夢の瞬間!マイケル・ジャクソンの振付師トラヴィス・ペインと横浜アリーナで共演
15歳の時に出会ったマイケルジャクソンの映画This is it。
そのスクリーンの中でもう1人輝いていた存在がいた。
彼の名はトラヴィス・ペイン。マイケル・ジャクソンの右腕と呼ばれた振付師であり、世界的なダンサーだ。
『This Is It』では振付監督としてマイケルと共にステージを作り上げ、過去には『Dangerous Tour』『HIStory Tour』にも携わった。さらには、ブリトニー・スピアーズやレディー・ガガなどのトップアーティストとも仕事をし、エミー賞にも輝いた経歴を持つ。
スクリーン越しに見た彼のダンス、振り付け、そして情熱に心を奪われた。
2015年9月。
彼は横浜アリーナでマイケルジャクソンの追悼イベントをやるということで、バックダンサーを募集する話があった。
僕はその時フィリピンの孤児院でダンスプロジェクトをやっていたが、ちょうど帰国日の次の日がオーディションの日だった。
不安はあったが迷いはなかった。
世界的なダンサーになると決めた僕にとって、このチャンスを逃す理由は何もなかった。
マイケル・ジャクソンの右腕トラヴィス・ペイン のもとで踊る。
それは、15歳のとき『This Is It』を観て憧れた夢の舞台への第一歩だった。
オーディション当日。
会場には、約200人のダンサー。
子どもから大人まで、年齢も経験もバラバラだが、全員が同じ夢を抱いてここにいた。
そして、目の前には トラヴィス・ペイン。
マイケル・ジャクソンの右腕として20年間彼と共に世界のステージを創り上げてきた男。
その圧倒的な存在感に、思わず息を呑んだ。
ただそこに立っているだけで、言葉では表現できないエネルギーが伝わってくる。
「本物がここにいる」
そう実感した瞬間、震えるような緊張と興奮が全身を駆け巡った。
彼はゆっくりと前に歩み出し、静かに、しかし力強く言った。
「これまで覚えたマイケルの振り付けはすべて忘れろ。
癖も全部なくせ。
私が教えた通りに踊りなさい。」
一瞬、会場が静まり返る。
みんな驚いていた。
マイケルのダンスを踊るためにここへ来たはずなのに、
彼は「忘れろ」と言った。
でも、その意味はすぐにわかった。
トラヴィス・ペインが求めるのは「完璧な再現」。
自己流のアレンジや、無意識の癖など、一切不要だった。
彼の指導のもと、純粋に マイケルのダンスを正確に踊ること が求められていた。
そして、振り付けが始まった。
課題曲は 『Smooth Criminal』。
イントロが流れた瞬間、心が高鳴った。
何百回と踊ってきた、大好きな曲。
自信もあった。
どんな動きも完璧にできると、そう思っていた。
だけど、、
まったく通用しなかった。
彼の振り付けは、これまで自分が踊ってきたものとはまるで違った。
一つひとつの動きが、より繊細で、より正確で、より計算され尽くしていた。
リズムの取り方、角度、ステップの踏み方、すべてが自分の想像を超えていた。
何より驚いたのは、体の使い方。
マイケルの動きを真似るだけではダメだった。
彼の動きの「意図」まで理解しなければ、本当のマイケルにはならない。
踊りながら、焦りが込み上げた。
「思うように動けない……」
自分では完璧にやっているつもりでも、彼の視線は鋭かった。
ほんの少しのズレも見逃さない。
まるで、自分のダンスの すべてを見透かされているような感覚だった。
90分間、全力で踊り続けた。
汗が滴り落ち、息も切れそうだった。
だけど、トラヴィスの目は変わらない。
「まだ足りない」と言わんばかりの厳しい表情は今でも忘れられない。
運命の審査、そして予想外の結末
90分間のダンスレッスンが終わり、次の審査が始まった。
「これから8名ずつ、私たちの前で踊ってもらいます。」
トラヴィス・ペインの言葉に、会場の空気が一気に張り詰める。
そして、信じられないことが起こった。
「最初のグループ、前へ。」
そこに、僕の番号があった。
まさかのトップバッター。
深く息を吸う。
この瞬間のために、自分はここまでやってきたんだ。
トラヴィスが教えてくれたこと、すべてを出し切る。
音楽が流れた。
身体が勝手に動く。
動きのひとつひとつに意識を研ぎ澄ませ、ただ、全力で踊った。
