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バイクタクシーに乗って、世界が広がった日

世界を旅するなかで、さまざまなものに乗ってきた。

タイのトゥクトゥクからインドのリキシャ、ヨルダンの悪質なタクシー(経験上こう呼ぶしか…)、メコン川のスピードボート、エジプトとヨルダンを結ぶフェリー、サハラ砂漠のらくだにペトラ遺跡のロバにだって…。でもそれは、もう15年以上も前の話、感覚ごと忘れてしまっている。

タイのバンコクで、現地に暮らす友人が交渉してくれてバイタク(バイクタクシー)に乗ったことも、ある。でも今年からはじめたチェンマイノマドの日々で、ずっと乗りそびれているものがあった…。

それは、配車アプリのバイクタクシーだ。

この15年のあいだに、世界は急速に進化を遂げていて、それこそWiFiやスマホが普及してスマホさえあれば人は簡単に目的地へ行けるようになった。

そして旅人をいつも悩ませていた、旅先での移動も配車アプリの登場によって、以前と比べ物にならないくらい簡単なものになっていたのは、本当に画期的なことである。

2023年の東南アジアでは私もその恩恵にあやかり、チェンマイとベトナムのダナンではGrab(グラブ)という、こちらで主流となっている配車アプリを活用した。

ただし、いつも車だった。というのも前回の滞在ではとにかく暑く、外にいるだけで汗が噴き出す。そんな暑さでエアコン(AC)つきのGrabタクシーはちょっとしたご褒美のようなものでもあった。

だけど、チェンマイで足(移動手段)を持たないとなると、行動範囲はとにかく限られた。コロナ禍前にはあった交通機関である循環バスが、廃止されたままなのだ…。いくら安いとはいえ、日本のタクシーと比べて安いだけで、毎日乗るなら日本で電車に頻繁に乗っているのと同じくらいの額がかかるだろう。

配車アプリを使う際に、「バイク」の選択肢があることはわかっていた。値段も少し安いのではないか。

チェンマイを再び訪れて、今回は乗ろうかなという気になった。前回との大きな違いは気温だ。チェンマイの雨季は、思いのほかとても涼しく朝晩は肌寒いくらい…。

そして今日、初めてバイクを呼んでみたのだ。すると車以上にすぐ見つかり、すぐ到着したのには驚いた。そっか、バイクは小回りが利くのだ。

ただ、到着したバイクを見て少々面食らった。そのバイクは、予想していたものよりも一回りは小さかった。しかもその小さめのバイクに乗っているドライバーはタイ人にしては、一回り以上大きかったのだ!

つまり、私の座るスペースが小さいやないか!今が涼しくてよかった、とまず思った。

もうバイクは目の前で、ドライバーは私が乗るのを待っている。「サワディーカーップ」と笑顔でその小さなバイクを跨いだ。案の定、私の内ももは彼のお尻を挟むような(字面にするとあれだな。汗)カタチになり、少し触れる…。そう、これを避けたかったのだよ、この密着を。あぁ、今が涼しくてよかった、とまた思った。とほほ。

でも乗ってしまえば、こちらのもの。後は到着まで、この小さなシートから落ちずにいればいいのだ。バイクはスムーズに走り出す。その瞬間、バイクの端を掴む私の手と太ももにぎゅっと力が入る。

何度も車で行った場所だから、道もわかっている。直線に入りドライバーはスピードを上げた。その瞬間、私の体は遠心力でぐわんっと後ろにしなった。ドキッとしたが、なんとか持ちこたえる。さらに私がかぶっていた帽子が風に吹き飛ばされそうになり、それを抑えようと片手を放すと不安定さが増し、なんとなく心もとない状態で乗っていた。

そして途中、ドライバーが前のめりになった。なにごとかと思っているとヘルメットを取り出し「かぶって、警察がいる」と。そう、タイでは一応法的にはヘルメットをかぶることになっているのよね、と渡された瞬間にかぶる、帽子の上から。すると帽子が固定されて、安心感がアップ!あれほどむさ苦しそうで、かぶりたくなかったヘルメットだけど、今はそれに助けられている…!

そんなこんなで、たった10分ほどのライドで目的地に到着した。

で、実は続きがあって…。

目的地から、また別の場所まで徒歩で移動し、まったく別の場所でまたGrabを呼んだ。もちろんバイクだ。

すると配車アプリにバイクのプレートナンバーが出る。うん?となるも、まさかねとしばらく待つ…と、なんと、まさかの同じドライバー!彼も私に気づき、「あ!」と笑顔に。いや、笑顔はいいけど、私はまた小さいシートで2ケツかよ(汗)となっていた。

でも、まさか数時間で2度遭遇するとも思っていないせいで、2人とも妙な結束感が生まれた(と、私は感じた)。
さらに、さっきまでとても晴れてたのに急に降り出す雨。彼も濡れたくないのか、はたまた私も乗せているからか、運転のリミットを外した感じになる。つまり、さっきまでなら多少止まって待っていたタイミングでも、早く私を下ろしたいのか、とにかく車のあいだを縫うようにスピードを上げてぐんぐん走る。

でも雨にいきなり降られたのは、もちろん私たちだけではない。バイクの後ろの席から見ていると、車窓からなら見えない世界が広がっているのに気づいた。

例えば目の前に、オープンな乗り合いバス(ソンテウ)が数台止まっていて、そのなかにオレンジの袈裟を来た僧侶たちが、ぎゅうぎゅうに座っているのが見えた。

雨が降ってきて、避けるにも避けられないくらい密集して座っている様子はなんだか微笑ましかった。「雨やーん」みたいに皆が笑顔になって、「ちょっと詰めてそっち!」とおしくらまんじゅうみたいになっていた。こんなに僧侶って丸々していたかしら(失礼!)というような、どの僧侶もそんな風にふくよかで、大仏さんを大量に眺めているようなありがたい気分に…。笑

信号が変わり、それぞれの車やバイクはそれぞれの方向へ散って行った。シャワーに降られて、その水さえも太陽の光に照らされてキラキラと見えて、なんだかとても美しいものをみた、そんな気になった。

バイク上では、私もドライバーと「雨やん」「雨やでー」と、キャッキャッ言いながら笑い合って、そんな中目的地に到着した。目的地の食堂では「いつもの顔」が笑顔で迎えてくれる。「急に降ったね」なんて労ってもらって、笑い合う。そして、夕食をテイクアウェイして帰って来た。とても気分がよかった。

バイクの移動が、とても楽しかった。こんな小さなことなのに、私はまだ新しい世界を見ることが楽しいのだ、と。そのことに気づき、また幸せな気持ちになっている…。

そう、そして料金はやはり車の2/3~半額くらいで。これはありがたい!今回の滞在での、私の足になってくれること間違いないな。

これからバイクの後ろの席から、どんな風景を見るのだろう…!

※追記
最初がこんな風だったため、おかげさまで、これ以降のバイクライドがとっても快適!座席シートは大きいし、安定感バッチリだし、体は触れないし!なーんだ、本当にこのドライバーさんがたまたまだったんだ、と気づきました。笑

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m i a*旅する自然派ライター|エッセイスト
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