『お盆、俺たちはどうなんだ』+α
「こないだ、ツヅキってやつがテレビでさぁ…」
ランニング用のハーフパンツに、昔のユニクロのカノコポロシャツ
カリマーのバッグパックとストラップサンダルを身に着けた
そいつの名は『シャチョウ』。学生のころからそう呼ばれている。
「ノースフェイスはゴールドウィンやからなぁ」
これまたハーフパンツにコロンビアのTシャツ
大型連休を自身の髭の長さで体現し続ける
こいつの名は『ダイジロウ』。我らがファッションリーダーである。
「にしてもボックスロゴは手を抜きすぎやろ。環境保護活動なんて…」
イオンで買ったGERRYのハーフパンツにリカバリーサンダル
最低限の荷物すら入らないウエストポーチにアドベンチャーハット
考えるより先に口が滑るのが『僕』だ。時刻はまだ宵の口。
俺たちの話を聞きながら、『マサクン』は紙巻き煙草を作り続ける。
「『シャチョウ』、喫茶店みたいなんやるしかないで」なんて言いながら
先にアガって、ジンジャエールをちびちびとやっている。
効き過ぎた冷房のせいか、しわくちゃのヘンプシャツを羽織っている。
『ダイジロウ』は『僕』のアルバイト仲間でバンド仲間
『シャチョウ』は『ダイジロウ』の大学時代のゼミ仲間。
『マサクン』と『僕』は同じ高校のワンゲル部の先輩後輩の同い年で
『ダイジロウ』と『マサクン』は”シュウタロウサン”の仕事で知り合った。
『僕』と『ダイジロウ』と『マサクン』は不定期にバンド活動をしてるし、
『ダイジロウ』と『シャチョウ』は名字が一緒で
『マサクン』と『シャチョウ』は名前が一緒。
『ダイジロウ』の奥さんと『シャチョウ』の妹は名前が一緒で
誰が何でどうなのかを説明するだけで一生が終わるくらいに絡まっている。
年に2回、俺たちはなぜか集まって飲むことになっていて
それ以外はびっくりするくらい何もない。俺たちはどうなんだろう。
夏が好きだ。飲み屋を出て、熱気を帯びた夜の街。
このまま寝っ転がっても凍え死ぬことがないから、夏が好きだ。
~~~~~~~~~酩酊~~~~~~~~~~
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それから俺たちは”イッキュウ”の店に行った。
”イッキュウ”の店は死ぬほどうるさくて居心地が悪かった。
僕は『シャチョウ』の癲癇が発症しないか、内心冷や冷やしながら
気づけば酔いに任せて、最近の良くない話をまくしたてていた。
『ダイジロウ』に終電は?と聞くと
すわった目で「ええねんええねん」とハイボール。
こいつは怒った時に笑顔になったり
楽しい時に急に覚悟を決めた劇画調の表情になったり
付き合いは長いが本心を隠す癖がある。今日はどっちだろうか。
お会計が¥11,200だったが、僕の財布には2千円しかなかった。
『マサクン』の家に泊めてもらうことにしてタクシーへ。
自分の借金だけを数えながら、戒めとして今ここに記している。
¥2,200な。11200÷(4‐α)+2200。=△5,000を忘れない。
久しぶりに来た『マサクン』の家は、リノベで床が高くなっていて
ギターを弾いたり、良くない話をしたりで夜は更けていった。
時計を見れば午前四時。良くない怒りに任せて僕は家を出て
さっきタクシーで来た道を歩いて帰ることにした。
『マサクン』の家で寝るのが嫌だったわけではなく
歩いてみたくなったのだ。とにかく歩きたかった。
ほら最近、毎朝ウォーキングしてるし。ほんとそれだけ。
山を下りて、車崎トンネルへと歩いて入る。
車では何度も通った道だけれど、歩道はビックリするほど狭い。
トンネルの中は何故か泥濘だらけで
今の僕にはちょうどいい。なんでもかかってきやがれといった気分。
駅について、始発までの30分が
ここ最近、感じたことのない長さだった。
始発が来て、昨日を終えそびれて今日に至る人の群れが
ゾンビのようにうなだれたまま詰め込まれていった。
”ありがとうございました”とLINEだけして
駅からの帰り道、朝の農道を歩いて帰った。
道行く電柱一本一本を本気でどつきながら
良くない感情をコントロールできないことがつらかった。
朝六時、エアコンをつけたままの部屋に帰って布団へ飛び込む。
全身が痙攣して痛くて、代わる代わる筋肉がひきつってそっぽを向いた。
「今日は具合が良くない」とメールして、2リットル水を飲んで吐いた。
「俺も最近あちこちガタがきて~」なんて常套句だけど
僕は心にガタがきてる。一度も話が嚙み合ってないだろう?
それがハッキリとした一日だった。
来週は松本だ。それまでになんとか整えたい。