完璧だった。
自分の中で、これ以上ないほどのパフォーマンスをした。
そして、踊り終わった瞬間、トラヴィスの表情が少し柔らいだ気がした。
「いけたかもしれない。。」
そんな淡い期待が胸をよぎる。
その後、次々と他のグループも踊っていく。
トラヴィスはそのすべてを鋭い目で見つめ、微細な動きすら逃さなかった。
そして、全グループの審査が終わった。
場の空気が静まり返る。
「番号を呼ばれた者は、前に出てきなさい。」
そして次の瞬間、僕の番号が呼ばれた。
「えっ…!?」
呼ばれたのは、僕を含めた10人。
心臓が高鳴る。
「もしかして…受かった…?」
一瞬、胸が熱くなる。
ここにいる160人の中から、10人だけが選ばれた。
もしや、僕はその狭き門を突破したのかもしれない。
しかし、次の言葉が意外な展開をもたらした。
「君たちにはもう一度踊ってほしい。——ただし、フリースタイルで。」
フリースタイル。
つまり、自分のダンスを即興で踊るということ。
しかも、審査員だけではなく、160人のダンサーたちが見守る前で。
一瞬、心がざわついた。
でも、恐れる気持ちはなかった。
これまで世界各地で踊ってきた。
即興で踊ることも慣れている。
むしろ、この場で自分を表現できるチャンスだ。
深く息を吸う。
そして踊った。
身体が音に溶け込む。
トラヴィスの前で、自分のダンスを存分に魅せつける。
気づけば、会場中から拍手が巻き起こっていた。
やり切った。そう確信した。
しかし、結果は衝撃だった。
「番号を呼ばれた10名は不合格。」
「残りの150名が合格。」
えっ!?
場がざわつく。
受かったのは、僕たちだと思っていた。周りもそう思っていた。
でも、現実は 選ばれた10名が落ち、残りの150人が合格という、まさかの結果。
「どういうことだ……?」
信じられなかった。
あれだけ全力で踊ったのに。
周りから拍手をもらえたのに。
呆然と立ち尽くしていると、トラヴィスが歩み寄り、僕たち一人ひとりを 優しく抱きしめた。
そして、静かに言った。
「君たちのダンスは素晴らしかった。でも、まだ癖が残っている。」
その言葉に、胸が痛んだ。
「明日もオーディションがある。まだ挑戦したかったら来なさい。」
悔しさが込み上げる。
選ばれたと思ったのに落ちたのだ。
みんなの前で、期待を持たせた後に不合格を言い渡される。
まるで、恥をさらしたような気分だった。
絶望の帰り道、そして再び燃え上がる炎
オーディション会場を後にし、重い足取りで家へ向かう。
街の喧騒が遠くに聞こえる。
まるで、自分だけが別の世界にいるようだった。
悔しさが込み上げる。
『こんな屈辱を受けるくらいなら、最初から挑戦しなければよかった。』
選ばれたと期待させられたのに、最後には落とされる。
人前で希望を与えられ、そして叩き落とされる。
"もう二度と、オーディションなんて受けない。"
そう決めた。
家に着くと、母親が声をかけてきた。
「オーディション、どうだった?」
僕はできるだけ平静を装い、言葉を絞り出す。
「落ちたよ。でも……まだ明日チャンスはある。」
母は静かに頷き、優しく聞いた。
「……で、どうするの?」
一瞬、言葉に詰まる。
本当は言いたくなかった。
悔しいなんて、未練があるなんて、認めたくなかった。
だから、少し笑いながらこう言った。
「今はまだ……立ち直れない。」
母はそれ以上何も言わなかった。
ただ、「そっか」とだけ言って、僕の気持ちを尊重してくれた。
オーディションは 翌日の昼1時から。
その日は疲れ果て、ベッドに沈むように寝た。
翌日の朝9時、目を覚ました。
寝起きのまま、ふと 『This Is It』 のDVDを手に取る。
久しぶりに、もう一度観たくなった。
テレビの画面に映し出される マイケル・ジャクソン の姿。
そして、その隣で踊る トラヴィス・ペイン。
そうだ。
彼に会えたこと自体が、奇跡だったんだ。
世界で活躍する マイケルの右腕 の前で踊る機会なんて、一生に一度あるかないかだ。
そう思うと、少しだけ気持ちが晴れた。
「良かったな……本当に。」
感傷に浸りながら画面を眺めていると、不意に 自分がトラヴィスの横で踊っている光景が頭の中に浮かんだ。
待てよ。。
本当にこれで終わっていいのか?
