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#57 親学(育自学)のすすめ

 今教育で一番問題なのは、子どもの心のコップが下を向いていると言われていることです。心のコップが下を向いているとはどういうことかというと、自己肯定感・自尊感情・自信が、子どもたちに育っていないということです。だからどんなに愛情を込めて関わっても水は入っていきません。

 少し時間が経った統計ですが、2007年の高校生調査で「偉くなりたい」と答えたのは、日本ではわずか8%でした。アメリカでは34%、中国・韓国でも20%を超えています。日本は極端に低いことがわかります。今の若者たちは、「社長になって、大臣になって、博士になって幸せか」と実に鋭いことを問い始めているのです。じゃあ、どういう価値観が広まっているのかというと、「のんびりと暮らしていきたい」。日本の高校生はなんと43%。アメリカ・中国・韓国は2割程度です。そして、「自分の会社や店を持ちたい」については、日本14%、アメリカ・中国・韓国は約3割です。アメリカの高校生に「何になりたいか?」と聞いたら、断然、医者・弁護士です。中国の高校生に同じ質問をしたら断然社長です。日本はそうではありません。
  
 日本では、どうも大人たちも疲れているし、子どもたちも疲れている。そして、日本の教育は根が枯れ始めていて、幹も腐りかけている。それをいくら学校で頑張って先生方が対処療法でやっても、もう間に合わないのではないか。だから、まず親が親として成長し、幸せになること。そこに日本の教育と日本の将来の鍵があるのではないかと明星大学教授の髙橋史朗さんは主張しています。

 以下の文章は決して現代の親を批判しているのではなく、今、親にとって何が必要なのか、鋭く指摘したものとご理解してお読みいただければと思います。


「親学」では、親の愛情として「義愛」と「慈愛」という二つの愛を言っています。「義愛」とは子どもの壁になる愛情、父性的な愛です。この父性的な義愛、「ならぬものはならぬ」という語らいによって自制心が育つのです。「何も干渉しないから、自由に伸び伸び、思う通りにやりなさい」という愛情からは自制心は育ちません。中学生の8割に反抗期がなくなったという全国調査結果があります。なぜなくなったかと言えば、熱く語るお父さんがいなくなったからです。友だち親子になってしまったこと、これが家庭の一つの問題です。
 もう一つは、痛みを感じる心がなくなっていることです。
 これは「慈愛」、子どもの存在を丸ごと受け入れる母性的な愛を子どもが感じられていないことが原因です。「生まれてきてくれてありがとう」「頑張らなくていいのよ。あなたの存在そのものが宝だよ」という愛情によって、心のコップが初めて上を向くのです。ところが、そういう関わりがないために子どもに変化が生じております。

 そして、おじいちゃんおばあちゃんの影響もなくなってきています。学年テストの結果がいつも日本トップの○○県では、三世代同居が多く、おじいちゃんおばあちゃんの愛情が子どもたちを包んでいます。そして、地域社会の力もまだ生きています。
 しかし、そんな地域は多くありません。祖父母と地域社会の子育て支援力が低下して、お母さんは孤立し、お父さんは仕事で忙しい。そういう中で虐待が増えてきている。それが今の日本です。
 親が自分の成長のために親学を学び、よりよい子育てを多くの方にしていただければと思っております。
 日本青少年研究所の調査によれば、家庭の教育力の低下が日本では著しいです。例えば、テレビを見ながら食事をする。「先生や親の言うことをよく聞きなさい」「嘘をついてはいけません」「友だちと仲良くしなさい」と言わない。
 
万引きが起きている家庭は共通しています。大目に見る家庭です。例えば、スーパーで子どもが万引きをして親が呼ばれます。そのときに親が、「返せばいいんでしょう」と言うような家では万引きは止まりません。万引きは人間として許されない行為なのだということを親がしっかりと教えないといけないのです。
 万引き被害総額は年間4615億円。万引きで閉店になる書店が年間1000店を越えています。こんな国は世界にありません。家庭教育の衰退を物語っています。
 でも、元々日本はそういう国ではありませんでした。『逝きし世の面影』という本を読んでみますと、江戸時代の日本に来た100人を超える外国人がみんな、「日本の子どもは世界一幸せで、世界一礼儀正しい」「笑顔が溢れている。子どもの笑顔が大人たちを幸せに導いている」と言っています。
 子どもの無邪気な笑顔を見て大人も笑顔になる。そんな笑顔で溢れていたのが日本だったのです。「江戸しぐさ」というのがあります。なぜ江戸時代、日本の子どもは世界一礼儀正しかったのか。それは親が子どもの前で率先して実行したからです。
 子どもはそれを見て、親がするようにしたのです。だから、世界一礼儀正しかったのです。150年経って日本はすっかり変わってしまいました。おそらく江戸時代に来ていた外国人が今の日本を見たらびっくりするでしょう。いったいどうなってしまったのか、日本の親はどこへ消えてしまったのか、と。
 私は教育の問題を考えるときに、この問いが最も鋭い問いではないかと思います。
   「日本の親はどこへ消えてしまったのか」
 世界一幸せな子どもがいたのは、世界一幸せな家庭生活があったからだと思うのです。なぜ変わってしまったのか、どうすれば取り戻すことができるのか、これが親学の課題です。
 親が夢を持って元気であれば、子どもは元気になります。だから、まず親のあり方を問い直すことから、日本の教育を考える必要があるんじゃないかと考えているわけです。 

