープニングで敢えてフルでかけて話題になる。こうして、ピンク・フロイドは日本でも多くのファンを得ることになったのだ。

アナログ・レコードの楽しみ

それにしても、70年代80年代の洋楽の邦題はディレクターが好き放題につけていた印象がある。中にはいくら何でもというものもある。いくら海外のアーティストが、日本語がわからないとはいえ。

T.Rexの『Licuid Gang』が「いやな液体」。ダイアー・ストレイツの『Lady Writer』が「翔んでる!レディ」。10㏄の『How DareYou?』が「びっくり電話」、、、(笑)。一方で、バグルズの『Video Killed The Radio Star』が「ラジオスターの悲劇」というのは上手だなぁ、と思うけれど。

アナログ・レコードはこうしていくつもの楽しみがある。ライナーノーツを読むのが楽しみだった。ライナーノーツとはアルバムの解説文のことである。ライナーノーツにも好き嫌いがあった。石坂さんのライナーノーツも好きだった。渋谷陽一さん、立川直樹さんの文章も好きだった。

いまはスマホのサブスクで、好きな音楽を聴き放題、さらにはレコメンドされた曲で新しい音楽を発見できる時代なった。それはそれで素晴らしいことだし、夢のような音楽の革命だ。

しかし、一方で、1曲1作品に素敵なキャッチコピーをつけたり、その魅力を文章で表現するライナーノーツも、とても大切で貴重だった。個人的には、是非復活させてほしいと思うが。

(文・吉田雄生・WOWOW MUSIC//POOL企画・構成担当)

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