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新緑

久しぶりに自分で作ったごはんが、
こんなにも美味しい。
そのことに、複雑な感情になる。

こんなにも美味しい、「のに」、と思う。
「のに」の先は、言葉にしたくない。

あのころ、「暮らす」ことが楽しくてしょうがなかった。
自分で料理して、掃除して、壁を飾って、
あれやこれやと試行錯誤した。

晴れやかな気持ちで、
良い気候の日は窓を開けて、ゆっくりして、

「私って素敵だな」と感じた。

「今この瞬間が、なんて素敵なんだろう」と思った。

狭い家を、工夫して豊かにしようとするのが楽しくてしょうがなかった。与えられたものを最大限楽しもうとする自分が好きだった。
1人暮らしという「大人みたいなこと」をするのが楽しかった。

あのころは、「ごはんがこんなにも美味しい」の後に続くのは「のに」じゃなかった。
美味しい「から」だった。

美味しい「から」幸せ
美味しい「から」元気が出る
美味しい「から」自炊してえらい
美味しい「から」あの子にも食べてほしい


今は
美味しい「のに」なんで、最近いつもコンビニで済ませるんだろう
美味しい「のに」明日からまた辛い仕事だ
美味しい「のに」一人ぼっちだ
美味しい「のに」なんで悲しくなるんだろう

今いる場所が、好きじゃない。
今の自分が、好きじゃない。

好きになりたい。

過去がキラキラして見える。
当時見た新緑が、青々と頭の中で光っている。

今は、灰色。
あの頃より緑を見なくなった。
自分の機嫌が自分で取れない。
取ろうとしていなかった。
取るべきではないとも思っていた可能性がある。

一度、自分を捨てたと思う。
幸せではいけないと判断したと思う。
それくらい不安だったんだね。

大丈夫、大丈夫。

新緑を見た。頭の中でだけど。
いつぶりだろう。
見ただけじゃない。ただの「見た」じゃない、私の好きな、「見た」。説明したらその説明された感じ方に決まってしまいそうで嫌だから、説明しない。

これから、できるなあ。

これから。

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