『激闘!ハンガーラック翁!』の巻
ここは 田舎の洋品店。
店頭の軒に張り出されたテントは
長くて立派だが すっかり色褪せて 縒れきっている。
その下に ガバッと垂らされた 遮光性のビニール幕は
多少の風では靡かないだろう かなりの重厚感だ。
執拗に 光を遮ろうとする その心は
商品を 紫外線焼けから 守るためだろうか。
店舗の正面のはずなんだけどな
まるで 運動会のテントを 裏から見たものを
べっとりと ペンキで塗りつぶしたような
凡そ小売店にしては あまりにも異質な雰囲気ではないか。
さすが 田舎の洋品店。
隙間から ちらと窺い知れる 仄暗いその空間には
おびただしい数の 見慣れない品物が
200円、300円と蛍光色の札を掲げ
あちら こちらを 向いている。
それらのはるか遠くから 微かに
店舗内の灯りかもしれないものが ほんのりとこぼれている。
ものごころついた頃には すでにその洋品店は そこに在ったと思う。
周りに ユニクロや しまむらや ワークマンがやってこようが
そいつは 全くといっていいほど 姿かたちを変えず
ずっと同じ場所に 静かに在り続けていた。と記憶している。
そう思えば、ある種の神秘性みたいなものを 感じないこともない。
それが 田舎の洋品店。
日課のウォーキングで
前を通るたび 気になってはいたけれど
どうにも お呼びでない雰囲気だったもので 入ったことはなかった。
しかし 何事も チャレンジの時代
これは 入ってみるしかないでしょうな。
オモコロだって ねとらぼだって 月ノ美兎だって
喜んで飛び込んでいくのが 令和のノリというものだろう。
それが たまたま今日だった というだけよ。
田舎の洋品店、入ってみた。
まずは 入り口を探さねばと、テントの下の暗闇へ踏み入る。
すごい量のハンガーラック。エプロン 水着 レインコート……。
その隙間を埋めるように 山積みにされた ゴムのサンダル
目線を上げれば こたつ布団やタオルケットが ベロンと吊るされていて
一寸の隙間なく 外壁を覆い尽くしている。
その途切れ目に キレイに磨かれた 両開きの自動ドアがあった。
その脇 少し邪魔な位置に 小さな棚が備え付けられていて
値札のついた洗剤や殺虫剤と 値札のない誰かの私物が置いてあった。
少し離れた位置には もう一つ入り口があるのが見て取れたが
そこまでのルートは 目視では確認できなかった。
ほな早速、お邪魔してみましょうか。
ウィーン。いらっしゃいませ。
機械音声を期待してしまうのがベタではあるけども
迎えてくれたのは 上品に枯れた 女性の声だった。
入ってみると 店内はしっかりと明るく 想像以上に広さを感じた。
相変わらず 多少 雑然とはしているけれど
導線はしっかりと確保できている。(要するに通路がある)
客入りも そこそこあるようで
ちらほら人影や 楽しそうな話し声も聞こえてくる。
パッと見えるだけで 店員さんも何名かいるようだ。
自分の親より少し上くらいだろうか
腰の曲がった女性が 忙しそうにシャツを畳んでいる。
さっきの挨拶は この方がしてくれたのだろう。
他にも 離れたところで品出しをしている 白髪の女性が見える。
レジ番でぼっ立ちしている 中年の女性店員は
言葉ではまだ表現できない柄のエプロンを纏っていた。鮮烈。
(余談)
今 書いてて変だなと思ったんだけど
思い返してみるとこの店 棚もラックも全部 異様に低いのよ。
自分の身長で、店内が一望できるくらいには低かったなぁ。
働いている方に合わせた環境作りができてるんでしょうね(適当)
さて 置いてあるものといえば
ひと昔前の ジャスコの端っこに タイムスリップしたような
それは 腰がゴムになっている のびのびジーンズ
現代では 決して選ばれない柄で編まれた 甚兵衛
【日本製】や【綿混紡で着心地さわやか】と書かれた ポロシャツ
異様に安い帽子 異様に安い靴
悪意がないからこそ 堂々たるパチモノと化してしまった
グレゴリーの(ような)ラベルが付いたリュックなど
普段 お目にかかれないものがたくさんあった。
動物園や水族館に来たときと 感情的には同じだよ。
おや 靴下・肌着のコーナーのあたりから声がする。
見れば 腰の曲がった高齢男性が 何やらでかい声で喋っている。
ハンガーラックに寄っかかりながら
二人連れの女性に対して
「これは綿が入ってるから」とか
「うちはやっぱりグンゼやから」とか
なんや わからんこだわりを説いていた。
うーん、どうやら接客…しとるんか…この人?
