『想像力』と『意志力』の欠落ーアニメ『境界戦機』感想文の最終回
以前話した内容と違っているがいつまでも破綻しきった設定を擦っててもキリがないと思ったのでご容赦頂きたい。
それでは主観に基づくものだが『境界戦機』なるアニメが何なのかを総括して話していこう。
1.世界観とストーリー展開(+α)の致命的な齟齬
まずこのアニメは「外国に占領された日本を取り戻すために戦う」という触れ込みでスタートしておきながら、終盤では「ロシア中心の野合集団の傀儡として日本の一部の領有を宣言し、アメリカと事を構える」というトンデモ展開を迎えている。
「大きな敵と戦う為に他の勢力と合流するのはよくある展開だ」という意見もあるが、それにしては野合集団の3つのうち2つは作中で民間の日本人に危害を加える描写があり納得しろという方が無理がある。
更に言えばその前に「外国の目こぼしで自治区をやっててもそんなものは欺瞞だ」と言いたげな話をやっているのだから今になって言ってることを変えるのかと文句も言いたくなる。
ここまででも十分なほどお粗末なのだがアメリカと戦った際には敵を市街地に入れてドンパチをかまし、戦いが終わってみれば主人公サイドの高性能ロボットのパイロットの三人中二人が離脱してしまうという有り様…
こんな体たらくで今後その土地を治めていくなんて到底無理であると考えるのが普通だが、そんな考えはこのアニメでは通用しない。
そもそもこうしたデタラメは今に始まったことではなく経済破綻の末に占領されたという日本では電気に道路とインフラはキチンと整備されておりコンビニに行けばおにぎりの100円セールが行われてたり日本人向けのホテルにレストランも普通に営業している様子が作中の前半部分で出てくるのだ。これじゃ主人公らが山籠りしてレジスタンスとかやってるのがバカらしく見えてしまう。
まぁこうした設定との齟齬だが辻褄合わせが出来ない訳ではない。(その場合『日本への心象が』相当悪くなるが)
というより、それに輪をかけて酷いセリフが避難民を助けてやるエピソードで出てくるのだ。
主人公らに助けてもらった避難民家族の親が主人公らに対して「子供たちには日本人としての誇りを持って育ってほしい」だの「我々を救って頂いた」だの言い出して、それを受けた主人公らが誇らしげにしている。
自分は真面目にこの場面、このアニメでもトップクラスで「キモい」と思ってしまった。
あからさまな主人公肯定、あるいは賛美の為に媚びたセリフを言わせてるのが見え見えで出来の悪いヤラセ番組を見ているようであり、後になって「戦争から逃げ回ることしか出来ない親を見た子供が施し受けたくらいで誇りを持つなんてあり得ない」だとか思って余計に腹立たしくなってくる。
善玉とした主人公が無条件で肯定されるなんて代物をよくもまぁこの令和に恥ずかしげもなく出せたものである。
2.目新しさのないデザイン、どこで見たようなシーン
このアニメはロボットアニメとして『工業デザイン』を売りにしているとのことで、主人公機に自動車の設計者を呼んだりして今までにないものを作ろうとしているようではあるのだが、実際にその試みが上手くいってるかと言われると疑問符が付いてしまう。
まず肝心の主人公機のケンブ、ジョウガン、レイキだが白赤、青、黄色とガンダムから色分けしたようなカラーリングをしており世界観を考えると浮いてるように思える。
それに加えてリアル路線を履き違えたかのような無駄に手足をクネクネさせたシルエットの頼りなさのせいで日本を取り戻すために戦ってるロボットとしての説得力を却って損なう結果になってしまった。
それに引き摺られるように敵勢力のロボデザインもパッとしないものばかりか両手の指で数えられてしまう程度の数しかいないときてる。
真剣にロボットアニメをやりたいのかすら疑わしくなる。
あとキャラクターデザインについてずっと前から言いたいことがあったのでここで言っておこう。
いくらなんでも似たような目付きのキャラが多すぎる、具体的にはゴウケンみたいなの。
もはや目の形を考えるのも面倒だったのかと思えてくるが実際のところはよく分からないしどうでもいいことである。
次にこのアニメにおけるある意味最大の問題点だが、既存作品に出てきたシチュエーションや展開がかなり目立っているのだ。
この記事のはじめに言及した『外国に占領された日本』という基本設定もそうなのだが『戦ってる最中に言い合いを始めるキャラ達』とか『昔馴染みが敵側の人間になっていた』とか『心に傷を負った主人公が立ち直る』とかいう他のロボアニメでもやってたようなことが『物凄く出来を悪くした形で』お出しされてくる。
そこのシチュエーション一つでも酷いのにその前後のシーンと悪い意味で相乗効果を発揮して余計に不出来なもののように印象付けられてしまう。
そんなのが一度や二度とかではなく何度もやられるので見終わった後の徒労感は中々味わえないレベルにまで達している。
これは先述したストーリーのデタラメさもいくらか関係してそうではある。
悪い方向へのシナジーだけはやたらと発揮されているのもこのアニメの特徴と言えるだろう。(誉めてない)
3.結局どうしてこんなことに?
ここまで自分が視聴して感じたことをアレコレ書いてきたが、最後にどうしてこのアニメはこんなことになってしまったのかについての推測を話そうと思う。
結論から言えばこのアニメを『作らせた人間』に『「このキャラはこういう状況ではどうするだろうか」とか「この展開の後物語の世界はどうなるんだろうか」とかを考える想像力』と『このアニメを通して自分が見せたいものを表現してやろうという意志力』が致命的に欠落していたからだと自分は考えている。やりたいものが自分の中に無いからこんなことになってしまったのだろうとしか思えないのだ。
まぁそれ以外にも色々と欠けてはいるがここで書いてくとキリがないので割愛する。
しかしよく考えてみれば自分が関わった作品で既出のネタを劣化させて出してくることを躊躇わないこのアニメの制作会社の社長兼プロデューサーを筆頭に、以前関わったある作品において特定の人物が好き勝手やってるのを実質的に黙認したとしか思えないイエスマン気質の監督のコンビによる作品作りの体制を考えれば必然の結果であるのかもしれない。
そうした人事レベルの話に文句付けてもしょうがないことではあるしこれ以上何か言う気はないが、良い顔は出来ないのも確かではある。
それでも境界戦機のプラモはこれからもリリース予定であったりして公式としては続けていくつもりであるようだが、自分はアニメだけ見て追っかけるのはいいかなと思ってしまったのは確かだ。
そんなこんなでこのあたりでこの感想文を終わらせたいと思うが、最後に自分の率直な気持ちを書きたい。