コロナ禍の学会オンライン開催を考える
センスがないので、たいそうなタイトルをつけてしまいましたが、大した話はしません…
昨日何の気無しにしたツイートに思ったよりもいいねがついたのでびっくりしている、それだけの話なのですが、
このご時世で学会のあり方が大きく変わるのかもしれないな、と思い、筆(?)をとりました。
今年春の学会シーズンに開催される予定だった多くの学会は中止になり、
これから迎える秋の学会シーズンに開催される予定の学会も、WEB開催や延期が続々と発表されています。一部学会はWEB開催と現地開催の両方を行うハイブリッド開催が試みられようとしていますが、現状では今までのように現地開催が開催されるのは当分の間は無理なような気もします。
6月に実際にWEB開催の学会に参加したので、そこで感じたオンライン学会のメリット・デメリットを記したいと思います。
《メリット》
<①気軽に参加することができる>
まず1番はこれでしょう。
家、大学、職場など思い思いの場所から学会に参加することができます。発表者でなければスーツを着る必要もありませんし、とても気楽です。
加えて、学会開催地への移動時間が0な上に、旅費・宿泊費、懇親会費などの金銭的な負担が小さくて済むのは、個人としてもラボや組織としても大きいのではないでしょうか。
学会や研究会のほとんどは学生の参加費が安価であり、会によっては無料というものもありますので、研究を始めたばかりの学部生や、まだ学会発表をするにはデータが揃い切っていない院生にとっても学会という場の雰囲気を知るにはうってつけの機会かもしれません。
<②情報へのアクセスが容易>
学会に参加する場所の作業環境が充実していれば、という前提はつきますが、これが僕が一番大きなメリットとして感じた点になります。
発表を見ていて気になったデータについて、論文をGoogle ScholarないしはResearcher Map, PubMedなどで引っ張ってきて、Paperpileに追加するという一連の流れがとてもスムーズにできました。
参考にできそう or 面白そうな論文を漏れなく拾えたという点で非常に有意義でした。
僕はこの学会後に、この先もこういう機会が増えると踏んで、新しくPCモニターを購入しました。
PCモニターやタブレット端末などがあればよりこうした作業が捗ると思いますので、お勧めです。
<③運営がスムーズ>
スケールが大きい学会を果たしてWEBで開催してうまく回るのか、という心配をしていたのですが、
サーバーに負荷がかかりすぎないように、
質問をチャットで受けて座長がまとめて質問するなど形式が工夫されていました。
スポンサーセッションでは、チャットを活用してテクニカルな相談が通常の学会のようにできていました。
システムの特徴を使いこなしながら、しっかりとオーガナイズされた運営をしていただいたおかげで、
前もって抱いていた不安要素は払拭されストレスなく学会に参加できました。
<④セッション間の移動が容易>
対面開催の学会だと、会場間が離れていたりして、聞きたい演題があるけど会場が遠いから…と断念せざるを得ないこともあるかと思います。しかしながらWEB開催であれば、トークルームを移動するだけなので、非常にスムーズですし、奥の手として複数のセッションに同時に参加することもできなくありません。
<⑤ちょっとしたハプニングを楽しめる>
これは完全におまけなのですが、重鎮の先生方がマイクミュートを解除し忘れたままで話出したり、平仮名でかわいい感じの表示名にしていたり、といったオンライン講義でもあるような、ちょっとしたハプニングを楽しめます。
《デメリット》
<❶未発表データの取り扱い>
先日もTwitterで話題になっているのを目にしましたが、録音・録画が禁止されているといえど、画面の向こうに誰がいるかわからない、何をされているか分からないので、未発表データをどうするか、ということが非常に悩ましい問題ではないでしょうか。
今回参加した学会が、プレゼン、ポスター共に英語で作成しなくてはならなかったために、僕の指導教官の先生も『日本語だったら多少は気を使わないで済んだんだけどなぁ…』と、未発表データの取り扱いについて非常に苦心していました。
僕は、本来発表する予定だったデータの半分ほどをカットし、先日アクセプトされた論文に発表したデータのみでポスターを作成し、
ポスター賞にエントリーしていた先輩はコピーガードを自分で作成し各 figureに入れ、という対応をとることになりました。
このままオンライン開催が続くと、未発表データに対してのフィードバックをもらう場としての学会のポジションが危うくなりかねないですし、後輩たちの発表の機会も限られてしまわないか、とても心配です…
