Apple Font History 〜書体で見るAppleの歴史2〜
こんにちは。WOW UIチーム、デザイナーの門田です。前回の記事では「Apple Font History」と題して、1970年代~1990年代にAppleが使ってきたフォントをご紹介しました。
今回はVol. 2です。iPodやiPhone、iPad、Apple Watchといった現在につながるプロダクトやサービスが多く生まれた、2000年代~2010年代について見ていきましょう。
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2000年代
「Lucida Grande」は、2001年のMac OS X Pumaから、2013年のOS X MavericksまでのUIに使用されたシステムフォントです。低解像度ディスプレイでの視認性の高さを目的に作られたフォントです。文字のラインの先端は垂直にカットされていますが、同じく視認性が高く駅などで使用されているFrutigarも同じ特徴を持っています。
2013年、OS X Mavericks
「ヒラギノ角ゴ」は、Lucida Grandeと同時期、初期のMac OS Xから使用され、現在もAppleのすべてのOSの日本語システムフォントとして採用されているフォントです。字游工房によりデザインされました。くせのないデザインで、今や多くの人が日常的に見ていることもあり、Helveticaのように極めて普遍性の高い、空気のような存在になっていると言えるのではないでしょうか。ちなみに、ヒラギノシリーズは他にもあり、「ヒラギノUD角ゴ」は仙台市地下鉄の駅名表示や、「デザインあ」で見ることができます。
「AquaKana」もMac OS Xで使用されていたフォントですが、隠しフォントであったためFont Bookでは表示されず、ユーザが自由に使うことはできませんでした。その名の通りひらがな・カタカナの書体で、漢字はヒラギノ角ゴが組み合わされます。長らくMac OS Xでは、ヒラギノ角ゴとAquaKanaが混在していました。2014年リリースのOS X YosemiteでAquaKanaは廃止され、ヒラギノ角ゴに一本化されました。明確に使い分けられていたわけではないので統一されてよかったと思います。AquaKana自体はかわいくて好きです。
「Myriad」は、2003年頃から2016年までAppleのコーポレートフォントとして使用されました。iMacやiPodなどの強烈にシンプルでポップなデザインにGaramondは流石に合わないと思うので、プロダクトデザインのトーンに合わせて採用されたのかなと思います。個人的にはAppleを知ったのがこの時期なので、AppleといえばMyriadという印象がいまだに強いです。iPodの「P」の左上の曲線具合、Macの「M」が台形なところ、iTunesの「e」の目は笑ってなくて口元だけで笑っているような表情が特徴的で好きです。
強烈にシンプルでポップなiMac G5(2004年)と
第4世代iPod nano(2008年)
「AXIS Font」は、2003年から2016年までMyriadとセットで使用され、現在はSan Franciscoと一緒に使用されている日本語コーポレートフォントです(厳密にはAXIS FontをベースにApple向けのチューニングがされており、Apple TPとかSF Pro JPとか言われています)。シンプルで、曲線が美しいフォントです。MyriadとSan Franciscoは全然違う印象のフォントですが、いずれにもAXIS Fontはぴったり合っていて不思議です。もともとは雑誌「AXIS」向けに制作されたフォントですが、今では多くの企業が採用しています。
Mac OS X Leopard(2007年)のウェブサイトより
2007年発表の初代iPhoneからiOS 6まで(スキューモフィズム時代)は、システムフォントに「Helvetica Bold」が使用されていました。同時期のiPodも同じフォントです。
初代iPhone(2007年、日本未発売)
2010年代
「Helvetica Neue」は言わずとしれた王道フォントですが、特に細いウェイト(Ultra Light〜Regular)が、2013年のiOS 7、2014年のOS X Yosemiteでシステムフォントとして採用されました。この2つのOSはフラットデザインに大刷新されたOSで、UI的にも転換点となりました。
WWDC 2014 メインビジュアル
「San Francisco」(以下SF)はApple独自開発のフォントです。DINとHelvaticaのいいとこ取りといった印象のサンセリフ体ですが、数字などを見るとより近いのはUniversかと思います。2014年発表のApple Watchのロゴ、UIに採用され、その後Appleのすべての製品のロゴ、キーボードの刻印、システムフォントとなりました。(OS X El Capitan以降、iOS 9以降)現在のコーポレートフォントです。私は製品発表プレゼンを年に数回の楽しみとして毎回見ているのですが、2016年9月のiPhone 7のイベントからスライドのフォントがSFになって「ついに全面刷新か…!」と思ったのを覚えています。
2020年現在、SF Pro、SF Mono、SF Compactの種類があります。また、Rounded(丸ゴシック体)がApple Cardや、iOS 13のロゴ、リマインダー App、Wallet App、Apple Watchなどに使用されています。近年、特にiOSやwatchOSではUIにおける直角の排除が顕著で、あらゆる角にスムーズなアールがついています。文字にもその波がやってきたということでしょうか。(iPhone XやApple Watch Series 4、iPad Pro 2018の筐体デザインに沿った角丸ディスプレイにより、プロダクトデザインとUIデザインのシームレスな融合が加速した印象があります)
左から、Apple Card、iOS 13 ロゴ、Apple Watch(watchOS 6)
2019年には、アイコンセット「SF Symbols」がリリースされました。9種類のウェイト、3種類のサイズが用意されており、UI上でSF Fontと馴染むようにデザインされています。iOS 13以降ではOSのUIに全面的に採用されています(GoogleにはMaterial Iconsがありますね)。WWDC 2020で発表された「SF Symbols 2」では、多くのアイコンが追加され、マルチカラーに対応しました。さらに、macOS Big Surにも採用されました。
「New York」は、2019年、iOS 13のBooksで採用されたApple独自のセリフ体です。ヘッダーの大きな文字に使われています。Booksだけ特別なセリフ体フォントを用意してくれて、電子書籍に少し温もりを感じられそうです。粋ですね。
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今回2つの記事にわたって、多くのフォントを調べながらご紹介してきて、時代時代の空気を感じられました。Appleのタイポグラフィを大事にする姿勢は一貫していて、これからも進化が続いていくのが楽しみです。改めて、UIやブランディング、プロダクトデザインにまでタイポグラフィが密接に関わっていることを実感しました。今回は多くのフォントを紹介するためそれぞれの情報は控えめですが、気になったものがあったらぜひ調べてみてください!
<Writing:UI Designer / Yutaka Kadota>
出典元:Apple