新型コロナ感染グラフの分類その3ーヨーロッパ編
はじめに
新型コロナの世界的流行は収まるところをしないようである。11月に入って過去最高を記録している国も多い。前回は新型コロナについての異常値を、前々回は大統領選挙に異常値について考察した。その時に感染状況を表すグラフとして「感染速度」と「致死速度」の複合グラフを用いた。また、感染の勢いを表すものとして感染加速度とそのグラフを導入した。今回は、これらのグラフ用いて、感染パターンを調べてみる。
「感染速度」と「致死速度」
新規感染者数はどれだけ感染者が増えたのかを表すので、感染者の増える「速さ」として考えられる。「速さ」が大きいということは、感染者の増え方が大きいわけで、感染力が強いと言うことができる。1日の感染速度は、検査数の少ない週末には必ず小さくなるので、休み明けには感染爆発だと騒ぐ輩が出てくる。それを避けるために、ここでは「感染速度」として1週間の新規感染者数を7で割った値を用いる。1週間の値を用いることで、週末に少なくなるという現象を回避でき、7で割ることで、その週で平均して1日にどれだけ感染者が増えたのかを表し、毎日発表される新規感染者数との比較もしやすくなる。例えば、8月5日の感染速度が1318.3と言うことは、7月30日から8月5日までの間、1日に平均して1318.3人の新規感染者が発見されたことになる。7月30日から8月5日までの1週間で9228人の新規感染者がいたことになる。
「致死速度」はその週で平均して1日にどれだけ死者が増えたのかを表す。「致死速度」が高ければ死者の増え方が大きいので、危険な状態であると考えられる。
「致死速度」が大きくなれば「感染速度」も大きくなるが、逆は論理的に成り立たない。新型コロナが原因で死亡するには、新型コロナに感染する必要があるが、新型コロナに感染したからといって、必ず死亡するわけではないからである。それ故、新規感染数や死者数の増減
に一喜一憂するメディアの姿勢には疑問を感じる。感染状況を捉える上で大切な統計はどのくらいの割合で感染者が死亡しているか、つまり致死率である。医師の高須克弥氏も、感染症は致死率が低ければそれほど恐れる必要はない、と言っている。この意味では、重症者数も考慮すべきであるが、重症者の数え方は新規感染者や死者の数え方とは異なっており、また、発表していない国もあるので比較することは不可能である。
非致死率の可視化
「感染速度」と「致死速度」の複合グラフでは「感染速度」を青の折れ線で描き「致死速度」を緑の棒グラフにした。また「致死速度」のスケール(右の目盛り)は「感染速度」のスケール(左の目盛り)の5%になるように調整した。緑の棒が青の折れ線と交わる時が単純致死率5%になる。緑の棒が青の折れ線を突き抜けるようなら、致死率は5%よりも高く、逆に緑の棒と青の折れ線との「ギャップ」が大きければ、致死率は小さくなることを意味する。
その他の用語は前回、前々回の Note 記事を参考にしていただきたい。
感染加速度と感染の波
「感染加速度」は、前週と今週の「感染速度」の差のことである。「感染加速度」は感染状況のグラフでは、「感染速度」グラフの傾きとして表される。「感染加速度」が正の値の時は感染力の勢いが増えていることを表し、値が大きければ大きほど、増え方が激しいことを意味する。また、「感染加速度」が負の値の時は、勢いがおさまってきていることになる。
グラフの「波」とは、長くつづく上りの傾斜と定義したがであるが、加速度を使って次のように定義することできる。ある週の加速度が、⑴ 過去4週間の平均の加速度よりもかなり大きい、⑵ その週とほぼ同じかそれよりも高い翌週以降も続くとき「波がその週に発生した」という。また、その週の前の週を「波の発生日」と呼ぶ。加速度は1週間の平均を用いているので、加速度が大きくなった週の前7日間のうちのどこかの日で加速度が大きくなっているからである。しかし、土日など明らかに新規感染数を少なく発表する日があるので、厳密な定義は不可能である。
波の発生後ある週の加速度が、⑴ 波の始まってからの平均加速度よりもかなり小さくなり、⑵ 翌週以降も加速度が、その加速度以下になったとき、「波はピークを超えた」という。波の「ピーク日」はその週の前の週とする。「ピーク」の値は「ピーク日」の感染速度とする。本当の「ピーク日」はその日と翌週の間のいずれかの日であるが、「発生日」同様厳密な定義はできない。
波の長さや、収まったかどうかについては、感染速度の値が必要になる。