<❷そもそもフィードバックを受けづらい>
僕は今回ポスター発表をしたわけですが、質問をひとつも受けることなく終わりました。そもそも誰かが僕のポスターを見たのか、というところからあやしいです。
昨年の年会でテーマの幹となる部分を発表してしまったがために、今年は枝葉をちょちょちょっと埋めるようなデータで発表する予定でした。しかし前述の通り、その枝葉も半分を刈り取ってしまったがために、今回の僕のポスターは枯れ木みたいなものでした。
対面開催の学会のポスター会場であれば、手持ち無沙汰にしていれば、見かねた先生や誰かしらが声をかけてくれて、ちょっと説明して、となりますが、ポスターの前に人が存在しないWEB学会ではそんな世話焼きをしてくれる方はおらず、画面のこちら側でヤキモキしたまま学会期間だけが過ぎていきました。
『なんのために学会に出たんだろう?』
学会期間が終わって、真っ先に出てきた感情はこれでした。
頑張って出したデータがWEB開催で人の目に触れずに消費されていくことほど虚しいことはありません。
もちろん目を引くようなテーマであればそんなこと起こらないでしょうが、
ちょっとした会話であっても、他者の視点が入ることで新たな気づきが生まれ、研究を推し進めるなにかを得られる、そんな機会こそ学会だと思っていたので非常に残念でした。
この経験から、秋の学会は出来るだけオーラル発表で出るぞ、ということを心に決め、今いくつかの要旨を書いています。
<❸学会に集中できない>
これは僕自身の反省すべき点でもあるのですが、
現地開催の学会に行けば、することは
1. 学会に参加する
2. ホテルでゆっくりする
3. 観光をする
のせいぜい3つくらいしかないと思うのですが、
WEB開催で、大学で学会に参加すると
1. 学会に参加する
2. 実験をする
3. 後輩に話しかけられる
4. 講義がある
5. 事務仕事が降ってくる
(以下略)
普段の大学・研究室での活動にプラスして学会参加、という状況になってしまいました。
ちょっとした実験だけを組み込んで学会に集中する体制を敷いていたはずなのですが、
現実は、大学院講義に出席しなくてはならなかったり、後輩に実験の相談をされたり、実験中マウスが突然死ぬというハプニングに見舞われたりしたことで、聞きたかった発表をいくつか聞き逃すことになってしまいました。
ですので、WEB学会に参加する際は出来るだけゆったりとしたスケジュールを設定することをお勧めします。
<❹モチベーションが保てない>
❸とリンクしている面も強いので、
これもひょっとしたら僕個人の問題かもしれません。
気軽に参加できる反面、学会特有の緊張感のようなものが欠けてしまっていたような気がします。
また、WEB講義でもそうだと思うのですが、『分かった気になってしまう』『聞いてなくてもバレない』のがWEBの恐ろしいところであると思います。
(対面講義だったら真面目に聞いているのかと言われると非常に困るのですが…)
②に述べたような作業も含め、講演を聞きながら、同時にいろいろなことができてしまうので、発表内容への関心が薄くなってしまう、という点もあるかもしれません。
<❺学会のおまけがない>
おまけ、という表現が正しいのかはわかりませんが、現地に行って観光地を巡ったり、名産物を食べたり、あるいは懇親会で交流を深めたり、というのも学会の醍醐味の一つではないでしょうか。
僕たちの研究領域は先生方の仲が非常に良く、懇親会(情報交換会)とは別に、飲み会が企画されています。
そこで学生同士が仲良くなり、先生方とも交流を深めることができているので、そうした機会が奪われていることも非常に寂しいです。
《まとめ》
長くなりましたが、WEB学会は気軽に参加できる反面、対"人"という要素がどうしても弱まってしまっているように思えます。
勉強のために参加するのであれば、非常に有意義ではありますが、研究を深めるために参加するには、デメリットに記したように非常に物足りなく感じる部分が多くあるのが事実だと思います。
新型コロナウイルス感染症流行が、ある程度の収束、あるいはワクチンの市場流通がみられるまで、WEB開催で多くの学会が行われるでしょうし、
僕が主に参加している薬学領域の学会、あるいは医療従事者が多く参加するような学会では、ある程度の収束後も感染リスクの観点から当面はWEB開催、ハイブリッド開催が続いて行くような気がしています。
デメリットに挙げた点のうちいくつかは個人の取り組みで改善できるものがありますので、(未発表データに関してはうまいこと折り合いをつけながら)、今後WEB開催の学会に参加する際の参考に少しでもなれば幸いです。