「まだ、チャンスはある。」
心臓が高鳴った。
たった あと数時間後に、もう一度挑戦する機会がある。
それなのに、何もしないまま終わらせてしまっていいのか?
自分の中で、何かがはっきりとした。
「……もう一度、やってみる価値はあるかもしれない。」
そう思った瞬間、身体が動いていた。
再びオーディション会場へ
急いで準備をし、家を飛び出す。
向かう先は、昨日とは違うオーディション会場。
会場に着くと、昨日とは違う雰囲気だった。
明らかに人が少ない。
それもそのはずだった。
昨日の合格者たちは、すでに本番に向けたリハーサルを始めている。
今日のオーディションに来るのは、昨日の落選者や、どうしても挑戦したい人だけだった。
合計60人ほどだろうか。
昨日の落選者も数人だけいたが、全員ではなかった。
「よし、やるぞ。」
昨日の悔しさをバネに、僕は再び舞台へと足を踏み入れた。
会場に着くと、昨日と同じ曲が流れていた。
『Smooth Criminal』
振り付けも昨日と同じ。
癖をなくすこと。
それが今日の課題だった。
でも、どうすれば?
自分の癖がどこにあるのか、どう直せばいいのか、完全には分かっていなかった。
だから、審査員の一人に勇気を出して聞いた。
「僕のどこがダメですか?」
審査員は少し驚いたような顔をし、それから静かに答えた。
「君は、マイケルの動きを完璧に真似ている。」
そして彼は続けた。
「首の動き、ステップ、すべてに”マイケルらしさ”が出すぎている。」
「でも、この振り付けはマイケルのものじゃない。“バックダンサーの振り付け” なんだ。マイケルの動きは忘れないといけない。白紙の状態で踊るんだ。」
「マイケルのように滑らかに踊るのではなく、もっと真っ直ぐに、もっとシャープに動きなさい。」
ハッとした。
昨日の僕は 「マイケル・ジャクソンのように踊ろう」 と思っていた。
でも、それは間違いだった。
この振り付けは、バックダンサーのためのもの。
僕はマイケルではなく、バックダンサーとして完璧に踊る必要があった。
気づいた瞬間、今までの自分の甘さを痛感した。
「やるしかない。」
僕は、徹底的に 癖を修正することにした。
修正の時間、振り付けを研ぎ澄ます
幸いなことに、振り付け自体は完璧に覚えていた。
だから、他の参加者が振りを必死に確認する中、僕は癖をなくすことだけに集中できた。
首の角度、腕の軌道、足の運び。
すべてをゼロから作り直すような感覚だった。
昨日とは違う。
今日は、ただの “情熱” ではなく、“精密な技術” で戦うんだ。
そして、
オーディション本番
「最初のグループ、前へ。」
またしても 僕は一番最初だった。
昨日と同じシチュエーション。
でも、昨日の自分とは違う。
深く息を吸い、ステージの中央に立つ。
音楽が流れた。
心の中で呟いた。
「全力で踊るな。徹底的に修正したダンスを見せろ。」
そして踊った。
無駄な動きを一切排除し、
癖のない、研ぎ澄まされたダンスを。
昨日の僕だったら、全力で魅せようとしていた。
でも、今日は違う。
シャープに。
無駄なく。
バックダンサーとしての 正確な動きを意識して踊った。
踊り終わった瞬間、トラヴィスの視線が鋭く僕を捉えた。
どうだ?
心の中で問いかけながら、静かに彼の次の言葉を待った。
運命の結果発表
踊り終わり、静かに息を整える。
そして最初に呼ばれた番号。
その数も前回と同様10ー15人ほど。
「頼む。呼ばれないでくれ」と心の中で祈っていた。
会場の空気が張り詰める中、トラヴィス・ペインがゆっくりと僕の方を見た。
一瞬、心臓が跳ねる。
どうだ?
そして番号が呼ばれ終わった。
その中に僕の番号は、、、
なかった!!!!