感染加速度のグラフから波の状況を捉えることもできる。感染加速度が正の値を続けているときに波は「成長」している。負の値を続けているときは波が「減衰」している。0に近い値を続けている時は感染速度のグラフがほぼ水平状態を保っているので、感染速度が0に近ければ、波は収まったことになり、そうでなければ「津波型」の波形になる。
「実行再生産数」は「感染加速度」の比を用いて計算するのでので、「感染加速度」は「実行再生産数」とも関連していることになる。
同様に「致死加速度」も定義でき、致死速度についての解析を細かくできるようになる。
日本の波について
次のグラフは、12月9日までの日本の感染状況と感染加速度のグラフである。
感染加速度のグラフから、まず4月1日に加速度の値が急に大きくなっていることがわかる。また、4月15日まで加速度の値は4月1日の値よりも大きい。従って、前の週3月25日から4月1日の間に波が始まった事になる。これが第一波である。ところが、4月22日は加速度が負の値になり、これが5週間続く。従って、第一波のピークは4月15日となる。同様に第二波、第三波の発生びとピーク日を定義できる。
10月7日にちょっとした大きさの加速度がある。これは。翌週加速度は0に近くなるので、波(の始まり)にはならない。しかし、翌々週の10月21日は加速度の値は10月7日よりも引くいが、翌10月28日以降加速度は21日の値よりも大きいので、21日の前週、14日が第三波の発生日である。12月2日と9日の加速度は、それ以前に比べ著しく低いが、発生日の値よりは高いので、ピークを迎えたとは言い難い。
感染速度の波はまとめると次の表のようになる。
致死速度の波も次の表のように3個発生している。
一方、感染加速度のグラフから、第二波では8月5日の加速度が、第三波では11月4日から25日までの加速度が一際高くなっていることがわかる。特に第三波ではその他の週の加速度の値に比べてかなり大きいので「外れ値」であると考えられる。
「外れ値」となった原因は前回書いた通り、入国規制緩和である可能性が高いと思われる。第三波の最初の一ヶ月間と「外れ値」の後の2週間の「加速度」はそれほど大きなものではなかったため、もし入国規制緩和がなければ、これほどまでに感染数及び死者数が増えることはなかったであろう。
日本の波について、以下のことがわかる。
⑴ 感染速度の波は、第二波、第三波となるにつれ、高く長くなっていく。致死速度の波は、第一波が一番高く、第二波では低くなっている。しかし第三波では、再び高くなっている。
⑵ 致死速度の波は、感染速度の波よりも、1から3週間遅れて始まる。ピークも同様に1から3週間遅れる。致死速度の傾きは感染速度に比べ、かなり緩やかである。
⑶ 第一波では致死速度が感染速度を超えて(致死率が5%以上になって)いるが、第二波、第三波となるにつれ、感染速度と致死速度とのギャップが広がっていく、つまり致死率が小さくなっていく。
感染の波形についての仮設
以上の考察から、感染速度と致死速度の波に対して、次の仮設が成り立つと予想できる。
①「感染速度」は第二波、第三波となるに高くなるが、「致死速度」の波は低くなる。感染学者の間では「感染力が大きくなると致死力が小さくなる」、つまり、感染数は上がるが致死率は上がらない、と言われていることの裏付けとなる。ただし、上がらないのは死者数ではなく致死率なので、感染数が極端に大きくなれば、死者数は上がることもある。
② 「感染速度」の波が発生してから、1から3週間後に「致死速度」の波が発生する。「致死速度」のピークも、「感染速度」のピークの1から3週間後に起こる。
③ 致死速度の波の期間は、対応する感染速度の波の期間と同じかあるいは長区なる。ただし、波が収まる前に次の波が発生する重ね波の場合は、そうでない時もある。
今回は、これらの仮設が日本独特のものなのか、あるいは、他の国でも成り立つのか、統計的に考察する。各国を見る前に、まず、アメリカと韓国の感染状況を考察する。
世界の波について
次のグラフは世界の感染状況と感染加速度である。
「感染速度」はところどころ傾斜が緩やかになる場所があり、階段状に成長し続けている。グラフからはわかりにくいが、「感染加速度」は3月11日に急に値を大きくし、4月15日に値がほとんど0になる。従って、波が3月4日に発生し、4月15日にピークを迎えた頃になる。日本においてはピークを迎えた後、負の加速度が生じ波が減衰に向かったが、ここでは、0に近いものの負の値にはならなかった。この間感染速度のグラフも水平状態になっている。いわゆる「津波型」そして、5月27日に波が発生している。また、10月7日にも同じように波が発生した。そこで、世界では、次の表のように、波が3個発生したと考える。5月27日の波も、10月7日の波も、以前に発生した波が治らないうちに発生したので、波形は「重ね波形」である。