 日本のお父さんは経済成長のために頑張ってきました。しかし、今の子どもたちは、お父さんのようになりたいとは思っていません。「お父さんは頑張っているけど幸せじゃない」という価値観が子どもたちの中に生まれているのです。「子どもの幸福度調査」が行われて、「経済力と子どもの幸せは無関係だ」という結果が出ています。
 子どもが幸せを感じるのは、家族の温もり、人と人のつながりの温かさを感じたときだということがわかったのです。そして、本来、子どもに基本的な生活習慣を身に付けさせるのは親の役割なのですが、その親の役割がわからない人が増えてきています。


受容することと、わがままを放置することの区別がつかない。

②親自身の対人関係能力が衰退してきている。

 つまり、親が親として成長していないのです。親は、子どもを産んだら親になるわけではありません。子どもを産んだときは親1年生です。そして子どもの成長と共に、親2年生、親3年生になっていくわけです。親が親として成長するための学びをすることが、「親学」の大事な役割です。子どもにどう関わるかという理屈を学ぶのではなく、まず自分をしっかり見つめて「育自」、自分を育てることが大事なのです。
 動物学者のポルトマンが「人間は生理的早産だ」と言っています。人間は脳が未熟なまま産まれてくるようにつくられているということです。オギャーと産まれてから、親との関わりを通して、その子は初めて人間になっていくのです。
 ところが、愚かにも日本では、親と子が関わらない方向に向かっています。親学推進議員連盟の全国の勉強会に、保育園の代表の方に来てもらったことがあります。その方が「『待機児童ゼロ作戦』と言いますが、待機児童なんていません。待機親がいるだけです」と言っていました。
 子どもはできるだけ親と一緒にいたいと思っています。でも、「保育所に子どもを預けて働いたほうが得だ」という価値観の若いお母さんが増えているのです。
 日本の将来を考えたときに、大きな問題は少子化です。 
 明治維新の頃の人口と、今から100年後の人口は、ほぼ同じぐらいになると予想されています。ところが、少子化対策は全く成功していません。それは少子化対策が間違っているからです。
 松田茂樹という社会学者が『少子化論』という本の中で、そのことをしっかりと書いています。「現状の少子化対策が、多くの典型的な家族を支える政策になっていない」と。つまり、日本は働いている親の経済的負担の軽減に焦点が当てられて保育サービスの充実を一生懸命やってきました。でも、保育サービスを充実すればするほど、親が親として成長する機会が減ってしまう問題が生じるのです。
 例えば、保育園で鼻水を流している我が子を見たお母さんが、「うちの子の鼻水が出ている」と保育士さんを注意したそうです。「お金を払っているのだからサービスを受けるのは当然だ」と思っているのです。
 もちろん、女性の労働力を活用するという考え方は間違っているわけではありません。女性が元気に活躍することが、日本の経済力をアップさせることにつながることは間違いありません。
 でもそれと同時に、子どもが小さい間は育児に専念できるよう、育児休暇を取得して、親子で一緒に過ごす時間を充実させたほうがいいと思うのです。

 親が親として成長し、幸せになることが、子どもの健やかな成長と幸せにつながっていると私は信じております。親の変化と子どもの変化はつながっているのです。
 今、どのような子どもが目立ってきているか。