その瞬間、全身に鳥肌が立った。
「受かったのだろうか、、」
まだ合格と言われるまでは緊張が抜けなかった。
そして番号を呼ばれた人たちは昨日と同様にフリースタイルを踊った。
そしてフリースタイルが終わったあと、彼はみんなに言葉を放った。
「今番号を呼ばれた人たちは残念ながら不合格だ。」
「呼ばれなかった人たちは合格だ」
——受かった。
一瞬、理解が追いつかなかった。
でも、すぐに実感が込み上げてきた。
やった……!
昨日の悔しさ、
癖を直すために費やした時間、
全てが報われた瞬間だった。
「挑戦してよかった。」
心の底から、そう思えた。
忘れられない言葉
合格が決まり、僕は記念にトラヴィス・ペインと写真を撮った。
憧れ続けた人と、同じフレームに収まる。
それだけでも十分すぎるほど嬉しかった。
でも、もっと驚いたのは彼の言葉だった。
写真を撮る直前、トラヴィスがふと僕を見て、ニッと笑いながら言った。
「よくまた来たね。」
その瞬間、胸が熱くなった。
昨日、悔しさに押しつぶされそうになりながらも、もう一度挑戦すると決めた。
それを、彼はちゃんと覚えてくれていた。
あの日の苦しさも、
諦めかけた自分も、
すべてが報われたような気がした。
「本当に挑戦してよかった。」
そう心の底から思った。
トラヴィスと並んで撮った 1枚の写真。
それはただの記念写真じゃない。
僕が諦めずに掴んだ証 だった。
あの時の感動は、今でも鮮明に覚えている。
12,000人の前で——本番までの3日間
「本番まであと3日。」
そう告げられた瞬間、心臓が高鳴った。
オーディションに合格したのはいい。
でも、ここからが本当の勝負だった。
たった3日間で、完璧に仕上げなければならない。
しかも、パフォーマンスの舞台は、
12,000人の観客が待つ横浜アリーナ。
気を抜けば、すぐに置いていかれる。
そんな緊張感の中、怒涛のリハーサルが始まった。
課題曲は2曲
僕は『Thriller』に選ばれた
トラヴィス・ペインがチーム全体に告げた。
「パフォーマンスは 『Thriller』 と 『Smooth Criminal』 の2曲。
それぞれ振り分ける。」
静まり返る会場。
選ばれるのはどちらか。
そして、僕の名前が呼ばれたのは 『Thriller』 のチームだった。
マイケル・ジャクソンの代表曲。
世界で最も有名なダンスのひとつ。
ゾンビの動き、独特な振り付け、表現力が求められる難易度の高いナンバー。
ワクワクと緊張が入り混じる中、トラヴィスが厳しい声で言った。
「いいか、君たちは “マイケルの世界” を創るんだ。
一つひとつの動きに意味がある。
ただ振り付けを覚えるだけじゃダメだ。
キャラクターになりきれ。
観客を、“Thrillerの世界” に引きずり込め。」
その言葉に、背筋がゾクッとした。
この舞台はただのダンスじゃない。
“ストーリー” を表現するためのものなんだ。
そう気づかされた。
怒涛の3日間
そこからは、地獄のようなリハーサルが始まった。
朝から晩まで、踊り続ける。
食事の時間以外、ほぼ立ちっぱなし。
休憩もほんのわずか。
トラヴィスは、細かい動きまで一切妥協しなかった。
「肩の角度が違う! もっと不気味に!」
「ステップが軽い! もっと重心を落とせ!」
「君たちはゾンビなんだ! 人間っぽく動くな!」
何度も、何度も、繰り返す。
振り付けを覚えるだけじゃなく、
体の使い方、視線、表情、すべてを修正される。
特に “ゾンビウォーク” の部分は、何十回もやり直した。
普通に歩くのではなく、まるで 死者が蘇ったように見せなければならない。
ただ動きをなぞるだけじゃ、“Thriller” にはならないんだ。
リハーサル初日の夜、足がパンパンに張っていた。
全身が重く、座ったら二度と立てなくなるんじゃないかと思うほどの疲労感。
でも、不思議と やめたいとは思わなかった。
むしろ、もっとやりたい。
もっと完璧にしたい。
それだけの熱量が、この3日間にはあった。
トラヴィス・ペインの直接指導
2日目、ついにトラヴィス・ペインが 僕たちの動きを直接チェックし始めた。
彼の前で踊る緊張感は、オーディションとは比べものにならなかった。
