ー 絵本をめぐる旅 ー 絵本専門士の制作ノートから(1) 『ピンクー にじのでるばしょ』
第1回は、『ピンクー にじのでるばしょ』(スペイン)をめぐる旅です。
自分の居場所を探す旅へ
たまごのころから、違っていた。ピンクーは大きなピンク色のモンスターです。自分はみんなと少し違う。もしかしたら、だいぶ違う。みんなと同じようにふるまうのはむずかしい。みんなと同じふりをしようとしても、うまくいかないし、本当はそんなことしたくない。
「自分は誰とも違う」ということ。そのことに最初に気付いたのはいつだったでしょうか。誰とも違う自分。はじめて気付いた瞬間、それはとても大きな発見で、誇らしく嬉しいことだったはず。誰とも違う自分。いつしかそれが不安や心細さのきっかけになったりもします。
ピンクーは自分が自分らしいままでいられる場所を探すと決め、旅をします。ここではないどこかに、もっといい場所がきっとある、という思いを胸に。
ピンクーは私、そして誰でもある
この絵本の見返しには、「ピンクーみたいにかんじたことのあるひとたち、みんなへ。」と献辞があります。ピンクーとして描かれたのは、作者オルガ・デ・ディオスさん自身。
ピンク色、女の子として生まれた自分。もてあますほど大きな身体や強すぎる力は、うまく周囲に合わせて溶け込みきれない個性。ピンク色なのに大きくて力持ちだったらおかしいの?男の子らしさとか、女の子らしさとか、勝手に期待しないで、私は私でいさせて欲しい。オルガさんの明瞭でおおらかな願いは、ピンクーが最後にたどりつく虹の出る場所に咲き誇ります。
『ピンクー にじのでるばしょ』を手に取る子どもたちが、「ソーシャル・インクルージョン」や「ダイバーシティ」という言葉に出会うのは、もう少し大きくなってからのこと。そういった言葉を説明されて学ぶより先に、絵本の中のピンクーから、誰でもが自分らしくいられることの素晴らしさを感じられるのではないでしょうか。その場所は、どこか遠くにではなく、すぐそばに、みんなの心の中に育まれていくはず。いつか、ずっと大きくなってから読み返したときに、ああそうかと気が付いて、にっこり笑ってくれる子もいるかもしれません。教えてもらうより先に、ちゃんとわかっていたよ、と。
心に種をまく
それぞれの絵本が持つテーマについて、「この絵本では何々を学ぶことができます」「この絵本は何々を教えてくれます」と説明する必要は、本当はないとワールドライブラリーは考えています。私たちがお届けするのは、教科書ではなく絵本です。構えずに、気軽に、さまざまな国と地域の、たくさんの絵本にふれてほしいのです。
世界の絵本を手に取り、見慣れた日常とは違った風景や色や物語をたっぷりと味わうこと。それは、心にたくさんの種をまくことです。時間とともに、読者の成長や経験とともに、いつの間にか芽を出し、ゆっくりゆっくりと、偏見や固定概念のないゆたかな心、自由な想像力が育ってくれたらと思っています。
そして、たくさんの絵本にふれていく中で、自分だけの特別な一冊と思える絵本に出会うこともあるかもしれません。誰にとってもその一冊との出会いがありますように、それが私たちの願いです。