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#93 よく考えた方が間違えない。本当にそうでしょうか?

 人間は同じ過ちを繰り返して、「あまり賢くない」といえば、確かにそうかもしれませんが、もし人間が本当に愚かな存在であったとしたら、今ごろ人類はとっくに絶滅したに違いありません。でもそうなっていないのは、人間はまちがいを繰り返したり、愚かな側面はあるにせよ、大筋では正しい判断ができていたから、絶滅することなく今に至っているのだと思います。
 原始時代、猛獣に出くわしたり、山から岩が落ちてきたりしたとき、そこでいちいち熟考していたら命がいくつあっても足りなかったと思います。つまり、我々の祖先はそのような場合に何をなすべきかを、瞬時に判断して回避の行動を取っていたのだと思います。そのDNAを我々は受け継いでいるので、同じことができないわけはないと思います。
 「よく考えた方が間違えない」普通は常識的に誰しも異論はないと思います。試験のように最初から出題範囲が決まっていたり、答えが決まっているような学校のテストのような場合は、もちろんよく考えた方が間違えないと思います。しかし、現代の社会で生活する上で、様々な問題を解決するのに「時間をかけてよく考える」というのは必ずしも正しいとは限らないと思います。そこには結果に影響を与える変数が無限にあるので、時間をかけて詳細に検討しても、判断の精度はそれほど上がらないと思います。むしろ、判断に時間をかけたことで、そこに欲(損得勘定)や希望的観測などの余計なノイズ(要素)が入り込んでしまい逆に判断の精度が落ちてしまいかねないといったことも、十分考えられるからです。


 (AUP)立命館アジア太平洋大学の学長の出口治明さんは、著書「カベを壊す思考法」の中で以下のようなことを述べています。

 私は「直感」で判断することが大切だと思っています。ただし、この直感というのは「何も考えずにやみくもに決める」ことではありません。私たち人間の脳は、問題に直面した瞬間に、頭の中に蓄積されている情報や経験を高速でサーチして適切な答えを導き出すようにできているのだと思います。つまり、脳が最速で必要な情報処理を行った結果が「直感」なのだと思います。
 直感の精度はその人の脳の中の情報や経験の集積の量で決まると思います。だからこそ、日ごろから読書をしたり、経験の幅を拡げ集積量を増やしておくことが大事だと思います。
 特に直感の精度の高さが求められるのは、リーダーだと思います。リーダーとは、別の言い方をするならば、「わからないことを決められる人」ともいえると思います。
 現場や実態を一番よく知っているのは、当事者であり、上司や管理職はその詳細まで分からないのが普通だと思います。その分からない中で日々多くの判断をしていくことこそがリーダーの役割といえると思います。
 ある日の午前中に次の会議の提案資料の作成について2人の部下に頼んだとしましょう。Aさんはその日の午後の早い時間に提出しました。必要な事柄だけを盛り込んだシンプルな提案でした。誤字や脱字が何カ所かありました。一方もう一人のBさんは翌日の会議の直前まで時間をかけて、レイアウトや色使いにも気をつかった立派なできばえでした。
 さて、この場合評価が高いのはどちらでしょうか。
 これからの時代、間違いなくAさんの方が高い評価になると思います。なぜなら、早く手元にもらえるならば、それを見て追加資料を用意したり、次の戦略を練ったりできるからです。多少誤字や脱字があったとしても、できあがりが早い分、修正の時間が十分にとれます。かたやBさんはいくらできばえがよかったとしても、「時間をかけたのだから当たり前」という目で見られ、苦労のわりには報われないといっていいでしょう。
 これまでの日本の社会に多かったのは圧倒的にBさんタイプだったと思います。それは「時間をかけてもミスのない完璧なものを作ることが重要だ」と考えられてきたのは、時間も経営資源も無限だという錯覚の代物です。長時間残業の問題も元をただせば日本人のこの完璧主義と無縁ではありません。

 しかし、これからの時代はBさんのようなやり方を踏襲してもうまくいかないと思います。なぜならこれからの人に求められるのは、全てをゼロから考え、新しい価値体系を構築していくことだからです。そのために毎度時間をかけて一つ一つのことにじっくり取り組むなどといった悠長なことをいっている余裕は、会社にも学校にもないからです。猛スピードで考え、次々と試行錯誤を繰り返して判断して行動していかなくてはいけないからです。
 そういう点では、よい手本となるのが優秀なサッカー選手ではないでしょうか。彼らはボールをもらったときに、パスをするのかドリブルをするのか、それともシュートをするのかを一瞬で判断しています。下手な選手はこのときに迷ってしまうので、相手に詰め寄られてボールを取られてしまうのです。
 ですから、「小さなことでもすぐにどうするかを決めて早く行動を起こす」ことを日ごろからするように自ら訓練していかなければいけません。判断に迷っているときは、「仮決め」でもいいので、とにかく一旦結論を出すこと。決めてしまうことが重要なのだと思います。あとになって間違っていたことが分かれば、そこで修正すればいいのです。判断材料が決定的に不足していてどうしても保留せざるを得ない場合にも、そのままにはせず「今日のところは保留し3日後に結論を出す」と決めることです。
 一番まずいのは、課題に対して優柔不断な態度を取ることです。なぜなら宙ぶらりんの時間は何も生み出さないからです。たとえ仮決めでも結論を出してしまえば、それがよかったのかよくなかったのか否が応でも私たちは考えて判断せざるを得なくなるので否応なく思考が深まります。また一つ判断して行動を起こせば、それに対して必ず反応が起きるものです。そしたらそこでまたベストだと思える行動を取ればいい。そうすることによって状況はまちがいなくよい方向に動いていくと思います。
 それから自分で決めてやり始めたことは新鮮なうちに一気にやりきってしまうことがスピードを上げるコツだと言えます。課題にも「鮮度」があって、最も集中できるのは、取り組み始めた新鮮なときです。集中力が落ちた状態で長時間一つの課題にかかわるのは、労働生産性の点からも非効率的だと言えます。だからやると決めたらその日のうちにやり終えてしまうのです。
 時間というものは誰にとっても有限な資源です。それを効率的かつ有効に使える人は、今後社会の中でますます評価されていくと思います。

 思考の時間が短くてすむのは、深く考える訓練ができているからだとも言えます。眠りが深い人が短時間睡眠でも頭がすっきりするのと同じで、思考も深めれば深めるほど時間をかける必要がなくなってくるものだと思います。カギは集中力ではないでしょうか。そのためスピードはその人の生産性を決定づける重要な要因です。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。



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