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40歳自営業、痔瘻になる #2 手術日 |肛門を切った

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入院2日目、手術当日である。
前回糖尿病シリーズの結びには某総理大臣の言葉を引用し「朝は希望とともに目覚め」なんて言ったが絶望しかない。

朝の戯言

死刑囚は死刑当日に自分の執行を知るという。それに比べれば知らされているだけまだマシではあるが、なんせ肛門の手術だけに朝昼絶食である。

なんとか前夜のご飯をひり出して7時を迎えたので、ナースによる朝検診では浣腸を免れた。
何を隠そう10年ほど前に浣腸とストッパ(下痢止め薬)を両方摂取したらどういう結果になるのかを自らの身体で試したことがある。

当然もう見れないが、この時の結末はイチジクを2つ、ストッパを2シート接種したところで肛門は崩壊した。これをオムツを着用しながら生配信していたというのだからもうキチ●イの極みである。当時29歳。しかしこの当時よりマルチアングルスイッチを駆使した映像配信を実践していたことが、後の弊社配信事業部門の設立にあたりノウハウとして生かされることになる。何がためになるのかわからんね。

さて、一部読者をおそらくドン引きの置き去りにしたところで午前中の続きだ。
手術に備えて血圧測定をしたり、点滴をつけられたりと徐々に準備が進んでいくのが感じられる。その時は着実に近づいているのだ。

なめとんかオヤジ

今年から後期高齢者になった両親もまだまだ元気である。
ワイが老いてもこの者らのように、夫婦仲良く、子の心配ができる親になりたいものである。
絵文字のグウ~はイラっときたが。

引き伸ばしはもういいからさぁ

当初入院時に手術は2日目の13:00と聞かされていた。
午後一発目だと。
そうするとこちらは12時を過ぎるともう心の準備というか覚悟を決め出すじゃないの。
でも来ないのよ。お呼びが。

痺れを切らしてナースコール。
「あのぅ、もう覚悟はできてるんですがいつヤってくれるんですか?」
どこまでやる気満々なんだと勘違いされそうだが、返ってきたのはあっけらかんと「順番なんで、こちらから声かけます」

そうだろうね、そうだろうよ。わかってるよ。
恋人とデートの約束してちょっと遅刻したってさ、「待ってる時間もデートのうちだから、デートは長いほうがいい」なんていうじゃない。

だったらなんで、13時に手術の時間なんて知らせるんだよ

待ってる時間も手術のうちなんだよ。手術の時間なんて短いほうがいいだろうよ。さっさと楽にしてくれよ。

なんてひとりごちているとついにやってきた。術衣を着たドクターが来たのだ。病室のカーテンからマスクをつけて目だけ見えている状態で「三田さん、お迎えに来ました」まるっきり死神じゃねぇか

そして、切った。

ワイの病室は3Fだが、手術室は2F。自立二足歩行で向かうが、帰りは車イスかストレッチャーとのこと。そりゃそうだよな。

この中に、例の赤ランプで手術中ってのがある

いつなんどき、当事者じゃないとしてもその前に立つと緊張する「手術室」。
入るとさらにドアが2つ、どうやら同じ手術室内にいくつかオペスペースがあるようだ。
開いているドアのほうに案内されると、細いベッドがひとつ。そして手術室を象徴する巨大なライトが天井から釣り下がっている。
あぁ、今からここで肛門を切り裂かれるんだろうなぁと緊張感が高まる。

まずは麻酔だ。と、ここでナースが
「そういえば」
「ンゴ?」
「このあと腰から麻酔をかけてカテーテル入れるんですが、どうしても嫌だっていう方は別の場所に麻酔を打つというのもあるんですけれども」
「是非それでお願いします!!!!!」
「術中の麻酔の効きが悪かった時に追加できないんですよね」

邪智暴虐のナースを除かねばならぬ。前門の虎、肛門の狼だ。
悩んでいると追撃が放たれた。
「術後はお尻痛くなるんですけど、お尻痛いとおしっこも普通に出ないんですよ。それで苦しまれる方もいらっしゃいますね」

まぁわかる。われわれは世界でも珍しい"排尿"と"排便"を同時に実施できる人種?民族?である。それはすなわち膀胱筋と括約筋が連動していてどうだこうだという話を聞いたことがある。
つまり、術後のような痛みが続く中で片方の筋肉だけを弛緩させるのはとても難しい。具体的には、おしっこをしながら急に下痢がしたくなったとする。お尻を必死に締めて肛門にカテナチオを敷くと、おしっこの勢いも弱まり、次第に残尿感とともにクロージングされる、そんな経験はないだろうか。鉄壁のディフェンスラインである。

ネスタとマルディーニがいれば大丈夫、そう思っていた(

あきらめてカテーテルを選択した。
いうならば捨て鉢、どうにでもなれである。ここにきて最後の希望は潰え、されるがままの醜いオッサンが横たわるだけになった。

腰に注射を打たれ、仰向けにひっくり返され、カテーテルを入れられる。
麻酔のせいかまったく感覚はない。感覚はないとはいえ、感覚はないとはいえ!!!!!

