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夢の中で空を飛ぶコツの話

たんぽぽの綿毛のように空を飛べる能力を得た。

しかし自由自在に飛行ができるわけではなく、あくまでたんぽぽの綿毛のように風に乗れるだけのやつである。
なので、よし飛ぼうと思ったら思い切りジャンプをしたり、少し高いところから飛んで、なおかつ良い感じの風をキャッチしなくてはならなかった。

呼吸で浮力をある程度調節できるようだった。
大きく深呼吸をすれば、ゆっくりとだが高く浮かび上がることができた。
息を詰めることで少しずつ地面に近づくことができた。

浮かび上がりさえすればOKというわけでもなかった。
フワフワと風に飛ばされてあらぬ方向へ行ってしまったり、街路樹に引っかかってしまったりした。
それでも、建物の壁などに飛び移ったり、壁を蹴るなどして行きたい方向に調節することができた。

ある日突風が吹いた。
夕方、一人で歩いている時のことだった。
ざわざわと風の音がしたかと思うとごうと吹き付ける強風に吹き飛ばされてしまった。
普段はよし飛ぼう、と腹に力を込めなければ飛べやしないのに、強風にさらわれてしまったかと思うと街路樹や電柱などあっという間に小さく見えるほど空高く舞い上がってしまった。

方向音痴ながらに飛ばされていると自分の住んでる街がどんどん遠ざかって行くのが分かった。日がどんどん暮れてしまい、青黒い山や田んぼが見えてきて心細かった。それでいて点々と見える民家の光がきれいだな、と思った。

自分がどのくらいの時間空を泳いでいるのかもはや見当がつかない程度に飛ばされた。風がゆるやかになる瞬間を見計らって一生懸命地面に近づいてみる。ようやく両の脚が地面にくっついたので安心してそのまま座り込んでしまった。
スマホも荷物も最初に飛ばされた時に手放してしまっていたので着のみ着のままである。
近くに見える民家を訪ねて、事情を説明して助けてもらった。
降り立った地が自分の家からえらく離れていることを知り、驚愕した。
お世話になったお家のひとには、ずいぶんと遠いところから飛んで来ちゃったんだねえと言われた。
電話を借り、家族には連絡が取れた。無事でよかったと言われた。
ひどく疲れていたが笑ってしまった。

そこで目が覚めた。

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