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『逃避行』って曲なんだけど...

『逃避行』って曲なんだけど…………


私的には、amazarashiの中でも頭一つ抜けてカースト上位曲。まさに王道(ただしamazarashiの歩く道に限る)の匂いがする。この曲の良さは何と言っても歌詞の生々しさにある。いや、秋田氏の場合生々しさは茶飯事なのだが、プラスしてこの曲には自虐的なユーモアに富んだ生々しさが込められている。
まず冒頭の「地下鉄にへばり付いたガム踏んづけて」の時点ですでにシリアスな面白さがある。「そもそも前から気に食わなかった」この一節も普通のラインだが、秋田氏の一人称で語られていると思うと微笑ましい。メロディアスな曲調とは裏腹に、相も変わらず秋田氏の口から出る言葉は一定の影をまとう。「たまらずに人ごみを走った 今思えばあれが始まりだ 押しつぶされた僕の逃避行 上手くいかなけりゃ死んでやるぜ」このサビは無駄がなく、スリムでかなりの前傾姿勢だ。鬼気迫る疾走感に「押しつぶされた」や「死んでやる」というネガ言葉の味付けがなされ、感情が鰹節のごとく舞い踊る。「死に損なったっていうより 生き損なったってのが正しい」あーー、ちょっと止めて。これ。この言い回しが本当に好きなんすよ。秋田氏特有の造語はいつも形而上学的な事象を可視化する。視覚化により我々は「言い得て妙だ」、「孤独な思想ではなかった」と称賛し、共感し、安堵する。

2番もたまらない。「振り切った臆病が 馬脚現せと狙ってる」臆病に狙われている..この主語の入れ替えがより歌詞を脳細胞に浸透させる。秋田氏は私と同じ50音を使っているはずなのに、私が決して口にしないような日本語を淡々と使う。最早異国語である!amazarashiを聞くことで、日本語の美学に触れている。そしてこれらの高尚な日本語は明治の文豪を想起させる。
そしてサビでおもわず「ぐぅあ..」とぐうの音が逆に出てしまうほどの一説に出会う。「夢や時給や社会体の奴隷になってる暇はないぜ」自覚がないまま夢に首輪を繋がれていた。時給を中心にタイムスケジュールを組んでいた。社会体のために進学していた。この一節を繰り返し無自覚の隷属を断たねばならない。この曲を聴くたびにハッとさせられる。「生き永らえたっていうより 生かされてるってほうが正しい」この表現を接続するのもまったく驚かされるわね。「僕らを走らせるなら きっとなんだっていい 恩義でも逃避でも 世間体でも逆恨みでも」私にもそんな日がある。プラスにでもマイナスにでも働いてくれていいからとにかくきっかけが欲しい。「前に進んでいる」という事実が自分をほっとさせる。次いで冒頭のそれとないワードが繰り返される。「そもそも前から気に食わなかった」「あのへばりついたガム踏んでやろう そいつのせいにしてやろう」1番では相当イライラ来てたはずなのに、今は率先してガムを踏みに行くこの心境の変化は、同じ事象でも意識の差で得られる経験値が異なる、ということを表す。彼女に振られた事実を、目先の腹立たしさに預けるのか、自身のステップアップとして長期投資だと捉えるのかによく似ている(体験談)。にしてもそれをガムで表現するかあ。ちなみに全く関係ないが、iphoneの普及によりガムの消費量が減少したという面白い論文があるらしい。昔はバスや地下鉄の待ち時間にガムを噛んで暇をつぶしていたが、今はiphoneで暇をつぶせるからガムの存在意義が弱まっているらしい。こういった思わぬ相関関係は面白い。関係ない話スマソ。

最後のサビを語らせてくれ。「掴み取るその理想の重さ 僕らの悔し涙と等価」こ、れ、は。なるほど×3。理想の重さは悔し涙と同じくらい重たいのか。それとも理想の重さとは悔し涙程度の価値しかないのか。秋田氏が悔し涙にどれほどの価値を見出しているのか考えたくなる。人によって価値のつけ方があり、それぞれの人どころか、一人の人間でさえライフステージ、環境、年齢、あらゆる現実の縛りがこの一節を如何様にも変幻させる。「死に場所を探す逃避行が その実生きる場所に変わった」あるある!おそらく秋田氏はこの死に場所を必ずしも外界に設定しているわけではない。とりわけ外に一歩も出ずとも死に場所を探すことが出来る。心の中だ。ここでいう「死」は自分が物理的に死ぬ意も含有しているだろうが、心を殺す、感情を殺す、自分を殺すというペルソナも想定されている。死に場所というのは、自分の心の中に感情の墓地を設け自分を殺すこと。そして死に場所を探して現実から逃げていた途中で、大切なものと向き合う時間があり、生きる希望を得る。どうだろう。最後の一説はもっぱら自分に言われているなという気分にならないだろうか?こうして秋田氏はリスナーに痺れるほどの当事者意識を植え付ける。気付いたらその芽は細胞レベルで洗脳を開始し、無意識にこのようなブログをかく青年に育てられていく。

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