一人ひとりの細かい癖まで、すべて見抜かれる。
僕が少しでもリズムを外せば、
「違う!」
すぐに止められる。
彼の視線は、まるで “X線” のようだった。
ダンサーとしての本質まで見透かされているような感覚。
でも、彼はただ厳しいだけじゃない。
正しく動けたときは、
「そう、それだ!」
と、しっかり褒めてくれた。
その一言が、どれだけ嬉しかったか分からない。
世界的な振付師の「OK」をもらえることが、どれだけ価値のあることか。
3日目の夜。
リハーサルが終わり、ようやく本番前の最後の時間になった。
足はガクガク、体はボロボロ。
でも、不思議と心は落ち着いていた。
振り返ると、この3日間があっという間に感じた。
オーディションに落ちた悔しさ。
再挑戦して掴み取ったチャンス。
そして、トラヴィスの指導のもと、全力で踊った3日間。
すべてが、ここに繋がっていた。
そして本番当日。
観客が舞台袖から見える。
僕の弟と父も観に来ていた。
ステージの向こうには 12,000人の観客。
迫力がすごかった。
この人数の前で踊るのか。。
そう、スポットライトが当たるのは、僕たち。
もう迷いはない。
あとは踊るだけだ。
心の中で、静かに呟いた。
「Let’s do this.(やってやる)」
そして、本番の幕が上がる。
12,000人の前で、幕が上がる——
オープニングが始まった。
会場は暗闇に包まれ、スポットライトが一点に集まる。
そこにはトラヴィス・ペイン。
彼のソロダンスが始まった瞬間、横浜アリーナが揺れるような歓声に包まれた。
「これが本物のステージだ。」
彼の動き一つひとつに圧倒される。
次に審査員の2人がステージへ。
息の合ったダンスが続き、観客の興奮はさらに高まる。
そして、
「GO!!」
合図とともに、会場が真っ暗になった。
その瞬間、僕たちは 定位置へと静かに移動する。
横浜アリーナのステージは 想像以上に広い。
リハーサルでは 2回しか踊っていない。
しかも、そのときは軽い動きと音量チェック、演出の確認程度だった。
本番で、ここで全力で踊るのは初めて。
でも、もう後戻りはできない。
この 広大なステージのど真ん中で、
12,000人の観客が見つめる中で、
僕たちは 最高のパフォーマンスをしなければならない。
僕はステージに横たわる。
ゾンビは、“死” から蘇るところから始まる。
静寂の中、心臓の鼓動だけが聞こえる。
そして、音楽が鳴った。
「ドンッ!!」
その瞬間、体全体に爆音が響き渡る。
重低音がステージを揺らし、
会場の歓声が全身を貫くように突き抜ける。
心臓が跳ね上がる。
これは夢か? それとも現実か?
暗闇の中で、頭の中が真っ白になりそうになる。
ゆっくりと立ち上がり、一気に高揚感が増した。
そして僕たちは全力で踊った。
目を開けると、目の前には信じられない光景が広がっていた。
無数のライトが、ステージを照らし出す。
その光が、12,000人の観客の興奮した表情を映し出していた。
その奥には 無限に続くような客席。
「これが……横浜アリーナか……!」
でも、それだけじゃなかった。
ステージの端々から 炎が吹き上がる。
「ゴォォォッ!!」
熱が一気に押し寄せる。
まるで、自分のすぐそばで火が燃え盛っているような感覚。
肌が熱を感じ、空気が一瞬で熱くなる。
——すごい。
まるで映画の中に入り込んだような、
いや、それ以上に現実とは思えないほどの演出。
視界いっぱいに広がる光と炎。
耳をつんざくような歓声と爆音。
心臓にまで響くビート。
「これが、本物のステージ……!!」
この一瞬のために、僕はどれだけの時間を費やしてきたんだろう。
どれだけの汗と涙を流してきたんだろう。
そう思いながら僕は無我夢中でthrillerを踊った。
横浜アリーナに “Thriller” のビートが炸裂する。
指先から、腕、背中、首へと ゾクゾクと生命が戻るような動き。
筋肉が覚えている。
いや、もう考える必要すらなかった。
僕の周りにも、仲間たちが一斉に動き出している。
その一体感に、鳥肌が立った。
トラヴィスが言っていた、
「観客を”Thriller”の世界に引きずり込め!」