対して 片方の女性は「そう……」と心底 面倒くさそうに相槌を打ち
もう一方は ノールックで 全力シカトを決め込んでいた。
接客? 言いたいことを 言い終えた男性は
キャスター付きのハンガーラックを 手押し車代わりにしながら
よたよた よたよたと どこかへ歩いて行った。
あれが店主だろうか。なんとなく ヤバそうな感じ。
てか 接客するタイプの店なんやな って思った。
冷やかしにしても 居心地の悪さを感じ始めたので
速やかに退散することにした。
またいつか のびのびジーンズが必要になったら来よう
それくらいの収穫と 経験を得られたので満足だ。
せっかくなので 入店するときに見えた
もう一方の出入口から帰ることにした。
店を一歩出れば またあの混沌の世界が待っている。
どうせなら 全部 体験したいものね。
別の自動ドアから またあの暗黒の店先に出ると
そこには 傘のコーナーがあった。
大 小 折り畳み 色とりどりの傘が
あるものは ハンガーラックにぎっしりと引っ掛けられ
あるものは 大きな箱に 乱雑に 詰め込まれていた。
蛍光の オレンジのPOPが 目を引く。
【紳士用 65cm 耐風 カーボンファイバー骨 398円】
あ、ちょうど傘欲しかったのよ。やっと会えたね辻仁成。
サイズ・性能 ともに加味して お買い得と判断。
やっぱり 良い買い物は チャレンジの先にあるんやなって。
横に目をやると【婦人用 65cm 398円】
なるほど 婦人用のほうが チェックの柄が可愛らしい。
紳士用と 婦人用を 一生懸命 見比べる。
値段は一緒 製造も同じ 持ち手の大きさが違うだけか。
ということは 婦人用も耐風でカーボン……
「よかったら袋あけて、広げてみますか?」
柔らかい声がした。振り返ると 白髪の女性が立っていた。
さっき 離れたところで 品出しをしていた店員さんだ。
この方もやはり ご高齢ではあろうが 佇まいは上品で
なんとも 優しい雰囲気のある女性だ。
"これって 違う部分 柄と 持ち手だけですよね" なんて尋ねて
いや そんなこと聞いても 困らせるだけなのにな と一瞬で悔いた。
「あけましょうか 袋とりましょう」
そう言うと 女性店員さんは するすると包装を剥がして
そっと 僕に傘を渡してくれた。
小売の鉄則。気になることは試させる。定石。やるものねー。
正直 398円の 傘を広げようが 何がわかるでもない
しかし せっかく袋をとってくださったんだ
留め具の確認だけした。ボタン式だった。
"うーん 安いし買おかな これください"
接客してくださったのだから はっきりとした声で そう伝えた
瞬間
「広げたらな! 目ェ突くで!」
荒々しいクソデカボイス この感情は……怒りだッ!
