ネフェルタリの墓3Dスキャンプロジェクト〜ワールドスキャンプロジェクトの挑戦
偉大な功績を残し、エジプトで最も偉大なファラオと崇拝されたラメセス2世。彼の数多くの王妃や側室の中で、最も寵愛を受けていたのが王妃ネフェルタリです。はたして、ネフェルタリとは一体どのような人物だったのでしょうか。今回は私たちワールドスキャンプロジェクト(W.S.P)による調査内容と共に、王妃ネフェルタリとその美しい墓についてご紹介しましょう。
王妃ネフェルタリ
第19王朝の3代目ファラオ、エジプト史でも最も有名な王のひとりラメセス2世の最初の正妃であるネフェルタリ。その出自は謎が多く残されていますが、「王の娘」の称号を持っていないため、王族出身ではなく、エジプト貴族の一員だったのではないかと推察されています。「女神ムトに寵愛されし者」を指す「ネフェルタリ」という名前を冠する彼女は、ラメセス2世に深く愛され、その寵愛ぶりは、ネフェルタリに捧げられたアブ・シンベル小神殿にも表現されました。
しかし、ネフェルタリはラメセス2世よりも先に亡くなってしまったため、ラメセス2世は彼女を美しい墓へ埋葬しました。この小さな墓は保存状態の良さと見事な壁画から、現在エジプトで最も美しい遺跡と言われています。
壮麗なネフェルタリの墓
1904年、イタリア人考古学者のスキャッパレッリが、ルクソールのナイル川西岸にある「王妃の谷」でネフェルタリの墓を発見。「王妃の谷」は、ファラオが埋葬される「王家の谷」に対し、王妃、王子、王女、宮廷で暮らす王族などが主に埋葬された地です。
発見当時の内部は湿気で覆われ、壁には塩が堆積していたりと劣化が進んでいましたが、1986年から1992年にかけての修復作業によって、美しい姿が蘇りました。そして今では壁画の壮麗さで知られており、現在ではエジプトの全遺跡の中で最も高額な入場料であることも、その価値を表しているといえるでしょう。
ネフェルタリ墓の入口は岩を切り開いて作られた階段から始まり、前室に入ると、天井には暗青色で描かれた星空が広がります。そこには、ネフェルタリを迎える神々と、「死者の書」第17章に基づく絵画が描かれました。古代のボードゲーム「セネトゲーム」をしている場面は、ネフェルタリが運命と戦い、運命を打ち負かすことで永遠の命を得るということを表現しています。
鮮やかに装飾された壁画の数々
壁画の数々は、数千年の時が流れたとは思えないほど鮮やかで、ネフェルタリの冥界の旅路をなぞることが出来ます。前室ではネフェルタリに「生命を与えられし者」「声正しき者」などの称号が与えられ、イシス神によって、冥界の神であるオシリス神の元へ導かれています。
副室の正面には、 オシリス神と古代エジプトの創造神であるアトゥム神が、 扇子を中央にして対称的に描かれました。眼前にはネフェルタリによって捧げられた牛の体や臓器、顔などの供物が積まれ、贅沢にお香まで焚かれていることから、これらの神々がどれほど崇拝されていたかが分かります。
隣に描かれたのが、「死者の書」の第94章の抜粋です。ネフェルタリと学問や魔術の神であるトト神が対面しており、ネフェルタリの手には、トト神に捧げるパレットが握られています。ここで特徴的なのが、パレットの後ろのカエル。カエルはヒエログリフでは「ヘフェン」と表されますが、10万を表す言葉でもあり、ここではネフェルタリ が10万年生きるということを象徴的に示すため描かれました。
ネフェルタリ墓の3Dスキャン
初めてこの遺跡に入った時の興奮と感動は言葉に表せないほどでした。私たちワールドスキャンプロジェクト(W.S.P)にとって、この貴重な墓を3Dスキャンできたことは大きな喜びです。
スキャンは細心の注意を払いながら行われ、壁に触れることなく、高精度でデジタル化することに成功。壁画のディテールを細かく捉えることによって、ネフェルタリの生きた時代の美術や神話に関する調査を、時間や場所などの制約を超えて行うことが出来ます。また、この技術をVRやメタバースに応用すれば、これまでアクセスが難しかった場所でも、多くの人々が気軽に訪問できるようになるでしょう。
世界を、未来を、好奇心を、身近に
私たちワールドスキャンプロジェクト(W.S.P)の目的は、世界中の遺跡調査とスキャンを続け、デジタルアーカイブとして保存することで、人類共通の財産を未来へと繋げていくことです。そして、この活動を通じて世界中の人々が古代文明の魅力に触れ、その価値を理解し大切にすることを願っています。ご興味があれば、ワールドスキャンプロジェクトの活動をフォローいただき、ぜひ応援をお願いいたします。
ネフェルタリの墓についてはこちらの動画もご覧ください。