まさに、今、僕たちはそれをやっている。
炎の熱、ライトの輝き、
12,000人の観客の 息を呑む気配 がダンスを通して伝わってくる。
その感覚に、さらに心が燃え上がる。
「もっと!」
ステップを刻むたびに、アリーナ全体が脈打つように感じた。
そして、曲がクライマックスへ向かう。
スモークが吹き上がる。
観客の歓声が最高潮に達する。
その中で僕たちは 最後のポーズを決めた。
「ドンッ!!!」
音が止まり、会場が一瞬 静寂に包まれる。
そして——
「ウワァァァァ!!!」
地響きのような歓声が押し寄せた。
観客が叫び、拍手が鳴り響く。
息が切れていることにも気づかなかった。
でも、体は確かにそこにいた。
終わったんだ。
僕たちは、踊りきった。
気づけば、すべてがあっという間 だった。
12,000人の視線の中で踊るという経験。
その一瞬のために、僕たちは何日も、何時間も、踊り続けてきた。
この舞台に立てたこと、
このダンスができたこと、
すべてが 最高の瞬間だった。
最後のステージ——“History” で一つになる瞬間
「History、スタンバイ!」
スタッフの合図とともに、僕たちは 最後のステージ へ向かった。
照明がゆっくりと落ちていく。
そして、マイケル・ジャクソンの曲 “History” のイントロが流れ始めた。
この曲が、僕たちのフィナーレ。
僕たちダンサーだけじゃない。
ここにいるすべての人が、一つになるためのラストパフォーマンス。
仲間たちと目を合わせる。
お互いに頷く。
そして、音楽が高まり、
「Boom!」
僕たちは力強く踏み出した。
左へ、右へ。
全員が同じリズムで動く。
200人以上のダンサーが、横浜アリーナのステージを埋め尽くす。
その光景は、まるで 人種も年齢も国境も関係ない、世界そのもの だった。
まるで世界を抱きしめるように。
まるで平和を願うように。
僕たちは踊る。
会場にいる観客も、リズムに合わせて手を振る。
子どもも、大人も、関係ない。
肌の色も、国籍も、関係ない。
ただ、“音楽” と “ダンス” で繋がるこの瞬間。
この “一つになる感覚” が、僕は何よりも好きだった。
これが、マイケル・ジャクソンが伝えたかったことなのかもしれない。
音楽で、ダンスで、人々がひとつになれる。
そう思うと、心が震えた。
「Boom!」
最後の音が鳴り響く。
両手を高く掲げ、静かに動きを止めた。
12,000人の観客が 総立ちになり、鳴り止まない拍手と歓声が響き渡る。
スポットライトが僕たち全員を照らす。
ステージの上にいる仲間たちの顔を見る。
みんな、笑顔だった。
そして、ゆっくりと 幕が閉じる。
ライトが落ち、歓声が遠くなる。
静かに目を閉じた。
「終わったんだ……。」
信じられないほどの達成感。
夢のような時間だった。
僕の夢——世界中の子どもたちと創るステージ
12,000人の歓声。
あの光、あの熱、あの一体感。
ステージの上で感じた 「一つになる感覚」。
それはただのダンスではなく、
言葉を超えた「つながり」だった。
子どもも、大人も、国境も関係なく、
音楽とダンスがあれば、僕たちは一つになれる。
—そう確信した瞬間だった。
「僕は、世界中の子どもたちとこんなステージを創りたい。」
この時の感覚は今でも鮮明に覚えている。
ただ観るだけのショーじゃない。
誰もが主役になれる舞台を。
どんな環境に生まれた子どもたちも、
どんな国に住んでいる子どもたちも、
関係なく、みんなで 一つのステージを創る夢。
その夢を叶えるために、
僕は世界を旅し、踊り続けている。
ダンスを通じて、世界中の人と繋がる。
言葉が通じなくても、ダンスがあれば心が通じる。
それを何度も体験してきた。
だから、僕は止まらない。
世界のどこにいても、
どんな状況でも、
僕は ダンスで人を繋げる活動を続けていく。
マイケルが教えてくれたこと。
トラヴィスが教えてくれたこと。
いつか、世界中の子どもたちと最高のステージ を創るその日まで僕は世界で踊り続ける。
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