【追憶の旅エッセイ #83】車中泊やバス停の野宿を余儀なくされても、女ひとり旅は続く
決しておすすめはしないし、私は旅に武勇伝を求めていない。
でも、ときとして移動の手段が限られていて、どうしても新しい土地に街が寝静まっている深夜に到着することもある。
例えばこんな風に。
ほかにも直前のエッセイに書いたように、最高に胸がときめくプランが決まったのに、宿が満室で延泊ができないとか。これは今のところ、本当に最初で最後になったけれど、友達の車を借りて車中泊するはめになったり、ね。
そうこの単独での車中泊は、旅2年目の私にとって初めての経験だった。
満室だったけれど、延泊した理由になったマミはホステルのベッドを確保できていたため、私の貴重品は彼女のドミトリーに置かせてもらった。そしてシャワーやキッチンなども(勝手に)借りて、本当に寝るときだけ車に移動することにしたのだ。
彼女の乗ってきた車は、小柄な彼女が運転するにしては大きく、しかも後の席はスモークフィルムが貼ってあり、外から車中が見えにくくなっていた。快適な睡眠を確保できそうな空間に少しだけほっとして、そのバックシートに寝袋を持ち込んで寝ることにした。
その日は土曜日で(だから満室だったのか)、だから明け方まで人通りが多かったのに救われたみたいだ。というのも当時のハリファックスは、意外と人気(ひとけ)がなく治安も宜しくなかったのだと、後から知ったので。
ただ酔っ払いなのかなんなのか、ガタイの大きな兄ちゃんが複数、車の近くでなんとなく不穏な会話をしているのが聴こえたのも、スリリングだった。内容は覚えていないけれど…。
オーストラリアでも車上荒らしは本当に多いし、今となって思えば何があってもおかしくなかったと思うと、無事に朝を迎えられたことに感謝したくなる。
そうそう、ひとつ困ったことと言えば朝方6時、トイレに行きたくて目が覚めたことだ。ホステルは夜通しロックがかかっているし、仕方ないので近くのチェーン店のドーナツ専門店に入り、温かいグリーンティーを買って、トイレを借りたのを覚えている。
ただ「車で朝を迎えた」というだけなのに、夜の少しヒヤヒヤした心境から解放されたときの、あの達成感といったら…!苦笑。
今だったらホテルも含めてほかを探すとか別の考えも浮かぶだろうけど、当時は「車中泊」を思いついたとき「これ以上ない名案だ!」と閃いたのだから、仕方ない。
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さてハリファックスまで来て、見たい場所をすべて網羅できた私は、西に向けて引き返すことにする。
ハリファックスからケベックへ、14時間半のバス旅。
しかもケベック着は、午前3時過ぎ。
あぁ、長距離バスよ…。いや、オーストラリアといい、カナダといい、面積が大き過ぎるからそんな乗客ファーストなタイムスケジュールなど作れないのね、仕方ないわ。
そんな時間にチェックインさせてくれるホステルは、きっとない。ここはオーストラリアの西海岸とは大きく違うところ。あちらはそれ前提で、チェックインシステムが作られていたのだ。ケベックでこの時間に着く旅行者は、少ないのだろう。
同じバスで到着した人々は、迎えが来たりタクシーに乗ったりとすぐそれぞれの岐路に着いてしまった。
ほかに選択肢もないので、バスデポ(長距離バス停)で野宿することにする。
ありがたいことに、建物から閉め出されることもなく、バスデポは24時間開放されているようだ。人も少なかったけれど、まばらにいた。そして私は木製の堅いベンチの上で寝袋に包まれて、数時間眠った。
5時過ぎともなると、ケベックのバスデポには人の出入りも活発になり、私は人々の足音で目が覚めた。アジア人の小さな女の子がベンチで寝ている姿は、いったい彼らの目にはどのように映ったのだろう。心配してくれたのか、顔を覗き込んでいく人もいたっけ。苦笑。
おかげで力強く朝日が昇ってくる、その様子はパワフルに美しかった。今でも硬いベンチの感触と、その上で寝たこわばった体を溶かすような温かい太陽の光、そのコントラストを覚えている。
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数週間振りのケベック、そしてこれからモントリオールまでまた移動し、最後のカナダ東部の旅を完結するぞ!でも、もちろんわざわざこの辺をまたうろついているのは、別の目的地への通過点でもあるのだけれど…。
またひとつ鍛えられて、こんな風に私の女ひとり旅は続くのだった。
◆旅帖より◆
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