お店でもされたことないのに!!!!!!!

記憶が混濁している。もしかするとカテーテルの挿入は術後だったかもしれない。
手術そのものは、下半身の感覚が全くなく、時折下腹部からググゥーっとおっつけられるような感覚が何度かあった程度であった。あぁこれが生理痛の2歩手前かと勝手に解釈したが、正しい保証もどこにもない。

術前に取り付けられた心電図モニタから自身の心身状態を読み取る。
心拍85、血圧116-72。悔しいが平常値だ。
190にならないとロックも聴けなくなるんだろうか。

「はい、終わりましたよー」
器具をまとめる甲高い音とともにドクターが声をかける。
整骨院のベッドみたいに顔の部分だけがすっぽりうつ伏せにはまるクッションに敷かれたペーパータオルが深呼吸をした鼻にぴったりと吸い付けられる。

ドクターは最後、ビフォーアフターの写真を見せながら手術の解説をしてくれた。別にいいのに。

「えーここが肛門で」
分かるわそんなもん
「ここが切ったところです」
ヴォエwwwwwwwwwwwwwww
隠すつもりも恥じるつもりもないが血は苦手である。作り物のグロはともかく、自分の醜い尻の穴の、さらに切った真っ赤な痕など見たくもない。
「肛門はね、人体の中でも特に治りが早いところなんです。で、外側と内側で治る速さが違って、外側だけ先に治っちゃうとあまりよろしくないんです。なので均等になるように少し広めに切っています」

いつもより広めに切っておりまーす!!!!!

小さく切るのも大きく切るのも、どのみち治るタイミングは一緒ならもうどうでもいい。とにかくこの身体にはメスが入ったのだ。少し休ませてほしい。
最後に気力を振り絞ってドクターに聞いた。
「先生、これでもうお尻元気になるんでしょうか」
「はい、大丈夫ですよ」

吾輩は痔瘻であった。しかしもう無い。
痔は手術しななければ治らぬ。
南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏。

夏の葬列

北海道は札幌市、秋は深まりつつあれど朝晩はともかく昼間はまだ暑い。
東京はといえばまだ30度に届くところもあるようだが、手術室からの戻りはまさに葬列であった。

点滴の吊るされたストレッチャー、足元から伸びる尿管とその先に溜まるパウチ袋。ストレッチャー移動時にちらりと見えたが、既に幾分かの尿が溜まっていた。
こんなにも辛い思いをしているのにスゴいね人体。

前後をナースに補助され、手術室から病室に戻る。途中数人の患者とすれ違うが、皆どこか憐れむように見てくる。その顔は「こちら側へようこそ」だ。そうか、術前の不安とはまた違う恐怖がまだあるのだ。

それが機銃掃射の如く鋭い連続した痛みなのか、原子爆弾の如く芯から響き渡る痛みなのかはまだ分からない。

術後3時間は水分も含めた絶食が継続される。
が、この時間は披露で休んでいたため記録が無い。
1~2回程度、ナースが様子を見に来ていたような気もする。

目が覚めたのは19時前後。ナースが食事を運んできてくれたタイミングだった。

粥、おでん、ポテサラ、味噌汁。

夜が来る!

もちろん、この先に何があるのかは知っている。
予見、なんてものではない。必然である。
麻酔はいつまでも続くものではない。いつまでも続くのは借金の支払い、いつまでも響くのはmelody。永遠の夏のメロディはマンピーのG★SPOT。

気分上々がパリピ孔明でリバイバルされて波に乗ってるかいとか、少しでも忘れようとしても避けようのない運命は時計の針とともに近づいてくる。

嫌らしいのはその時計の針があやふやなブラインドで、ランダム要素があるということだ。まるで手術前の呼び出しのようではないか。

そう、この時はまだ麻酔が効いているから別にどこも"痛くはない"。
点滴やらカテーテルやらがつながっているから身体はどこかしこ違和感に包まれているが、そのどれもがやはり"違和感"を端に発する不快感であり、"痛み"ではないのだ。

食事を下げに来たナースに聞いてみる。
「あのぅ、麻酔っていつくらいに切れるんですか?」
「まぁ人によってまちまちですけど、だいたいこの術後3時間から6時間にかけてですからまもなく徐々に切れてくると思いますよ」
「痛くなりますか?」
「いえ、点滴にも痛み止め入ってますからそんなに大したことは無いかと思いますよ」

それってあなたの感想ですよね?

人によってまちまちって今言ったばっかじゃねぇか、大したことないなんて誰が決めるんだよ待ってくれよ。
すがるように痛いのが怖いことを訴えると、「痛くなったらナースコールしてくださいね」と去ってしまった。ワイフならケツにむしゃぶりついてでも止めるところだがナース相手ではそうはいかない。せめてナースコールボタンを握りしめ、体勢を整えることにした。

夜が来る!

現物は大人向けコンテンツ

(長いから明日はこの続きから。麻酔が切れてナースコールを連打するところからです)

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