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#95 教室の中のあやうい多数決!

 「多数決は日本の選挙でも使われている、民主的な方法だ。」確かにそうかもしれません。ただし、安易に多数決で決めてしまうことはある意味民主主義の衰退をまねくものだと私は思っていました。 

 複数のことから1つを選ぶとき、教室では多数決がよく使われています。でも、この教室で行われている多数決、私はかなり危ういと思っていました。だから私は極力多数決は使わないようにしていました。

 まず多数決のメリットとディメリットについて考えてみましょう。

 多数決のメリット

 多くの人が納得した意見が決定がされるので、ある意味最大多数の判断で決定できる。

 時間内で決定することができる。(決定までの時間を短縮できる。)

多数決のディメリット

 多数派の人間が仲間内だけの狭い了見で物事を判断して、判断の誤りなど見落としてしまう場合がある。

 仮に筋の通った意見であっても少数派であればその意見が通らない

 具体的な例を挙げて説明します。

 クラスでお楽しみ会をするために話し合いをしています。みんなで何をしようか子どもたちに話し合わせます。運動好きな子どもたちはドッジボールやサッカーを提案します。あまり体を動かすことが好きではない子たちは、ゲーム大会を提案したとします。

 サッカー、ドッジボール、ゲーム大会の3つが出されました。

①先生が子ども任せに話し合わせていると、子どもたちはこの3つからすぐに多数決で1つを決定しようとします。(恐ろしい!最悪の多数決)

②3つの意見が出されたあと、それぞれの提案者になぜお楽しみ会でみんなでそれをしたいのか話してもらってから多数決をする。(これでもまずい!でも①よりはマシである)

③質問がある子どもに質問させ、提案者に答えてもらう質疑の時間を設けてから多数決をとる(少しはマシになってきたがこれでも多数決はまだ危険)

④教師が子どもたちから出た意見を整理してあげる。さらに子どもたちから出ていない問題点や視点を出してみんなに考えさせてから、最終的に多数決を取る。(これでもまだ十分とはいえないかもしれない)

①~③の段階で多数決をとって決めてしまうことが案外多いのではないでしょうか。こんな多数決を経験していくと子どもたちは話し合いを深めて妥協点を探ることができなくなってしまいます。①~③で多数決なら教師はいらないと思います。この場合教師の役割は何でしょうか?

④で初めて教師の出番になりますが、私だったらまず①~③まで子どもたちだけで進めてきたことに対して褒めることから始めます。そして出された3つの活動について出された意見を整理して話します。(これは子どもたちの頭の中を整理するために間をとるためにする)そしてこの後が一番肝心な教師の出番です。この話し合いの目的を子どもたちに確認させる問いかけをするのです。

先生「ねぇ、みんな。お楽しみ会をする目的は何だっけ?」「何のためにお楽しみ会をするんだっけ?」

子ども「それは、みんなで楽しみたいから。」

先生「なんで楽しみたいの?」

子ども「みんなで仲良くしたいから」

先生「なんでみんなで仲良くするの?」

子ども「みんなで協力してもっといいクラスにしたいから」

先生「じゃあみんなに問いかけます。提案された3つの活動について一人一人頭の中で次のことを考えてみてください。(口に出してはいけません)」

先生「この3つの中でみんなで一番楽しめると思う活動は?みんなで一番仲良くできそうな活動は?もっとよいクラスに一番近づけそうな活動は?自分がそう思う活動に手を上げてくださいね。それと、多数決で決まった後で不満や文句は一切言わないこと!」

 多数決をする前に教師がしなければいけないことは、①活動の本来の目的を確認させること②その目的の視点から3つの活動のどれがふさわしいか考えさせる間を取ること③多数決で決まった後に不満や文句は言わないことと自分たちの意見が通ったからといって「やった!」「イェーイ!」などの反応はしないこと(意見が通らなかった子どもへの配慮)を約束させてから最終的に多数決をすることだと思います。

 多数決という多数派の意見を採用する決め方を実施する上で絶対しなくてはいけないことは、①子どもたちが話し合いを始める前に、決め方(話あって決まらなかった場合は最終的に多数決もあり得ること)を事前に知らせておくこと②多数決の前段で子どもたちに意見が出尽くすまで話し合いをさせることです。

 子どもたちは広い視野から総合的に判断することがまだできません。だから、そこは教師が補足して子どもたちが気づいていない判断のための視点を加えていかなければいけません。もちろん教師が言わなくても前段の子どもたちの話し合いの中でそれが出てくればなおさらよいわけですが。

 そして最終的に多数決で決めるのですが、教師の役割はこれで終わりではありません。まだ大事な教師の役割があります。

 それは、多数決後意見が通らなかった子どもたちへの配慮を忘れないことです。自分たちの意見が通らなかった子どもたちにとって、決まった活動に賛成したくない理由が必ずあるはずです。例えば多数決の結果ドッジボールに決まったとしたら、ゲーム大会がしたかった子にとっては、「ボールが怖い」とか「外野に出た後、何もできなくてつまらない」などのそれなりの理由が必ずあるはずです。そのような少数意見をすくってあげるのが教師の役割です。みんなで楽しくドッジボールをすることが目的なわけですから。もちろん多数決で決定したことを覆すことはできませんが、「柔らかいボールを使う」とか「外野に出ても2分たったら復活してよい」などルールを工夫していけばいいのです。(できればルールの工夫も子どもたちが考え出せるとよい)

 そして実施した後、目的だった楽しい活動ができたのか、もっとよいクラスになったのか、教師は振り返らせる必要があります。このような決め方を何度か繰り返していくと、子どもの集団の中で話し合いを深めることやその後の多数決が身についてくるものです。子どもたちが話し合って決める活動には教師の見えない緻密な配慮が十分なされなくてはいけないのです。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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