①乱暴な振る舞いをする

②自分を抑えられない

③他の子どもと上手く付き合っていけない

④対人関係能力・自己制御能力が未発達

 こういう問題が起きています。これが学級崩壊問題の根本にあります。 助産師さんから、こんな話を聞きました。オギャーと産まれて、まだへその緒が付いている段階で、お母さんが携帯でメールをしていたので、「他人にメールする前にわが子におっぱいを飲ませたらどうですか」と言ったところ、お母さんはムッとしたと言うのです。
 また、生後3か月の女の子がいるお母さんに、「タバコはおっぱいに悪いよ」と言ったら、「なら、おっぱいやめる」と言われたそうです。
 「子どもを持てば親は子の犠牲になるのはやむを得ない」という意識、世界の平均は72.6%ですが、日本の親は38.5%で、73か国中72番目です。親心というものが少しずつ日本でまちがいなく衰退し始めているのです。
 一方、10万人に1人と言われている難病の「先天性表皮水疱(ひょうひすいほう)症」を患った子どもがいます。お母さんの産道を通って出てくる時に皮がむけて産まれてきて、一生涯むけ続ける病気です。その子の親が何をするかというと、水ぶくれに針で穴を開けて水を抜き出し、軟こうを塗ってガーゼを当てて包帯を巻くのです。これを毎日やります。
 実は、この難病になった子は例外なく優しいといわれています。この難病になったことを恨んでいる子はいないそうです。そして、非常に成熟した心を持っているというのです。
 私は信じ難かったので、この病気を研究している大阪大学の玉井克人教授の研究室を訪ねました。ちょうど私が訪ねる前日に、この病気の子どもが来ていたそうです。その子のお父さんお母さんは心が下を向いていて元気がないのですが、その親を子どもが一生懸命励ましていたそうです。
 「お父さんお母さん、悲しまないで。僕がこの病気をもって生まれたのには必ず意味があるはずだから。だから元気出して」と。そして、最後に先生とハイタッチをして、「この研究、大事だから頑張ってください」と先生を励まして帰っていったと言うのです。
 なぜ、こんなに絶望的な病気になった子の心が健康なのか。
 玉井先生が行き着いた結論は「スキンシップ遺伝子がある」というものでした。スキンシップが子どもの脳や心を育てているのです。毎日、親が子どもの水ぶくれに針で穴を開けて水を抜き出し、軟こうを塗ってガーゼを当てて包帯を巻く。こういう大人の関わりが子どもの心を育てているのです。ぜひ子どもと積極的に関わってください。

 学力の格差は、これまでは都会と田舎の格差だとか、年収の格差、経済格差と言われてきました。しかし、大阪大学の調査で、「つながりの格差」だとわかってきました。
 つながりには三つの指標があります。「家族のつながり」「地域のつながり」「学校とのつながり」、この三つのつながりが深ければ深いほど学力が高い。○○県はこの三つがすべて優れています。明治31年に、当時の高等小学校で親に配っていたものに『家庭心得』というものがあります。ここには保護者への注意としてこう書いてあります。
 「ことわざにも教育の道は、家庭の教えで芽を出し、学校の教えで花が咲き、世間の教えで実が成る、と申す程に…」
 これが日本の教育の伝統です。家庭と学校と地域で子どもを育てることが日本の教育の伝統なのです。

 今、家庭の教えが衰退しているから芽が出ていません。芽が出ていない子を、学校の先生方が一生懸命教育しているのです。芽が出ていないものは花を咲かせようがありません。芽が出るようにまずは親を再生しなければ、日本の教育は再生できません。


 親学には二つの意味があると思います。「親になるための学び」と「親としての学び」です。子どもを産めば親になるのではないのです。親になる前に、親としての責任・役割は何なのかを学ぶ必要があるのです。
 そして、


 「学習」という言葉の意味が大事です。「学」は「まなぶ」です。「まなぶ」は「まねる」から来ています。誰のまねをするかというと、親のまねです。「習う」はどういう意味かというと、繰り返し、繰り返し、慣れるという意味です。つまり、親のまねを繰り返して、慣れることが「学習」なのです。「学習」とは本来、親の役割、家庭教育の意味を表しています。

 親学とは「育自学」です。普通の育児は児童の「児」で、子どもをどう育てるかという意味ですが、まず、自らをどう育てるか、つまり自分が元気になる、自分が幸せになる、自分が夢を持つことが大事だと強調しています。子どもに「夢を持て」と言うならば、親や先生たちが、夢に向かって挑戦している姿を子どもたちに見せる必要があると思います。子どもは大人から学ぶのではなく、学んでいる大人、学ぼうとしている大人から学ぶと言われています。
 親学の一番大事なポイントは、親自らが成長すること、これを「主体変容」と言うそうです。子どもを変えようとしても子どもは変わりません。でも、親が変われば子どもは変わります。大人が変われば子どもは変わるのです。自分以外の誰かに責任を転嫁するのではなくて、自分が変わることによって子どもは変わるということです。ですからまず育自をすることから始めることが大事ですね。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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