そこには ハンガーラック寄りかかりの翁ありけりよ。
「目ェ突いたらな!こっちの責任になるんや!」
さすがに 面食らったけど 冷静に
"わかりました 広げません" と返答した。
「ジャンプ傘やからな!広がるんや!」
ムカチャッカすぎんだろこの翁。
"広げないって言ってますよね? わかりました 気を付けますよ"
「目ェ突いてな!おたくの責任や言われて!前にあったんや!」
”広げませんって言ってます 信用してください”
「こっちの責任になるからな!前もあったんや!」
”そちらの責任にしません 何も言いませんし まず広げません”
「なるんや!目ェ突いてな!前もあったんや!」
”わかりました 大変な時代ですよね 言いたい気持ちはわかります”
「前もあったからな!責任はこっちになるんやで!」
”じゃあ わかりました。これから 私はあなたに
1対1の 一個人として申し上げます
私は絶対に傘を広げない 約束します すでに留め具も締めてます
仮に 万に一つでも そんなことになったとしても
あなたに責任取れなんて絶対言わない なぜ信用してもらえないのですか?”
「目ェ突いたらな!責任はこっちに……」
よたよた よたよたと ハンガーラックを押しながら 翁去りけり。
返事してよ。理由が知りたいのよ。無視すんなよ。
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仕事柄、こういうこと慣れてる
むしろこんなことばっかり
プライベートでもこんな思いせなあかんのか
いい加減にしろよ団塊の世代
ボリューム層だからって調子乗んなよクソクソクソクソ
たかだか高度経済成長の波に乗って
接待ゴルフばっかしてた大量の能無しどもが
道路引くだけ引いてほったらかして
箱モノ建てるだけ建ててはほったらかして
今や日本の13% 7軒に1軒は空き家やぞ
お前らのすっからかんの頭でボコスカ適当に作ったものを
俺らの世代がケツふいてやってるねんぞ
自分で建てたもんくらい潰してから死ね
できんのなら俺らの邪魔するなクソクソクソクソ
お前らが道路引くだけ引いて 土木ウハウハホルホルして
あとは知らんほったらかしってやったせいで
お前らが追いやった森のくまさんや鹿さんイノシシさんが今頃還ってきて
人襲ったり畑荒らしたり車にぶつかったりしてるねんぞ
道路引くところなくなったら景気停滞するに決まっとるだろ
次はソーラーか?ええ加減にせえよ
なんでこんなにソーラーパネルまみれやのに
電気代下がらへんねん
お前らに いくら選挙で投票しても数で負け続ける苦しみがわかるんか?
お前らに ロストジェネレーションいわれながら
中年越えて初老に入ってしまった我々の気持ちがわかるもんか
お前らに軽率に未来を潰されていった
○○くんや△△くんや あいつやあの子の 気持ちがわかるもんか
俺の怒りは有頂天やぞクソクソクソクソ
翁と僕が言い合いしてる間
白髪女性店員さん 悲しい顔してはって。
"すいません お母さんね(高齢女性を呼ぶ時の 自分の良くない癖)
あなたは 全く悪くないですけど
あぁ仰られてますし この傘 遠慮させてもらいますね
親切にしてもらったのに 申し訳ないです"
と伝えて 傘をお返ししました。
白髪女性店員さんは無言だったけど
そのときの表情からすると 初めてのことではないような
そういう印象を受けました。
これ結局
寂しい老人が 話を聞いてもらいたかった
ってだけのことなんだけど
それは下の世代の仕事じゃないのよ~
話聞いてもらいたいなら こっちの話も聞いてよ~
こっちの話 聞いてくれたらさ 考えてあげるかも♡
ともあれ 激萎えクソクソ案件だったのよ
嗚呼 もう二度と あの洋品店に近づきたくない
これからウォーキングコースも変えなきゃなぁ
と 考えながら とぼとぼ家路につく背中は
オートレースに負けて帰る人の群れより丸かったと思うよ。
いやあ サバービアの憂鬱。 出典は サバービアの退屈。
やっぱ 田舎ってクソだわ
やっぱ 高齢者ってクソだわ。
僕からは以上。また追って連絡し〼。