【世界一周・旅のカケラ #42】出逢った場所で、永遠のサヨナラ
まさに私たちが出会ったゲストハウスで、私たちは本当に永遠に別れた。出会ってから2か月が経っていた。(あぁ、終わったんだなぁ)、そう何度も何度も自分に言い聞かせるように呟き続けた。
*
最終日も、私たちは私たちのルーティンをした。
いつもの食堂でヌードルを食べ、そのはす向かいにあるカフェでコーヒーを飲んだ。
私は旅帳のほかに、出会った人に一言をもらう「出会い帳」みたいなノートを用意していたのでジョンにも「何か書いて」と頼む。しばらくそのノートを眺めて彼は「今さら何を書け、と」と笑った。
そうだ、私たちは彼のラブレターで距離が縮まり、ことあるごとに手紙を交換し続けた。それも日々、これ以上ないほど語り尽くした上で…。それでも彼は書いてくれた。その様子を眺めながら、私はコーヒーを飲み続けた。もう見慣れたなで肩が、書き物をするためにさらに傾斜を増す。その姿さえ、愛おしい。
書き終わり「絶対後で読んでね」とそのノートが私の手元に戻ってきた。私の中で、今日するべきことはできた、と思った。
日中、彼がバイクの最終調整で部屋を開けるあいだにこっそり読んだ。
彼の想いは、まるで詩みたいだ。イタリア人なのに英語でこんなにナチュラルに美しい文章を書くなんて。これはもう才能だろう。そして悔しいけれど、その文章に私は胸が引き裂かれそうになり、号泣した。彼は私のことをしっかり見てくれていたと思う、愛を持って。その上で、一緒に旅ができないと言った。もうそれは、どうあがいても変えられない事実なのだ。
日中はまた彼はバイクの保管場所に向かった。最後の調整をして引き上げて来ると言う。そう、彼にとっても出発の日なのだ。私の出発まで、あと何時間一緒に過ごせるかもわからない。私の表情は晴れず、心もズンと重かった…。
出発まで荷物も置きたいからと、一泊分払って部屋をキープしていたおかげで最後までバタバタせずに過ごすことができた。いったん部屋に戻り、彼が戻るまでに返事を書くことにする。
口頭でも日々伝えてきたけえれど、私が後悔しないために、彼に対する私の想いをネガティブなものからポジティブなものまで溢れ出る感情と共に、一気に書き上げた。最後はもちろん「I love you」で締めくくった。一番伝えたいことは、シンプルにそれだけ。
書き終わってしまうと、妙にスッキリとあっさりとした気分になった。まるで憑きものが取れたみたいな、そんなスコンと抜けた感じ。
私の出発は午後7時。一時間半前になりやっと戻ってきたジョン。
「miaの出発まで時間がないから急いでするため、なーんにも食べてない!腹減った!」と勢いよく帰って来たから、屋台のパッタイとパンケーキを食べに飛び出した彼につき合った。
部屋に戻り、お互いの気持ちを確認するように過ごした。いつも通り笑ってじゃれて楽しい時間…。でもときどき目に入る時計は、過ぎていく時間を刻々と告げる。嫌でも目に入る数字…6:00, 6:15, 6:30。
たまらずまた泣き出した私に「I'm sorry, I feel guilty(to make you cry like this)」とジョン。謝られても困る、罪悪感を感じられても困る。もうわかってるから、これで本当にバイバイなんだ。誰が悪いわけでもない、頭ではよくわかっているから。
私が乗るバスは、私たちが出会った宿の前でピックアップしてくれることになっていた。重い気持ちを抱えて2人でそこへ向かう。たまたまその日はピックアップが遅れていて、私たちは思い出のその場所を写真を撮って回った。よく一緒にコーヒーシェイクを飲んだカフェで、よく偶然出くわした階段で、色んな気持ちで行き来した303と304の部屋の前で…それらのシーンをなぞるように…。ジョンが突然304の部屋をノックして走って逃げたときにはびっくりした。「だってmiaの部屋なのに!」って。笑
結局、20分遅れて迎えが来た。この20分はまるで神様が私たちにくれた最後のプレゼントみたいだと思った。
2回ハグをして、2回キスをした。
「バイバイ、ありがとう、チャオ!」。そう言って私は笑顔で手を振った。今度は私は絶対笑っていたと思う。この別れまでずーっとめそめそ泣き続けたのが無駄じゃないと思えた瞬間だった。
彼と別れて迎えのバイクは、集合場所まで連れていってくれた。
この別れの後、不思議と周りの人たちが優しくしてくれるのに気づく。
それは単純にかけてくれる言葉だったり、向けてくれる笑顔だったりするのだけど、私を助けてくれたことに違いはない。バスに乗り込むとき、スタッフとして働いていた日本人の男の子の「よい旅を!」にさえ、私の心は温かく満たされていった。
大丈夫だ、大丈夫。外側の状態がいいときは、私の状態がいいということだよ。私は、私の旅はここから最高のリ・スタートを切るんだ。
ジョンといるとき、私は最高に幸せな私になる。
ジョンとないとき、私は何もないただの私になる。
これからはずっと「ただの私」に戻る。大丈夫、今までずっとそうだったんだ。最高の幸せを知るまでも、私はちゃんと幸せだったのだから。今はそこにこの数か月の記憶と体験が加わっている。
「You are part of me now」「I love you」
彼が出会い帳に書いてくれた、これらの言葉をお守りみたいに心の中で反芻して、私も私の旅へ戻る。世界一周のはじまりを想うときはいつも、ジョンという存在を思い出すのだろう。最高のスタートを切らせてくれて、本当にありがとう!
乗り込んだそのバスは、ラオスへ向けて夜のバンコクをゆっくりと走り出した。リベンジのラオス、最高に楽しんでみせると心に決めたけれど、私はまたバスの中でグズグズと泣き続けていた。バンコクの夜景は涙でにじみ、ぼやけている。
しばらく泣き続けて、疲れて、いつの間にか眠りに落ちていた。