「感染加速度」はほとんどが正の値で、負の値になっているのはたった7週しかない。しかもそれほど大きな値ではない。感染が全然減っていないということがよくわかる。特に、10月7日から11月11日までは、値がひときわ高い。この高さの原因は、アメリカ大統領選挙である。BLMの創設者の一人であるパトリッセカラーズ氏がバイデン氏に対し、BLMがバイデン氏のために6000万票をもたらしたので、その見返りが欲しい、という書簡を送った (https://www.epochtimes.jp/2020/11/64629.html#.X642uki2RMs.twitter)。これが事実とすれば、トランプ氏の選挙運動時の演説よりも大きな規模で何かをやったことになる。これがアメリカでの感染急増の原因の一つになった可能性がある。また、8月以降15%程度だったアメリカのシェアが11月には30%以上になっており、これが世界での感染拡大につながっていると思われる。
一方、致死速度には次の表のように3つの波が存在している。
⑴ 感染速度は第一波、第二波、第三波となるにつれ、ピークが高く、期間も長くなっていく。致死速度は第二波の方が第一波よりも若干低い。第一波での致死速度は感染速度よりも高くなっている。この期間の平均致死率は6.34%である。しかし、第二波では感染速度と致死速度の間にギャップ生じ、第三波ではそのギャップが広がっている。第二波での平均致死率は、2.03%、第三波では1.41%と減少している。従って、仮設① が成り立っていることになる。
⑵ 致死速度の第一波は感染速度の第一波の1週間後に発生している。第二波は3週間後、第三波は1週間後である。また致死速度と感染速度のピークの差はそれぞれ、1週間後、3週間後、1週間後である。従って、仮設②は成り立っていると言える。
⑶ 致死速度の波は今の所対応する感染速度の波と同じ長さを持つかあるいは長い。従って、仮設③は成り立っている。
アメリカの波について
次の図はアメリカの感染状況である。
アメリカも日本や世界同様3つの感染速度の波が発生した。
⑴ 感染速度の波は第二波、第三波になるにつれ高くなっていく。致死速度の第二波は第一波よりも低いが、第三波は平均すれば第一波よりも若干高くなっている。一方、感染速度と致死速度のギャップも、第三波が一番広い。また、感染速度も致死速度も、第二波、第三波はいずれも、前の波が収束する前に始まった「重ね波」なので波の期間の長さは、その波の発生日から次の波の発生日の間である。それゆえ、波の長さは第一波が15週、第二波が19週、第三波が今のところ8週である。第三波はまだピークを迎えていないので、さらに伸びると考えられる。従って仮説①が成り立つ。
⑵ 感染速度の波が始まってから、2、3週間後に対応する致死速度の波が始まっている。第二波のピークは2週間遅れだが、第一波では4週間遅れである。しかし、5月6日の死者数は突出しているので、集計の都合でこのような値になった可能性がある。従って、仮設②もほぼ成り立っていると言える。
⑶ 今のところ、波の期間の長さは感染速度と致死速度とで同じである。従って、仮設③も成り立っている。
⑷ 第三波における11月11日、18日、および12月9日の「感染加速度」の値は他の値と比べかなり大きいので「外れ値」であるとして良いかもしれない。
ヨーロッパの波について
次の図はヨーロッパの主な国の感染状況の行列(マトリックス)である。
上の行にある国ほど北に位置し、右の列にある国ほど東に位置する。注意しておかなければならないことは、各国のグラフのスケールはまちまちであると言うことである。例えば、グラフの最大値はスイスが8000であるのに対し、フランスは50000である。決して、スイスとフランスが同じ数の感染者死者を出したわけではない。
なぜ国ごとに違うスケールを用いるのかといえば、グラフのスケールを同じにしてしまうと、絶対数が少ない国はグラフが下の方にへばりつくようになり、波があるかどうかすらわからなくなってしまうからである。ここではグラフの形の分類を行うので、波がはっきりと認識できなければならないのである。
次の図は、最高値が2500になるように描き直した感染状況のグラフの行列である。
