縦割り110番がなぜだめなのか
河野太郎行政改革担当大臣が早速フルスロットルで活躍している。就任直後に自身のwebページに創設した「縦割り110番」が大きな反響を呼んでいる。さすがのスピード感だが、これは内閣の一員としてやってはいけない禁じ手であることを、示しておこうと思う。
これがだめな理由は、行政活動に私金を投入してはいけないからである。法的には問題ないのだろうが、これは倫理的に問題がある。
私金投入がなぜいけないのか
この事業、自民党議員河野太郎がやるのであれば、全く問題ない。むしろ、国民の声を直に吸い上げるのは、政治家として重要な仕事である。
しかし、彼は行政改革担当大臣として、つまり行政府の仕事としてこれを行なった。ここには大きな違いがある。
行政は、すべての人に公正にサービスを提供する必要がある。そのため、その運営には税金(公金)が使われているのだ。誰かの私金を使うと、そのお金の持ち主の意向が反映され、公正さが失われてしまう可能性がある。河野太郎氏のwebページは彼の個人的な財産である。つまり、河野太郎氏の私金で行政の事業を行っていることになる。これでは公正さが担保できない。
「webページくらい良いではないか」という反論があるかもしれないが、それにはどこまで私金を投入するのがOKで、どこからがNGなのかの線引きが出来ないという問題がある。だからこそ、行政活動への私金の投入は厳しく否定される必要があるのだ。
おそらく河野大臣は「いちばん速く始めるには、時間のかかる役所の意思決定を通さず、自分のところでやってしまうのが良い」と単純に考えたのであろうが、この点について考慮したのだろうか。
すぐ「新規事業」をぶち上げるのが"お役所"である
縦割り110番に投稿が殺到し、そうそうに新規受付が停止された。当面は内閣府の「規制改革ホットライン」で代替するとのことだ。なぜ最初からそちらを使わなかったのだろうか。
内閣府に限らず、行政組織ではつねにたくさんの事業が実施されている。新しく大きな問題が発生したとき、既存の事業の応用で対応できるにも関わらず、新規の事業をぶち上げてしまい、既存の事業と共食いを起こしてしまったり、違いのわかりにくい事業がいつまでも併存したりするのは、行政では非常によくあることだ。行政組織は、新しい事業を作るのは得意でも、既存の事業を見直す(特に、やめる)ことが苦手だからだ。
つまり、この縦割り110番自体が、非常に"最近のお役所仕事"っぽいのである。日本の行政は予算に厳しく決算に甘いと言われ、お金を使う前はその妥当性や効果をさんざん指摘されるにも関わらず、使ったお金にどれほど効果があったのかの検証が弱い。そのため、投資効果の薄い政策がいつまでも続いたりする。
河野大臣は新しいことを始めて「お役所感の脱却」を図りたかったのかもしれないが、新しいことを始めてお役所感の脱却をアピールする行政人はいくらでもいる。もちろんその中でも河野大臣は非常に優れた発信力をもつため、人々に与えるインパクトは大きかったと思う。しかし、彼を祭り上げるほどの偉業ではない、というのが私の評価だ。
役所のルールには理由がある
行政の事業はこまかい制約や一見すると理解しがたいルールがたくさん存在し、お役所仕事といって批判されることが多い。もちろん、ただの形式主義や思考停止からくるお役所仕事は是正していくべきだが、その中には法律や倫理的な根拠から、民主主義や公正な行政活動を守るために存在するルールもたくさんある。
河野大臣にはぜひ行政府のリーダーとして、無駄だと思えることがなぜ行われているのか検証した上で、本当に無駄なことをどんどん見直し、霞が関のホワイト化に邁進していただきたい。ご活躍を祈ります。