フランスなどのようにグラフがスケールをはみ出していたり、アイスランドのようにグラフが下の方にへばりつくような形になって波があるかどうかわからなくなっている。最高値を2500にしたのは、先に挙げた日本の感染状況と同じにするためである。アイスランドでの波の高さは日本よりは低いが、アイスランドでは決して無視できない数字である。
ヨーロッパの波の特徴
⑴ ヨーロッパの各国には感染速度、致死速度ともに波が二つづつある。ポーランド、チェコ、ハンガリー、クロアチアなど、旧東欧圏では第一波が発生しているようには見えないが、これは第二波のピークが非常に高いので、相対的に第一波が低くなっているからである。
ヨーロッパの第一波は世界の第一波と、ヨーロッパの第二波は世界の第三波と発生時期が重なる。すなわちヨーロッパには第二波が来なかったと言える。世界の第二波は5月半ばから8月末までの長い期間発生し続けているが、ヨーロッパでは、6月末までかなり厳しいロックダウンが敷かれていた。このため第一波よりも大きな第二波がヨーロッパに来なかったと推察される。しかし、ロックダウンは7月に解かれており、7月半ばからヨーロッパでは波が発生し始めている。従って、ヨーロッパの第二波は、世界の第三波よりも発生時期が一ヶ月ほど早いと言える。
⑵ どの国も、感染速度の第二波の方が、第一波よりも高く長い。致死速度の第一波は感染速度の第一波と交差する。つまり、致死率が高い。スウェーデン、イギリス、ベルギー、オランダ、フランス、スペインでは、致死速度の第一波のピークが、感染速度第一波のピークの4倍になっている。実際、この頃致死率は20%に達していた。日本スケールの感染状況グラフと比較すれば、これらの国の死者数が、日本の最高の新規感染者数を超えていたことがわかる。しかし、第二波では感染速度と致死速度のギャップが大きい。この頃の致死率は1%以下である。従って、仮設①が成り立つ。
⑶ アイスランドとアイルランドでは感染速度の第二波のピークは第一波のピークとほぼ同じくらいの高さである。ノルウェーとフィンランドでは2倍程度である。イギリス、ドイツ、スペインは3倍から5倍、その他の西欧諸国は5倍から10倍、旧東欧圏では10倍以上になっている。
⑷ イギリス、ドイツ、スペイン、スウェーデン、デンマーク、ベルギー、オランダ、フランス、ポルトガル、イタリア、ポーランドでは、第一波は収束しなかった。各国スケールでは収束したように見えるが、日本スケールに合わせると感染速度の波がの高さが第一波の始まる前の高さよりもかなり高いことがわかる。これらの国は全て、感染速度の第二波のピークが第一波のピークの3倍以上になっている。
⑸ 次の表は上記20ヶ国の第一波の状況を発生日の早い順に並べたものである。アイスランドとクロアチアでは波と呼べるほど死者は多くはなかった。
致死速度の波は感染速度の波が発生してから1〜6週間後に発生している。
⑹ 次の表は致死速度と感染速度の波の開始日の差と致死率をまとめたものである。感染速度の波が始まって、早いうちに致死速度の波が始まった国で致死率が高い。
ここにあげたヨーロッパ各国の感染速度と致死速度グラフの形は、数の多寡を除けば、驚くほどよく似ている。
世界の第一波は3月4日に始まるとしたが、その日にほぼ半分に当たる9ヶ国で第一波が発生している。それ以前では、イタリアが2月19日に、ドイツ、フランス、スペインが2月26日にそれぞれ発生している。したがって、ヨーロッパにおいては、最初にイタリアで第一波が発生し、次に、ドイツ、フランス、スペインで起こり、やがて、ヨーロッパ各地でも発生するようになったと言える。これを地図上で始まった順に矢印を書き込むと、次のような図ができる。
まるでまるであたかも、感染の第一波は、イタリアにはじまって、ドイツ、フランス、スペインへ移り、その後、ヨーロッパ各地に広まっていった、と考えられる。ポルトガル、アイルランド、アイスランドなどヨーロッパの西端や北端、旧東欧圏に達するのには時間がかかっている。
中入り
前々回のアメリカ編では、北東部から感染が始まって、南部に移り、さらに中西部北西部に感染の中心が移っていったと考えられた。ヨーロッパでも同じような傾向が見られる。このように見ていくと、新型コロナには感染の起点となる地域が存在する。長くなったようなので一旦ここで切らせていただく。次回はその他の地域の状況を解析したいと思う。
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